無間城の戦い 1
当初の予定通りに離陸することに成功した俺達はその後素早く戦線へと参加、多くの飛空挺が大空を支配し、陸地では大量の戦車や兵士達がひたすらに戦いの時を待ちわびているような状況、それは遂に現れた。
草原を挟んだ先、帝都から大分離れた場所に無間城は姿を現した。
その大きすぎる巨体を、帝城を逆さにしたようなシルエットが姿を現した途端、双方が一斉に攻撃を開始したのだ。
無間城のあらゆる場所から放射される攻撃はあっという間に各国軍へと届いていくが、無論それを全く読んでいない訳じゃ無い帝国軍は、至る所にシールドを展開する事で対抗。
下から上からドンドン攻撃が飛び交う中飛空挺は無間城から一定の距離を取った状態で旋回していた。
この状況で突っ込んでいけば作戦が無に帰す事ぐらい父さんでも分かりきっている。
だからこそ周囲を旋回してまずは無間城の攻撃をしっかりと見極めないといけない中、俺達上陸部隊も甲板から身を乗り出しそうになりながら無間城を見つめる。
するとジャック・アールグレイが二方向からの攻撃は一部手薄であるという事に気がついた。
それもどういうわけか上への攻撃だけが唯一手薄になっており、そこから突っ込んでいけば上陸すること自体は全く難しくない。
無論中にはそれが罠ではと疑う物も居るが、俺は多分罠で在り同時にボウガンが作った隙間なのだと理解した。
それはギルフォードも同じ意見だったようで、あれこそがボウガンが俺達のために作った無間城の隙なのだろう。
「突っ込んでいく上ではまるで問題はない気がするが、どのみち最低限の警戒はしておいた方が良さそうだな。少なくとも突っ込んでいけば簡単に戻れる事は無いだろう」
「ジャック・アールグレイの言うとおりと言うのが癪ですが、行く以上は決意をするべきでしょう。どのみち時間がありません。こうしている間も無間城は少しずつ接近しているのは確かなのですから」
「はい。第一結界を突破するまでもう早速時間がありません。各国軍の攻撃をまるで意に介していない所を見るとやはり外部による無間城そのものを攻撃しても攻略には成らないようです」
「なら突破するしかない。やはり中から攻略するしか無いのさ。ボウガン自身が己の目的を果たそうとしているからこそ作られている隙だ。そして、戦いの決着を付けようとするジェイドからすれば別段相手をする案件でも無いんだろうさ。ちゃんと戦って、ちゃんと決着を付けたい」
「それがジェイドの願いでもある。勝ち負けはあくまでも結果論だな。要するに戦いの場を用意し、自分が勝てば自分の願いを、俺達が勝てば俺達の願いを叶える。あくまでもジェイドはそこだけに興味があるんだ」
どっちが正しいのか戦いによる結果で決め、その結果を優先して動く。
ある意味理解はしやすい考え方でもあるが、同時にそんな考えだからこそボウガンなどが意図的に隙をつくろうとしたときに敢えて止めないのだ。
勝負の土俵に俺達を導きたいが、立場上する事は出来ないから敢えてボウガンの行動を見過ごさない。
「キューティクルやカールやメメントモリはどうなんだろうな。私としては二カ所の攻撃が甘いというのが少し気になるな。ボウガン以外にもう一人居るということになるが」
そうなんだ。
先ほどの話の中で俺が気になっていたのはそこで在り、攻撃が甘い部分が二カ所ほどあり、その内一カ所はボウガンなのだとしてもう一人は誰だ?
この無間城の仕組み上恐らく攻撃システムの類いはジェイド達でコントロール出来るようになっているのだとして、それもコントロール出来るのは一部分だと仮定して、その上でそのように動いている面々がいる。
それもボウガン以外にもう一人。
「カールでは無いでしょう。彼女の性格やジェイドさんへの態度を考えれば幾らジェイドが戦いたいと考えてもそれを意図的に尊重することは無いでしょう」
「だな。それと同じ理由で立場あるジェイドがそれをカールに頼むとも思えない。なら必然的にキューティクルかメメントモリという話になるが…正直あまり想像出来ない。此所であいつらがいれば分かるかもしれないんだがな…」
現在竜達の殆どは無間城の周りで飛び回って無間城からの攻撃から陸軍や空軍を守ったり、対空砲かを少しでもマシにしようと試みている。
故に知識を借り受ける事は出来ない。
「キューティクルがそんな事をしますか? むしろそんな事を考えるぐらいなら嫌がらせみたいに邪魔をするだけな気がしますが…」
「行ってみれば分かる事さ。誰が対空砲火を止めているのか行けばわかるさ。最もそのもう一人が名乗り出ればだがな」
「何が言いたい? ジャック・アールグレイ」
「良いや。別に。ボウガンが計画達成を目的に動いているのなら、そいつも同じなのかと思ってな。ジェイドを邪魔だって考えている奴もいるんじゃ無いかと思っただけさ」
俺達はジャック・アールグレイが何を言っているのかまるで分からないで居ると、通信で父さんから連絡がやって来た。
「突入するぞ。甲板に居る面々は何かにしがみ付いてジッとしているんだ! まずシールドを前方方向に展開、その後着陸直前で下方向へと変更する! 舵を切りもう一度旋回してから突入だ!」
飛空挺が更にもう一回無間城上空を旋回して、隙になっている場所へと向って真っ正面から突っ込んでいく。
半透明のシールドが前方方向へと展開し、そのシールドに銃弾などが微かに着弾しているが、シールドがそんな事で壊れるわけが無くそのまま対空砲火を抜けた。
すると父さんは飛空挺前方に張って居たシールドを今度は下方向へと変更し、下から来る衝撃で船が物凄い揺れる。
ジュリが大きめの悲鳴を放つ中俺はジュリを優しく抱きしめて、決して離さないようにしていると、後ろからレクターが俺に向って舌打ちをした。
あいつ覚えていろよ。
絶対しばくからな。
「マズイ! 前方方向に巨大な建造物!」
海がそんな事を叫んだ瞬間確かに視界の先に塔のような建造物がハッキリと見えたのだ。
この状況で止められるかと思って俺が緑星剣を握りしめていると、急に飛空挺に急なブレーキ音が響き渡った。
一体何事かと思って身構えたが、そのまま建造物へとぶつかるあと数センチで飛空挺は完全に止まった。
「ジュリか? 今の」
「うん。シールドの摩擦を強くして急なブレーキを掛けたの。ギリギリだけど空気を一部クッション状に変換して衝撃にも備えたから。ギリギリで間に合って良かった」
「良くあんなギリギリの状態で間に合いましたね」
「ジュリさんだから出来たのですね。降りましょう。例の敵というのがどこに居るのか分からない以上は早めに行動に移した方が良いでしょう」
「少なくともこの辺りには居ないところを見ると、外には居ないのかもな」
俺はそんな事を言いながらジュリをお姫様抱っこで持ち上げて外へと飛び降りるが、そんな中でもレクターが舌打ちをしてくる。
流石に我慢の限界に達した俺はジュリを優しく且つ素早く下ろしてからレクターを睨む。
「何なんだ!? さっきから俺の行動に一回一回舌打ちして! 何が不満だ!?」
「リア充を見せつける! 嫌みか!」
「お前が勝手にそう受け取るだけだろうが! モテない理由に他人を使うんじゃねぇよ! お前がモテないのはお前に空気を読むというスキルが足りないからだ!」
「お前達は元気だな。なんでそんな感じなんだ?」
ギルフォードが「やれやれ」と言いながら飛び降り、周囲を探索し始める。
それに続けとジャック・アールグレイ、ケビン、アンヌ、海という順に降りて、最後にギャアコラと五月蠅いレクターが飛び降りたのだった。




