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前夜祭 2

 俺達は帰ってきてから急いで紅茶を入れてみることにし、ブライトのその間に俺と一緒に新しいお菓子を開けて大きめなお皿に入れて準備、その後一緒に俺の部屋まで戻ってドアを開けるとレクターは未だに土下座をしていた。

 海が俺達の方を見た後直ぐにレクターの方を見て肩をすくめるのだが、このときの海の顔は困り顔である。

 気持ちは分からないでも無いが、こいつなんで未だに土下座してんの?

 そう思って俺はレクターに話しかけようと近付いていき肩を揺さぶるのだが、まるで反応が無い。

 流石にジュリが可哀想に思えたのか話しかけようと近付いたところで俺はとある結論に至ってしまう。

 こいつ…寝ているのだ。

 土下座したまま。

 器用な奴だと思って無視することにし、ジュリにも「いいよ」と言って俺達は床に直接座ったわけだが、そんな状態でブライトはここに居ないアカシを気に掛けていた。

 アカシは中国での戦いでのダメージが予想以上に大きかったようで、今は病院で大人しくしており、エアロードとシャドウバイヤは俺からの指示の元作戦開始時刻までそこに居ろと命じてある。

 当初はギャアコラと五月蠅かったのだが、流石に俺とブライトが軽く睨み付けてやると黙って言うことを聞いてくれた。

 普段からあれぐらい真面目に話を聞けば良いのにな…あの二人はどうにも反抗的な部分が強いんだよな。

 因みにオールバーは海の右隣でクッキーをサクサクと食べているのだが、その時の食べ具合はリスみたいな感じに見えてしまう。


「何時から寝たんだ? こいつ…」

「ソラ達が出て行って直ぐに寝ましたよ。即落ちでした」

「この体勢で寝てキツくないのかな?」

「え? 気にする部分そこ? もっと他に無い? こう…馬鹿っぽいとかさ」


 凄い馬鹿っぽい格好で寝ていると思うし、何よりも何故土下座した状態で寝ることが出来るのか不思議で成らない。

 普通土下座しているときに寝ると言うことは起きないと思うのだが、こいつは土下座ですらもやはり心を込めていなかったという分かりやすい証明に成って閉まった。

 俺はジュリが用意してくれた紅茶を一口だけ飲んでその後クッキーに手を伸ばす。

 ブライトも紅茶にたっぷりのミルクを入れて飲み始めるが、どうやら甘みが足りないらしく顔を少ししかめていた。

 俺は角砂糖を一粒だけ入れてやると、ブライトは丁度良い甘みになったのか笑顔が綻ぶ。


「出立前にアカシに会いに行きたいよ…ソラ」

「そうだな…容態も少し聞きたいし…確かアンヌとレクトアイムが見て居てくれるんだったか?」

「うん。そう言ってくれたよ。そうしたらエアロードさんとシャドウバイヤさんは「我々は要らない気がする」って訴えてきたけどね」

「それも俺の睨みの前で黙り込んだけどな」

「そんな事より君達は良く紅茶は飲むのかな?」


 オールバーが唐突に俺に対してそんな事を聞いてくるので俺達三人は少し思案顔に成ってしまった。

 先に答えたのはジュリ。


「私はその時の気分で変えるかな…最近はハーブティーも好きだし」

「僕はコーヒーの方が多いけど…今の家族は紅茶派が多い感じだね」

「俺はどれでも良いんだけどな…ただ昔っから母さんが日本茶が好きで良く買ってきていたから個人的には紅茶かコーヒーが好きだな。でもどうして聞いたんだ?」

「そうか…コーヒーの良さは良く分からんが、この紅茶というのは美味しいなと思ってな。でだ…どうしてレモンの薄切りやらミルクやらが置かれている?」

「紅茶は茶葉の種類でも色々と変わってくるけど、何を入れるかでもまた変わるんだ。定番はレモンやミルクかな」

「ほほう…だからブライトはミルクなんだな? では我はこのレモンの薄切りで行こう」


 そう言ってオールバーは自分の紅茶にレモンの薄切りをそっと入れてから自分でスプーンを使ってグルグルと回していき最後に一口飲んで味を楽しむ。

 紅茶は嗅覚と味覚を使って楽しむ飲み物だからな、得に紅茶はその辺が強く茶葉によって様々だったりする。


「うん。美味しいな。帝国ではこの紅茶が有名なのか?」

「どうだろうな…土地柄そこまでじゃない気がするけどな。強いて言うなら両方だろうな…」

「だね。紅茶もコーヒーも外部からの輸入で入ってきた文化だし、今では帝国内でも有名な栽培場所もあるぐらいだし…一度行ってみたいんだよね」

「ああ。南東の山間部にある『フォーム』だろう? なだらかな斜面に広がる茶葉の生産場所だろう? あれ? でもたしかあそこって二年前に行くかどうか聞かれなかったか? 俺は別の場所が良いって選択した気がするが」

「うん。ソラ君やレクター君と一緒に行った『オルムガイ』も魅力的だったしね。今年は行きたいな…って」

「今年って? ソラ達は何処か行くんです?」

「? ああ。海は知らないのか。中等部と高等部と大学部で毎年二年になると選択式の演習授業が秋頃に組まれているんだ。オルムガイやフォームは毎年必ず名前が載るからさ…」

「それって絶対なんです?」

「ああ。と言うか今年からは特務科が復活する予定になっているからどうなるか分からないんだよな…」


 特務科は色々と例外が働くので授業内容もごっそり変更が起きる可能性もある。

 特務科はそもそも授業への参加義務が存在しないし、その代わり軍からの依頼を優先して参加しても良いのだ。

 それ以外の学科に存在している『必須科目の出席単位とテストや論文提出』が存在しないので、軍からの依頼さえキチンとこなせば基本卒業できる。

 なので俺達はそもそもその演習授業がどのような形になるのか分からないのだ。

 下手をすればなくなる可能性すらある。


「特務科は人数が偉い少ないからな…マジで下手をするとその選択式の演習授業が無いという可能性もある」

「そうなんですか…残念ですね」

「え!? 選択式の演習授業無いの!?」

「あ。レクターが復活した」


 ブライトがスコーンにイチゴジャムを付けた状態でほおばりながらそんな事を告げた。

 レクターが顔だけを俺達の方へと向けて驚き顔をするのだが、とりあえずと思って全員でレクターに「おはよう」と言っておいた。


「なんで紅茶があるの?」

「え? 会話の視点はそこにズレるわけ? と言われてもな…どうなるか分からないから「無くなるかも」って話だよ。あるかもしれないし、無いかもしれない」

「ええ…何々? 学校側へとボイコットすればいいわけ?」


 本当にやるそうで困る奴だ。

 やったら見捨てるけど。


「やったら見捨てるからな。庇わないぞ…。それならそれで俺は良いさ」

「ええ!? 俺やだ! 他の生徒が演習授業を受けている最中に家で暇しているとか超つまらん!」

「学校に行くという選択肢がまず出てこないお前は本当に残念だな。どうなるか分からないから何を言っても無駄だ。せめて公開されてから言うか…先生にでも聞け」


 そう言うとレクターはスマフォを取り出して何処かへと電話をかけ始めた。

 こいつマジで先生に聞いてやがる。

 まあ無視するとしてだ。


「選択しきっていつ頃に決めるんですか?」

「新年度の初めに学校側から聞き取りがあり、答えると決定だ。途中で変更はもうきかない。選択期間は大体一週間程度で、それを超えると先生が人数が少ない場所に自動で割り振られる」

「最悪ですね。でも…そんな生徒居るんですか?」

「居るらしいの。毎年二、三人程度だけど居るらしいの。ボーっと生活している生徒とか、部活動とかに必死で何も考えていない生徒とか…かな」

「あるらしいじゃん! もう…」

「真面目に聞いたのか? 分からないって話をしたんだ。それに…当日軍からの依頼があったら話は別だぞ」


 顔面蒼白とはこういう顔をしているんだと教えてくれるレクターだった。


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