北京跡地攻防戦 17
キューティクルが本気を出すという事自体珍しいのではと思ったのは決して俺だけではないはずだ。
ニューヨークでの戦いの時も、今までの戦いだってこの女何処かで遊ぼうとするきらいがあるので、どうしても本気で戦うと言うことはあまりない。
その上負けそうになったり負けると物凄い言い訳じみた事をしながら去って行く印象があるが、やはり今まで敢えて手加減して居たのだろう。
彼女は露出度の高い真っ黒なドレスにチェンジし、敢えて胸モノを激しく露出しつつ両腕には黒く艶々な色合いの長手袋を嵌め、同じく黒く艶のあるヒールを履いている。
どう考えてもあまり戦う際の姿とは思えないが、男子代表として言わせて貰えると凄い戦いにくいが、女性陣は流石に全く気にしていないようだった。
レクターは興味津々でジロジロと見つめており、海も俺同様どうやら戦い辛いという感じで顔を背けそうになっていたのだが、ブライトを含めて竜達はイマイチ俺達男性陣の態度が理解出来ないようだ。
「あら。ウブなのね。別段そういう意図があったわけじゃないけど…これも悪くないわね…じゃあ戦おうかしら?」
そんな事を言った後で彼女の体一瞬で消えたかと思うと、俺達のど真ん中に姿を現して黒い球体を右手の人差し指の上に作った真っ黒な艶のある球体、それを破裂させるのと同時に俺は走っていた。
狙ったのは瞬間移動で消えようとしているキューティクルではなく、そのキューティクルが置き土産代わりとして残していた黒い球体であり、俺はそれを真上へと打ち上げる。
遙か高くにある天井へと着弾すると、そのまま天井を抉りながら上へと登っていき、五秒後に『ドゴン』という音と共に天井を抉りながら大きな球体へと変貌すると、そのまま天井を球状に抉って消えた。
キューティクルは先ほどの場所まで戻っていたのだが、その時ケビンがシールドをキューティクル目掛けて投げ付けていた。
キューティクルは飛んでくるシールドを左腕で弾き落すのだが、ケビンは弾き落したシールドを光線で軌道を急変更させてからましたからキューティクルを責める。
キューティクルは後ろに一歩ほど引いて下から襲い来るシールドによる攻撃を完全に回避、後ろに回り込んだ海の攻撃を黒い何かを出現させて防御、海は一旦距離を開けると、先ほどまで海が居た場所にキューティクルは抉るように右手を振る。
何やら空間を抉っている気がするが、何せ見た感じではやはり分からない。
だが、やはり天井のダメージを見る限り限度はあるが、生身ぐらいなら簡単に抉れるのかもしれないと思って全員が踏み込むのを避けている。
俺はジュリを助ける事が出来る体制を何時でも作っており、キューティクルの動きに目を向けていると、彼女はその場でクルクルと回転し始めた。
何か意味がある行為なのかは分からなかったが、その内彼女は持って居なかったはずの死神鎌を右手に握りしめている。
「キューティクル様の不思議道具その一。円転の鎌。言っておくけど…これ実物の兵器だから異能殺しの剣では破壊できないわよ」
「みたいだな。でもハッキリとした感じで殺意みたいな感じなのを感じるんだけど?」
「貴女ではなく貴女が持っている鎌から感じるのですが?」
「それは感じるわよ。だってこの鎌は死神に憧れていた馬鹿な男が作った一品で、ひたすら命を刈り取る事だけを考えているから。草木を刈るように、命を刈り取る事を前提にした一品。結構良い品なのよ?」
「誰も欲しいなんて言っていないですし、何よりもそんな品が良い品だと言えるのはキッと貴女達ぐらいのモノでしょう?」
「でもこれ…売ると高いわよ? ジャック・アールグレイだっけ? あの男に言えば買値をアッサリ作るんじゃないかしら?」
作りそうで困る話で、この女が下手なことを言わないことを祈ろうと思っている。
こんな品をネットやオークションで売り飛ばされたらどんなヤバい術者に渡るか、もし渡ったり一般人の手に渡ればどんな悲劇が連鎖的に起きるか分かったモノじゃない。
彼女は菩薩のような微笑みを一旦作った後で俺の方目掛けて鎌を投げつける。
鎌はまるでブーメランの様にクルクルと回転しながら移動していき、俺は軌道ルートにジュリやアンヌがいることに気がついて異能殺しの剣で鎌を弾く。
弾かれた鎌はそのままキューティクルの手の中へと自然と治まっていき、彼女は今度は鎌は円状に振り抜いて黒い斬撃を飛ばす。
アンヌが氷で楯を作ろうとするが、その分厚い氷の盾をアッサリと音もなく切り裂いていき、俺はヤバいと感じて異能殺しの剣を繰り出すが、今度はアンヌは違う少し色の濃い氷を作って防いだ。
「へえ…ああ玄武の能力だったかしら? まあ良いか…結構楽しそうだし…そろそろ第二弾と生きましょうか?」
そう言うとキューティクルは指を軽く慣らして空間が少し揺れたような感じがしたが、するとキューティクルの目の前に糸で操られているような人形が現れた。
ぱっと見は人間に見えるのだが、関節部や口などの部分に人形としての特徴が残っている。
背丈から考えてモデルは大体「十代前半」といった具合、多分小学生の高学年ぐらいだろう。
「これも曰く付きの一品か? それともただの人形なのか?」
「曰く付きなわけ無いじゃない。ただの人形よ。最も…私の術で操れるようにしているけどね…人形だけど心を持たないだけで人のように行動する事が出来るの。しかも…」
キューティクルの命令には絶対なのだろう。
黙り込んだ先を何となく読んでしまった俺達、人形は全部で五体ほどなのだが、それもこれもが結構小さい差がある。
髪の色の差や男女の差があるのだが、背丈や体格などは殆ど一緒である。
多分これキューティクルが術を施さなくても物凄い一品に違いない。
「これ名のある人形師が作ったんじゃ…」
「知らないわ。ぱっと見が気に入って持っているだけだもの。人間に似ている方が術としては使いやすいからなんだけど…人形としての可愛さ? それは良く分からないわ」
「でしょうね。貴女のような悪魔がこんな出来の良い人形を持っている方が勿体ないでしょう。しかし…良い出来ですし…かなり価値のある一品ですが…」
ケビンも、ジュリも、アンヌも女性陣は皆「見たことがない」とハッキリと発言、此所に師匠がいれば(師匠は父さんに付いていった)教えてくれたかもしれない。
俺は服の中にいるブライトに聞いてみたが、ブライトも「知らない」とハッキリと否定。
ならあの人形はこの二つの世界の品ではないのではと思っていたが、操っている張本人であるキューティクルが否定した。
「この人形はこの世界の品よ。割と最近手に入れた奴だもん。まあ私は買えないから奪っただけだけど」
なら単純に知らないだけなのかと思っているとキューティクルはそれ以上話すことはないと言わんばかりに人形に「襲いなさい」と命令する。
顔を上げた人形達は小さめではあるが、量産した回転の鎌を装備していた。
人形のサイズに合わせて居るのだが、それでもそんな品をポンポン複製して欲しくない。
俺達に向って襲い掛ってくる人形の攻撃を俺は剣で受止めながらもキューティクルの方を見る。
すると意外な人物からその人形の正体を知れる事になった。
と言うかレクターだった。
「これってネルバム人形師の一品? うわぁ…一つ日本円で言えば百万かな? それぐらいする人形だよ。少数で生産して、代々受け継がれていくって聞いた事がある。しかも拠点を代を交代させる際に移動させるから拠点知らないんだって」
レクターが知っていたという状況が悔しかったのか、ケビンが凄い「忌々しい」みたいな顔をしていた。




