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北京跡地攻防戦 14

 俺達の目の前に居るキューティクルとカールが戦闘態勢に入った事を確認する前に俺は地面を力一杯蹴ってキューティクルへと向って接近していくのだが、キューティクルは右腕を一旦下へと向けた状態で力一杯振り上げた。

 すると俺の目の前から黒いヘドロのような物体が襲い掛ってきて、俺は異能殺しの剣を力一杯振り切ってヘドロを吹っ飛ばす。

 ヘドロが吹っ飛んで消えていくが、その僅かな間にキューティクルは姿を消していたが、俺は直ぐに跳躍し天井に張り付いているキューティクルへと向って斬りかかる。

 するとキューティクルはドレスの中から隠していたナイフを取り出して俺の斬撃を受止めるのだが、俺が斬りかかっているのは異能殺しの剣、と言う事はあのナイフは実際に存在している物体と言うことになる。

 この短時間で用意したと言うことになるのだ。


「貴方を相手にする以上は用意するでしょ? 斬りかかられたら私は困るし。まあ普通のナイフじゃないけど…」

「だろうな。見るからに殺意や憎悪を持っているのが分かるよ」


 するとキューティクルの後ろに回り込んだケビンがキューティクルの首目掛けて盾を振り抜くが、キューティクルはその攻撃を腕を硬化させて受止めた。

 器用なことが出来るものだと思っていると、下の方でも同じように戦いが始っている。

 カールへと氷に山を作って攻撃するアンヌへと熱量を持った光線を一直線に浴びせて溶かそうと試みる間、ジュリはそんなカールへと空気弾を撃ち込もうとする。

 しかし、カールはそんな空気弾を見ようともしないで背中に生えている翼で受止めた。

 レクターは右側に居る化け物へと殴りかかっていくのだが、あのレクターですらも一撃では倒しきれずに化け物は右腕で攻撃を受止めてレクターへと殴りかかる。

 後ろにバク転して回避しつつ足払いで化け物の体勢を崩そうとするが、化け物はそんなレクターの足払いを難なく受止める。

 明らかに体付きがおかしいと言わざる終えないが、それは海が相手をしている化け物も同じだったようだ。

 竜の焔で作り出した刀では傷がまるで付かないようで、海はオールバーと共に一旦後ろに距離を取りながら振り下ろされる拳による攻撃をギリギリで回避した。


「何でもあのウォンという男の最高傑作の一つらしいわよ。肉体の強度は勿論の事ながら、戦闘用のシステムも十分に備えているらしいわ。何でも貴方達の戦闘データを流用して通用出来る存在を作ったとか。まあ欠点は短命で精々一週間程度しか居きられないとか。まあ…関係ないわよね? あんた達すら相手になればいいわけだし…」

「ふざけるなよ。人の命を軽んじて作る兵器はもはや人道に反しているに決っているだろう」

「それにどうせ貴女が唆したのでしょう? 悪意を行動原理とするキューティクルなら唆していないはずがないはずです」

「よく出来ました。その通りよ。貴方達に勝ちたいって言っていたから私がウォンに提案したのよ。したらあの子達自分で実験体に成りたいって言い出すし、ウォンも全く躊躇いなく実験し始めるしで楽しかったわ。どうせそんな姿になっても勝てないのに…ああ聞いても理解出来ないか」

「この極悪人め…」

「所で質問です。ソラ・ウルベクト君。貴方は目の前で苦しんでいる少年がいます。その子は「お金がないと欲しいものが買えない」と言っています。金を与えますか?」

「与えない」


 端的に答えながら俺はキューティクルへと縦に切りかかるが、キューティクルはその攻撃を横に移動しながら回避してケビンが放つ光線攻撃をナイフで捌く。

 この状態で良くもまあ戦えるなと思っているが、俺からの答えに「でしょうね」と笑いながらも俺に向ってヘドロの固まりを三つほど飛ばしてくる。

 俺は後ろに探しながらも黒いヘドロを切り落としていき、一旦攻撃が止むと同時に駆け出して切りかかるが、キューティクルはその時には天井から地面へと降り立ち、天井に張り付いている俺達に黒いヘドロの固まりを今度が六個も飛ばしてくる。

 ケビンは盾を広域に展開して攻撃を回避し、俺は地面に降りたキューティクルへと素早く切りかかった。


「貴方はそういう人間よね。でも理由聞いて良い?」

「俺が助けるのは戦いの中で苦しんでいる人だけだ。その一線を超えるつもりはないし、超えたいとも思わない。俺は無責任な救済者には成りたくない」

「無責任ね…」


 その瞬間である。

 俺が振り下ろした攻撃よりも、それを回避したキューティクルの悪そうな笑顔より、キューティクルに攻撃しようとしたケビンよりもそっちがどうしても気になり三人でカールを見る。

 カールは憎悪を俺に向ってハッキリと飛ばし続けており、その表情は影が出来て覗えないが多分憎しみと怒りでグチャグチャになっていることだろう。


「キューティクル…貴女はまた」

「あらあら。私が何をしたのかしら? 私はこの少年に質問し、この少年は答えた。誰も悪くないわ。強いて言うならこの少年がカールの地雷を踏んだだけよ」

「それが悪意のある行動だと言っているのです。意図して質問したでしょう? こうなると踏んで」

「まあ…違うと言えば嘘になるわね。ほら私…嘘付けないから」


 「嘘付けないから」と言いながら真っ先に嘘を言うキューティクルに渋い顔をするケビン、明らかにこうなると分かって俺に質問し、俺の答えでカールがこうなると分かって誘導している。

 何よりも厄介なのはこの結果が何か意味があるかと言えば、ハッキリと言えるぐらいに「無い」のだ。

 悪意のままに行動しているキューティクルは、皆が困るであろう選択肢を提示し、その全てが空回りするように行動する傾向がある。

 あの実験体に成ってしまった人達だってそうだ。

 戦闘要員と言うことであれば幾らでも方法なんてあったはずだし、それこそ自前で調達することだって出来たし、それがコストになる訳がないのだ。

 なのにこのキューティクルという悪魔は敢えて身近に居た失態を負ってしまった人達を唆しているのだ。

 勝てるわけがない上に、時間稼ぎにしかならない彼等の命を簡単に支払っている上、その姿を見て楽しんでいる。


「無責任な救済者? 救われない私は…誰も救って来れなかったのに……困っていようが…」

「あらあら。トラウマスイッチオン? ボウガンに幾らか挑発してもボウガンは無視するし、あれはトラウマスイッチをオンにしてもまるで無反応なのよね。カールはこうなるわけだ…」

「どれだけ無責任なのですか? 貴女という女は!」

「無責任な救済者か…でも。誰だってそうなりたくないでしょう? 誰でも彼でも助けるって言うのは確かに無責任よね? 結局それって時の運よね?」


 そこにその人がいるのかは結局で時の運でしかなく、それを他人への恨みにするのは違うと思う。

 カールはどんな運命を辿り今に至ったのかなんて俺には全く興味が無いんだ。

 他人の不幸話なんて聞いて楽しいものじゃない。

 誰だって不幸だと感じることはあるし、不幸や幸せは競争じゃないから聞いていても気持ちの良い物じゃないんだ。

 カールにはカールの人生があり、それが不幸で綴られていたモノなのだとしても、それは俺には全く関係の無い話だって言い切れる。

 だから俺がカールという女性に対して言うべきことは一言だけ。


「でも救われなくても…救ってくれる人は居なくても……救い上げてくれる不死者なら痛んじゃないのか? 少なくともジェイドはその行動に責任を取ろうとしたんじゃ無いのか? だったそれでいいだろう? 少なくとも俺はジェイドの様に無責任な救済者には成りたくない!」


 カールの俺に対する憎しみが上昇した瞬間だった。


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