北京跡地攻防戦 9
帝国軍の主力隊が破滅島一帯を完全に囲む形で進軍しつつ同時にアメリカ軍の陸軍が陸路を完全に封殺、戦闘機が空母から次々と現れていくのを遠くから眺めていたジェイド、タバコに火を付けて「フー」と煙を吐き出す。
あの兵器自体まるで聞かされていなかったが、だがウォンという男の性格はキチンと理解して居るつもりだったからこそあの兵器を見て驚きはしなかった。
初めてウォンという男を見たときから見抜いた才能、彼にはずば抜けた頭脳が確かに存在したわけだが、それが開発関係に吐出している事はジェイドがいち早く見出した点である。
しかし、同時に見て初めて抱いた感想は「乾くこと無い怒りを抱く者」であり、自分に周りに常に怒りと憎しみを向けている。
少し放置すれば自壊へと走りかねない衝動をギリギリの所で抑え込み、それでも何時でも自分を殺そうと試みようとしている男。
才能の無駄遣いだなと思う一方で、同時に感じるのは救いようのない心境であったが、ジェイドは別段救ってあげようという気持ちはまるで持ち合わせなかった。
というよりはウォンという男にとっての救いを考えてみたとき、それはきっと死なのだろうと思ったからだ。
なら利用してから殺すだけだし、何よりもこの男を生かすだけ生かして残りの研究成果でも後の世に託せばさぞかしこの男も生きた理由にはなるだろう。
そう考えたとき敢えてウォンという男の復讐に協力してやろうという気持ちになり、同時にこの男を上手く利用すれば無間城復活までが完成できると考えたのだ。
「小僧。復讐がしたいというのなら協力しよう。何が欲しい? 欲しい物があるなら言え」
「何故俺が復讐したいと思うのか? アンタは俺の何を知っている?」
「知っているさ。私は不死者だ。永遠を生きる存在だ」
「不死者? そんな言葉を信じろと? 馬鹿げている」
ジェイドはナイフを取り出して自分の心臓へと突き刺すと、心臓辺りからドクドクと血が流れていき、ウォンはあまりにも突飛な行動を前に心臓が口から飛び出るのではと思われるほどの驚きを覚えた。
同時に抜き取ったナイフをその場に放置し、同時に心臓辺りに出来ていた傷が素早く治っていく姿を見てその言葉が真実だと理解した。
なら言うべきことが一つ。
「なら…どうして救ってくれない?」
「救おうと思った事すら無い。そんなに他人に対して救済をするような優しい性格の持ち主なら私は復讐の手助けをしようとは言わないよ。私は皇帝ではあっても救世主では無いんだよ。君がどう苦しもうが勝手にすれば良いさ。君がどんな死に様を見せてくれるのかと言う方が興味があるな」
「気持ち悪いと言われたことは無いかな?」
「悪意に満ちているとは言われたことなら有る。で? どうする? 私を信用して復讐をするか…それとも信用せずにこのまま理不尽と不条理の中でずっと死ぬまで生きていくか。君が選べるのはそのどちらかだ」
「君を信用して騙されて終わるという道も有ると思う」
「アハハ!! 確かにな! まあそれはそれで願い通りだろう? 死ねるわけだからな…何なら此所で殺してやっても良いぞ」
その時ジェイドが浮かべたのは満面と言っても良い笑顔であり、その笑顔には何処にも悪意が籠もっていなかった。
というよりはウォンを利用する気満々であり、同時に殺す気もあるのだと直ぐに理解出来たウォン。
ウォンからすれば最悪殺すつもりのある人間であり、同時に悪意で動いていると言っても良い存在の方がまだ信用が出来た。
善行を積もうとする事ばかり考える聖人のような人間は信用できないし、政府関係者は更に信用できなかった。
不死者などと聞いた事も見たことも無い人間の方がウォンからすればまだ信用できる。
何よりも彼自身驚いた事が一つだけある。
ジェイドはウォンが死にたがっていると言うことに気がついているのだ。
ウォンが何時でも心の奥底に感じるのは「死への願望」であり、何も思い通りにならない人生の中で感じる唯一思い通りに出来るかもしれないという思い。
それこそが『死』であり、才能も、生きてきた道も全て思い通りにはならない。
金や権力が国の全てであり、幾ら才能を持って生まれても貧困の出には出世のチャンスすら与えられず、どんなに努力を重ねても権力の前に屈するだけ。
その生まれ持った才能もその権力者達を支える為だけにあると大学に入って気がついた。
就職先にへこへこと頭を下げ、就職してすらもきっと同じ事の繰り返し。
上にのし上がっても更に上が居ると言う毎日、一番上を目指したくても才能を持つからこそ潰されかねないという心理的プレッシャーと戦う事はしていない。
というよりはウォンからすれば耐えられなかったのだ。
「復讐に手を貸すと言うが…何をしてくれるんだ? 不死者が俺に何が出来る? 何をお前は求める?」
ウォンはその辺が理解出来なかった。
不死者となり永遠を生きる存在になってもうできない事を探す方が難しいこの男の人生、そこに自分のような人間がどう関われるのか、何を求められているのか。
復讐をしたいという願いに相応しい願いがあるに違いないと思って聞いてみたつもりだが、ジェイドは少しだけ考える素振りを見せた。
「何もないさ。貴様を利用するだけ利用するから復讐する内容だけ教えてくれ。暇つぶしだと思えば良いさ。強いて言うならこれからの計画において混沌な状況を作り出す事が目的だ」
「混沌…要するに世界を混迷させたいと?」
「ああ。というよりは私達の予想ではもうじき起きるからその辺は別に問題とは思って居ない。強いて言うなら私の目的にはこの地での争いを利用したいと思っている。だから君がトラブルを起こしてくれるなら助かるんだがな?」
その表情はきっと悪魔のような表情だったに違いないが、神に祈るよりはマシだという気持ちにさせられてしまった。
というよりはウォンからすれば神に祈ることすら馬鹿馬鹿しいことであったし、何よりもまず悪魔の方がまだ信用が出来る。
だって悪魔は魂を引き換えにすればどんな願いでも叶えてくれる。
悪魔にとって契約は契約だからだ。
「神に祈るぐらいなら悪魔と契約した方がまだマシだな…」
「契約成立だな…さてどうしたい?」
「この国を…滅茶苦茶にしたい」
それがウォンの願いだったと思い出すジェイド、破滅島を起動させたウォンにとってそはもはや願った願い。
最後の抵抗で一人でも生け贄を引きずり込もうとしているのだ。
それを止めてやろうとはまるで思わない。
だって…それが彼の全てなのだから。
最後に自分が殺してやれば良いと考えて敢えて何もしない、何も言わないままでいる。
「ウォン。お前の復讐はある意味叶った。ならせめて最後まで華々しく散ってみせると良い…」
「それがお前さんの願いかい? 不死皇帝ジェイド」
「おや? これはまた懐かしいお客さんだ。まさかまた会えるとは思いもしなかったよ。テッキリと避けられていると思っていたからね。ライツ」
ジェイドは振り返るとそこに居たのは二本の剣を握りしめて立ち尽くしているアクトファイブのリーダーライツだった。
予想外の相手ではある。
「逃げていたわけじゃ無いさ。どうせ会いに行ってもあの厄介な奴らが邪魔をするのだろう? それにお前が部下を唆したお陰で大分貴重な戦力を失ったしな。どうせあのソラというガキがお前を殺すんだろうが、一矢報いたいと思うのは当然だ」
「それはそれは。そう言えば君はそういう性格だったな。誤解しそうになっていたよ。でもどうしてこの場だと思った?」
「別に。万里の長城に現れた時点で分かったよ…お前が陸上に出ているというのはな」
予想だにしない戦いが始ろうとしていた。




