北京跡地攻防戦 7
一番前を走っていた一台の車が止まったことを切っ掛けに後ろからドンドン止まっていき、一番後ろにあった俺達の車も急ブレーキで止まる。
俺はやれやれと車から出て行くのだが、まあ揺れる車体の中での出来事なので正直に言えば尻が痛い。
一番前へと辿り着くとそこには大きすぎる穴の底に沢山の瓦礫、北京の街の残骸である事は間違いが無いが、ではこの上に開いた穴は破滅島が通り過ぎたという証明でもあるのかもしれないが、俺達の目的地は多分対岸に薄らと見えている道の続きだろう。
皆で困った物だと思っていると、仕方が無いと言ってアメリカ軍の特務部隊とアクトファイブの面々はロープを設置し始める。
どうやらこの下まで降りて更に上へと登るつもりらしいが、まあ良いかと思っているが、正直に言えば俺はロープなんて使わなくてもという想いがある。
なので先に降りようとしたその時、俺達男子の動きを完全に遮ったのはケビンだった。
「駄目。男子は後。女子が先。レディーファーストという言葉があるでしょう? 先に女性よ! 良いわね?」
「男子が先に降りて女子が後から降りるとスカートの中を覗こうとする馬鹿野郎が約数名ほど居るからか?」
「分かっているじゃ無い! そうよ! 信用が無い人間が居るでしょう! 複数!」
ほぼ全員の目がレクターとライツとベベルの三名へと向き、心の中で「まあ…やりかねないな」という思いを抱き始める。
三人は何を言っているか分からないと言う顔をしつつ真顔でまずレクターが発言する。
「何を言っているのか分からない。貧乳のスカートを下から見ても楽しくないじゃん!」
「その通りだな。そこの巨乳の娘さん達ならともかく。それに男性として女性が安全に降りられるように確保するべきでは?」
「ボスの言うとおりだ。俺達には安全を確保する義務がある」
ホークが小さく「どの口が…」とライツに向って呟き、ケビンは殺意二百パーセントという顔をしながら睨み続ける。
女性がしていい顔ではない気がするが、この場合は三人が悪いので敢えて口に出さないで居ることにした。
と言うかスカートを覗くのに貧乳とか関係気がする。
「まあ、ジュリのスカートの中身を覗いた暁には俺が殺すけどね」
「ソラが発言したらややこしいことになるから黙っていてくださいよ。取り得ず女性が先に降りると言うことなら急いだ方が良い気がしますけど…ジュリは流石にソラと一緒に降りた方が良いのでは?」
「絶叫マシーンのような感じで急降下するつもりなんだけど…それでもいい?」
「ソラ君と一緒なら楽しいと思うよ」
俺とジュリが笑顔でそんなやりとりを繰り返しているとレクターが凄い酸っぱい顔をして威嚇してくる。
何があいつの機嫌を損ねたのか分からなかったが、そうしている間にケビンが飛び降りていきそれに続けとアンヌもそのまま下へと飛び降りる。
勇気あるなと思いながら俺はジュリをお姫様抱っこして降りようとした瞬間、レクターが脇を通り過ぎていき明らかに下に降りようとしていたが、その瞬間レクターの足をロープが捕まえてそのまま宙ぶらりんの状態へと移行した。
レクターがぎゃあこらと五月蠅かったが俺は敢えて気にしないままジャンプで降りていく。
ビルの側面に降り立ちそのままジュリを一旦下ろす。
足場が斜めになっているため正直に言って悪い事この上ないが、まあこのままジュリを抱っこしていては流石に恥ずかしいだろう。
そう思ってゆっくりと下ろす。
ブライトが顔を覗かせて周りをキョロキョロと見回しているが、正直酷いというのが素直な感想だったようでしかめっ面をしている。
「酷いね…これだと生存者は全滅だね。誰も生きていないだろうね」
「生きていたら奇跡よ。この全く意味の無い死…こんなことをアッサリしでかすなんて…」
ケビンが表情を歪ませて口元に手を覆い顔を背け、アンヌは足下にある割れた窓ガラスなどを見下ろして中を確認するとどうやら遺体を発見したようで急いで目を背けた。
ジュリも流石に耐えきれなかったのか、俺の腕をそっと掴んで顔を埋める。
ドンドン降りてくる他のメンツもどこか居たたまれないような顔持ちで見守っており、ライツがタバコの火を踏んで消してから「行くか」と歩き出す。
この男達だけはどうにも気にしていない気がする。
「気にして何か得をするならともかく、この場合得はせんからな。強いて言うならこんなことにならないようにするのが我々の行動次第では無いのか?」
そんな事を言われたら流石に反論しようも無いのが悲しいところで、俺もジュリを引き連れて歩き出す。
足下に遺体が見えたが、隣を歩いていた海が「遺体が残っているだけマシですね」と呟く。
確かにその通りだ。
「これだけグチャグチャで遺体が残っているだけマシだけど…この状況では回収は難しいし、回収するときにはもう…」
「腐っているね。どのみち遺体確認は無理か…この高さだもん。三千メートルぐらいは落下して無事で居る人間なんていないよ。即死かな?」
「即死であるだけマシです。苦しまないで済んだのですから…」
ケビンの言葉に何人かが俯きそっと足下を再び見る。
「これ回収できるのか?」
そんな事を告げたのはボーンガードで隣を歩くベベルは「さあな。興味なし」と言いながら歩くのだが、アメリカ軍の特務部隊は何かを英語でぼそぼそと話している。
ケビンに聞いてみるとケビン曰く「無理だな」とか「この状況では復興だけで数年はかかりそう」とか言っているらしい。
例えこの戦争がこのまま終わったとしても、中国という国やロシアという国が再び再起するのに一体どれだけの時間が掛かるのだろう。
二年や三年どころの話じゃ無いだろう。
「下手をしたら十年とか掛かるんじゃ無いか? と言うかこれだけの開発スペースを作るのに一体どれだけの時間が掛かったのだろうか? これだけの開発スペースを作るのに一体どれだけの人員を使ったのだろうか」
「そうですね。ウォンという男の性格を考えたら人間を奴隷のように扱っていたに違いありません」
「胸くそ悪くなる話だな。だが…どうやら向こうから来たようだぞ…」
中央市場で見かけたヤンキー風の男が手下のような人間を引き連れて現われるが、殺意をあまり感じない。
しかし、戦闘に突入しても良いようにと警戒度を上げていると、ジュリの足下に手が洗われるのがわかり俺はジュリの体をそっと後ろへと下がらせる。
腐りきったようなこう…ヤバそうな顔つきをしている背の低い男が現れた。
というか人数を数えてもこの場には六人しか居ない。
「これだけの数で勝つつもりなのか? それとも…」
ジュリの足を掴もうとしていた男はそのまま建物下へと隠れていき、そっとヤンキー風の男の右隣へと移動した。
この数を襲うには少々心許ない人数だが、時間稼ぎなのかそれともと思っていると、俺のそれでもが大当たりする結果になった。
積み重なった建物を足場にボウガンとメメントモリが姿を現した。
「なんで此所に?」
「? 暇だしな。もう俺達の役目は終わったし。こいつらの死に様ぐらいは見届けてやろうかと思って。これでも依頼主とは契約上とはいえ関係有る身だしな」
「こいつらは今回の作戦の大きすぎる失敗、その上撤退ルートの確保の失敗ともう此所で戦って死ぬしか無いのさ。まあ…だから付き合ってやろうかとな」
「言いたい放題だな…お前達二人だけか?」
「此所ではな。カールとキューティクルとボスはこの先の研究施設にいるさ。別段この先の施設に興味は無いんだが。せめて彼等の最後の灯火は見届けるさ」
ボウガンとメメントモリが戦闘態勢に入ってから突入までは早かった。




