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北京跡地攻防戦 4

 ジェイド達は万里の長城から遠くに見える破滅島を眺めていた。

 ボウガンは壁に背を預けて腕を組んでおり、その上にはメメントモリが足を組んで座り込んでいる。

 ボウガンから少し距離を取るように本を読んだ状態で興味なさそうにしているカールと、そのカールから更に距離を置いてキューティクルが右頬に右手を添えて「あらあら」と驚く素振りを見せた。

 そのカールとボウガンの間でジェイドが腕を組んだ状態で偉そうに佇んでいるが、その表情は驚くでも無く、かと言って別段怒りや喜びでも無い微妙な表情を浮かべていた。

 一体何を考えてその場で佇んでいるのかと言えばきっとボウガン達は分かる事だが、ジェイドはあの兵器に対しては特に想うところは無い。


「凄いとは想うけどな…でもまああの男なら造りかねないからどうにも驚きようが無いな…お前達の反応を聞こうか?」

「興味なし=私の意見」

「カールに完全同意だな。あれが凄いというのは機械としては認めるが、その目標のショボサと人間としての愚かさが才能を無駄遣いをしていると思うと残念だ」

「どうでも良いさ…どうせあれどっちに傾こうと破壊するんだろう? 戦いの行方だけ見守るとするさ」

「私としては勿体ないと思うわね。あれがあれば人々を恐怖に落すことが出来るのに」

「なるほど。君達は性格が悪いな…」

「誰一人ボスにだけは言われたくないと批判するな」

「私はしないわ=一緒にしないで。私が敬愛する閣下を否定するわけ無い=絶対」


 カールが本を読みながらボウガンの言葉を真っ正面から否定しつつ本に目を落し続ける。

 そこでメメントモリがジェイドの方を見ながら「参加するのか?」と訪ねたところジェイドは口元に手を添えながら否定した。


「いや。参加しない。と言うかあの兵器はアメリカとガイノス帝国の混成軍に任せよう。我々が出しゃばるとバランスが悪くなる気がする。我々とウォンとの関係はあくまでも契約上でしかない」

「まあそうだろうな。今は戦争の結果を見届けているだけだしな…ならどうする? ここに俺達がいるとはバレて居るぞ」

「貴方がバラしたのでは=疑問」

「それは無いな。というかその場に居なかった俺がどうやってバラす? そういうカールこそバラしたんじゃ無いのか?」

「あり得ないわね=馬鹿なの?」

「私を挟んで喧嘩しないでくれよ。まあだからこちらからすればウォンの最後の側近達との戦いに参加しよう。どっちが勝っても良いのだがバランスは必要だしな…」


 キューティクルが「バランスね…」と鬱陶しそうな顔をしているが、ここで嫌がったとしても意見が変わらないと思っているので敢えて口を出さない。

 このまま手を出さないで居れば良いのではと思う一方で、ジェイドの最終目標が竜達の旅団との全面衝突を無間城の中で組むというのであれば、ソラ達と関わろうとするのは避けられない。


「では向いますか?」

「いや…多分動きがあるとすればそれは明日の朝一番だ。北京跡地の地下施設で戦いが始るはずだ。それに我々も合わせるぞ」

「じゃあ今日はこのまま解散? それともこの後何かするの?」

「しない。勝手にすると良い。彼等と会ってきても良いし、その辺で暇を潰してきても良い。この場でやるべき事を終えた時点で我々の中国の地での役割は終わりだ。あとはおまけでも楽しんでいよう」



 俺は正直疲れ切った表情でベンチに座り込むのだが、なんでレクター達はあんなに元気なのだろう。

 皆疲れ切っていたり、明日に備えていたりしている中で全力で遊んでいるのだろう。

 因みに海はオールバーが納得したのかそのままホテルへと帰っていった。

 それを羨ましいと言う視線で見てみたのだが、残念な事に伝わらなかったのだ。


「ソラ大丈夫? いざとなったら僕が変わるからね!」

「ありがとう。本当にブライトは良い子だな…それに加えて…あのメンツは」


 何かを買ってははしゃぎ回っているが、何がそんなに楽しいのかまるで理解出来ない。

 そう思ってもういっそ心を無にして放心していようかと考えているとジュリの声が聞えてきた気がした。

 驚き共にそっちに顔を向けるとハンドバックを持ちながら現れたジュリ、作戦時には後ろに纏めて居た髪を敢えてほどいて三つ編みにしているジュリ。

 服装も汚れまみれだった服を完全に着替えて可愛らしいフリル付きのワンピースの上にカーディガンを羽織っている。


「大丈夫? 部屋に行ったらソラ君居なかったし、レクター君もいなかったから出てきたんだけど」

「海と出会わなかったか?」

「うん。そうしたらここに居るって聞いて駆けつけてきたの」

「その服って香港で買った奴か?」

「ジュリ綺麗!」

「ありがとう。でも上海が吹っ飛ぶなんて…」


 ジュリは俺の右隣に座ってそう語りかけてきた。


「ああ。でもどうしてそこまでして上海を目の敵にするんだろうな。香港での戦闘だって上海ほど酷いわけじゃ無かったぞ…」

「うん。徹底的に上海の人達を殺そうとしているのが分かるよね。目の敵にしているというか。敢えて避難民を使って戦闘をさせようとしたり、兵器を容赦無く投入したり…」

「何か嫌いな人達がいるのかな?」

「その辺が答えなんだろうな…」


 それこそウォンが憎しみで動いているという理由でもあるのだろうし、彼らしさなのかもしれない。


「常に怒っている人ってジュリは教えてくれたよな?」

「うん。そういうイメージらしいよ。でも、そう思うと常に怒っているんじゃ無くて常に憎しみを持って接しているのかもね…」

「だね。僕から見てもやっぱり北京や上海を無闇矢鱈に犠牲にするというのは異常だもんね。普通ある程度は分別をわきまえると思うもん」

「怒っているんだろうな。それこそ道歩く人々にも、自分を追い詰めた人達にも同じぐらい。きっとウォンという男にとって第三者という関係で見て見ぬ振りをする人達すら許せない。なあなあで誤魔化すことが許せないのか、自分が不幸な目に遭っているのにその現実から目を逸らしていることが許せないのか…」

「でも全ての人が裏側の事情に口を出せるとは思えないし、それが正しいとは言えないよね? 裏側の事情を知るのは一部だけで良いはずだもん。どんな出来事にも表と裏が在るわけだし。全ての人がその人の裏側を知ると信用なんて無くなると思うよ」


 それはそうだろう。

 聖人君子と呼ばれている人間だってある程度は裏側の事情を抱えているわけだし、誰もが本音と建前を使い分けて生きている世界でその建前を捨てることは出来ない。

 裏側で起きている事情に目を向けて生き続けるというのは流石に不可能だろう。

 例えば海洋同盟の裏で起きていた国の欺瞞を知ってどうなるという話しだし、研究都市の裏の顔をしれば何か救いがあるのか、ニューヨークから始ったクーデター事件なんて裏の事情を知っても何も変化しない。

 物事には何事において表と裏の事情がある。

 その二つは別々なようで連動しているのだ。


「そうだね。僕達のような人達がそれを知っていれば良いんだよね。皆が知ると混乱するし…でもだからこそ当事者だからこそ、不幸な目に遭ったことがある人だからこそ知らないという人達も許せないのかもね」

「不幸な人が居ることに? 不幸な目に遭っている人達が沢山居ると言う事に?」

「両方だよ」

「でも、どうしようも無いよ。だからって教えて回ることは出来ないし、したいって思えないな。私は。だから止めないといけないんだよね」


 ウォンという男が抱えている大きすぎる爆弾を誰かが取り除いてやらないといけないのだろう。

 でもあそこで遊んでいる人達ではない気がする。


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