芳蘭中央市場事変 20
ギルフォードと海と戦っていた死の方はヴァンの戦意損失を切っ掛けにまるで人形のようにパタリと動きが止まってしまった。
あまりにも唐突な動きの止まりが一体何を意味するのかと少しばかり疑問に思い、警戒を解くのに少しばかり時間が掛かってしまったのだが、その理由に気がついたのはオールバーだったのだ。
この死という人物、正確には『呪いの人形』であり人ではないと言う事だった。
というよりは人に取り付き、人の戦意に影響されて戦いまるで意志を持ったかのように動く人形で、ヴァンの戦意損失を切っ掛けに動く動機と切っ掛けを失ったようだ。
ギルフォードとしてはこれでダルサロッサの氷像化が解けたのかが少し疑問だったが、オールバーが「なら壊せば良い」と言ってくれたのでギルフォードは人形に剣を突き刺す。
しかし、イマイチ手応えが無かったので何度か突き刺してみると、何か堅い物を砕く感触があった。
何なのかと思って念の為に人形の外観を破壊して何かを調べてみると、大きめの髪飾りが砕けて入っていたのだが、それは何処か黒く汚れており少々触るのには躊躇いを覚える品だった。
しかし、そんな中でも海はまるで気にするような素振りを見せずそっと手に取ってみると、子供が付けるような可愛げのあるピンク色の髪飾り。
よく見ると髪が微かに残っているようだが、金属の部分がすっかり錆び付いており動かないし、黒ずみも血の跡である事が分かった。
「誰かの遺品だろう。しかもこの黒ずみ全部血だが、所々焦げているところもあるな。戦火で死んだ誰かの品だろうか?」
「かもしれないね。さっき通信機越しに聞えてきたあのヴァンって人に近しい人の品かもね。でも、これ女性の物だよね? どうして男の人形に?」
「呪いの人形に性別はあまり関係ない。死んだ人間の年齢に近い器さえあればな…敢えて中性的にする事で憑依しやすくしているはずだが。多分だが、感情移入しにくいようにしているんだろう。この人形強すぎる呪いを持っていたし、それと自分自身を繋げるのなら感情移入しすぎて自らが呪われないように対策をしたのかもな。だが、これで空間全域に掛かっていた呪いも全て解けたはずだ。ほら…結界も解けはじめた」
オールバーの指摘通り周りを囲んでいた結界が解けていくとケビンやアメリカ軍の特務部隊と戦っていた奴らが今度は逃げようとギルフォードと海の二人と接近遭遇してしまった。
どうやらリーダーがやられたとハッキリとわかりヤンキー風の男を先頭に走ってくるが、ギルフォード達の姿を発見すると舌打ちして別方向へと逃げていく。
海は追いかけようと思ったのだが、ヤンキー風の男が地面を軽く叩くと彼の姿がエコーロケーションの反応事消えてしまった。
何か能力でも持っているのかもしれないとおもったが、索敵が出来ない以上深追いは出来ない。
「ダルサロッサを確認した方が良いかもしれないですね。行きましょうか」
「そうだな。寒いと鬱陶しそうだしな」
オールバーが「何が嬉しくてあれを救出しないといけないんだか」と不満げにしていたが、海はすっかり助ける気満々だったのでそれ以上は敢えて言わないことにした。
三人でダルサロッサを入れておいた冷凍庫まで戻ってきてドアを開けると中から寒そうに震えているダルサロッサが現れた。
「何故私を冷凍庫に入れた!?」
「お前が氷像になったからだ。もう少し気を付けて戦えって…マジで」
そこで軽い言い争いになると襲う思ったとき、激しい音と共に眩い光が天を通り過ぎた。
ヴァンという男の武器を一旦破壊し、俺とレクターで拘束してからふと息を吐き出した。
戦意損失しているだけじゃなくどこか魂が抜けたような状態になっているが、真実を知り色々な意味で生きる指針を失ったからこそだろう。
これ以上は俺に出来る事なんてきっと存在しない。
「結構アッサリ終わったね! ソラお疲れ様!」
「ありがとう。ブライト。しかし、予想以上に被害が出てしまったな…一体何人の犠牲者が出たんだ?」
「ブライト! 俺にお疲れ様は?」
「? なんで必要なの? レクターが疲れてないもん! 良い? お疲れ様って言葉は疲れている人に言うべき言葉で、元気一杯の人に言うべき言葉じゃ無いの」
理屈で押し切る幼い竜と屁理屈で対抗しようとする馬鹿な人間がそこにいる。
面白いから俺は無視することにした。
建物の屋上からジュリに連絡しようとスマフォを取り出して耳に当てる。
「ジュリか? こっちはリーダーと思われる男を拘束した。結界も解けたようだし、外にいる奴らに連絡を取ってくれないか?」
「分かった。そっちに合流しようか?」
「いや。大丈夫だ。この男を連れて下まで降りるよ。それより犠牲者はどのぐらい出た?」
「分からない。でも多分万はいると思うよ…」
万を超える犠牲者を出してしまったという後悔、俺達の戦いにそれだけの人を巻き込んだ。
こんな密集した場所でだ。
いや、密集した場所だったからこそこれだけの被害を出してしまったのかもしれない。
「でも、これじゃ手掛かりも無いよな。軍の施設はもうすっかり襲われているそうだし。北京へと向う為の場所が何処にあるのか分からないぞ」
「だね。どうしようか…この調子だと? 何だろう…あの光」
ブライトが指さす方向へと俺達は顔を向けると、確かに何か光が見えた気がした。
その光が一体何なのかと思って目を凝らしていると、悪い視界が一気にハッキリとし金属製の山が顔を覗かせ、先端から上空へと放たれた眩い光の塔が見えた。
あまりにも唐突な状況に俺はついていくことが出来ず、唖然としていると光は遙か上空で屈曲して上海を襲ったのだ。
あまりにも唐突に起きてしまった状況に俺もレクターもブライトもコメントすることが出来ず唖然としてしまうだけ。
何が起きたのかと思っているが、スマフォに届いたメッセージには「上海が吹っ飛んだ」という父さんからの連絡だった。
その後に届いた遠距離から捕らえた映像には上海のあった場所に大きすぎる大穴が出来ている。
「何が起きたの? 今…あの山何?」
「まさか…あれが破滅島!? 人工衛星で光エネルギーを反射して狙い撃ったのか? そんな兵器を作ったのか?」
だが、何故島なんだ?
そう思っているとその兵器が動き出した。
富士山ぐらいはある大きな大きな山が動き出し、この瞬間も北京へと近付いていく。
「あれは兵器じゃ無くて要塞か? ただの大質量兵器じゃないと言う事か…て言うかどうやってあれだけの熱エネルギーを? 魔導機か?」
「ううん。僕達竜だから分かるけど、あれに魔導関係はまるで使われてないよ。まるで異能の反応しないし…恐ろしいけど。あの兵器は人間の技術力だけで作り上げられたんだ。多分エネルギーには核燃料を使って居るんだよ。それを熱エネルギーのチャージに充ててそれを放射しているんだ」
「え? じゃああれ異能とか全くの度外視で作っているって事? そんな事できんの? 結構重くない?」
「多分だけど見た目だけだろう。無論照射するために中央の砲台を支えるように作っているんだろうけど。中は結構スカスカなのかもしれないな」
「人間が作り出した科学技術力の到達点と呼んでも良い品だよ。兵器という分野では異能という奇跡をまるで介在させずに到達した…ね」
人間が初めて作った科学技術力の到達点が兵器だとは…皮肉だな。
「と言う事はあの兵器…まさか照射した場所に放射能が?」
「可能性はあるね。多分運用上の理由から内部は完璧に指定在るだろうけど…放射先までは考えてないよ」
俺達は今からのあの兵器を相手にしないといけないらしい。