表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
96/1088

英雄譚は誰の為に 3

 ギルフォードは国会ビルの中に滑り込みながら動揺で心臓がバクバクと音をたてており、正直自分が言いつけを破っているのだという自覚は薄かった。

 国会ビル内で行われる作戦は全てフォードに一任されており、その全容は誰にもわかりようもなかったが、今になってその内容に疑問を抱いてしまったのはソラとの戦いがきっかけだった。


 フォードが人間ではないという意味を、ソラの叫びを聞いたギルフォードはこの作戦全体に疑問を抱きつつあった。

 皆が命を懸けて行っているこの作戦、その全てが人間ではない『誰か』の野望の為に行われていると思うと居ても立っても居られない。

 エレベーターのボタンを押して室内に入っていき、総理大臣の部屋へと一直線に向かって行く。


 エレベーターの外からソラが突っ込んでくるのではという懸念は今の所無駄になりそうで、実際ソラは襲ってくることは無い。


 時を同じくしてガーランドは第一島の橋で主力隊を捕まえており、そのガーランドの後ろから本流のリーダーであるエルナードが乗る車が近づいて来た。


「ここは今戦場だ。何の用事でこの地に来た」

「私はエルナード。本流のリーダーです。ソラ・ウルベクト君に頼まれた情報を持ってきたんですが、彼の連絡先を知らないので追いかけている最中です」

「なら私が知っている連絡なら出来るから話を教えてくれ」

「分かりました。ソラ君が懸念していたことが当たっていたと告げてください。フォードの物と思われる白骨化した遺体を発見した事と、ドラファルト島の遺体が一つなくなっていることがわかりました」

「フム………その遺体とは?」

「妹です。烈火の英雄の妹の遺体だけが存在しなかったのです。ソラ君が告げていましたが、国会ビルの首相の部屋から呼吸音が一つ多かったと」


 ガーランドの中であらゆる懸念や知識が渦巻いていき、結論に至る事は意外と早かった。

 これでもガーランドは三将であるサクトやアベル達と比べると指揮官としても、軍人としても優秀。

 実際、彼は自らの部下の殆どを第一島の民間人の保護に向けており、人命第一をモットーとする彼を慕う者は多い。

 いつでも戦局に目を通し、最善且つ最適な答えに辿り着くためには『知識』が必要だと本人はいつでもそう考えていた。


 武術などの実力と、知識を持って戦術となす。


 それがガーランドの考え方であり、いつでも指針にしている行動力。

 それ故に彼は多くの者から慕われているのだ。


 ソラとガーランドの接触は最悪と言っても良い、それ故にソラはガーランドを避けているが、ソラとてガーランドが本当に最悪な人間だとは思っていない。

 いや、むしろソラはガーランドがいかに優れているのかを父親であるアベルから聞かされえているうえ、彼がどれだけ軍人として優秀なのかは父親と比べてもよく理解できている。


 しかし、出会いが出会いであるため、ガーランドはソラへと連絡を取る事を躊躇ってしまう。


(だが……この情報は直ぐにソラに渡してしまった方が良いだろうな)


 ガーランドはアベルと違いソラに対して拘束しようとは思わないし、むしろソラは才能があるのだからもっと信頼してやってもいいのでは?ぐらいは思っている。

 最も、家族がらみの問題に首を突っ込んでいけるほど親しくもない。


(弟子にしたかっただけなんだがなぁ)


 仕方がないとガーランドは携帯に手を伸ばした。



 何でガーランドが俺に連絡を入れてくるのかはよく分からなかったが、取り敢えず俺の予測がおおよそ当たっていたという事は分かった。

 問題は魔王と竜の目的がイマイチ見えてこないという点だが、ガーランドが言う言葉をそのまま信じれば両者の目的はその妹を利用する事だという事らしい。


「代わりの肉体代わりにしているのかね? 古い肉体を捨てるとか?う~ん、でもそんな事なら別段妹にこだわることも無いよなぁ」


 妹にこだわる理由があるのか?

 だったら尚更烈火の英雄を側に付けている理由が無いよなぁ、それともそうしたい理由があるのかな?

 最も妹の遺体が亡くなっていることは気が付いていたが、その先までを考えていたわけじゃない。

 しかし、何か理由があるだろうと思ったきっかけが烈火の英雄の魔導であり、だとするのなら魔王はその魔導が欲しいという事になるけれど………それなら烈火の英雄本人を手に入れてしまえばいいわけであって。


「妹にこだわる理由が見えてこない。その魔導に致命的な欠陥があるとか?それぐらいしかないよなぁ……でも欠陥かぁ」


 戦っている間はそんな事分からなかったけれど、魔導や呪術に関わらずああいう大きな力である『異能』には何かしらの弱点があるはず。

 万能の異能なんて存在しない。


 なら烈火の英雄の魔導にも弱点があってしかるべき。


「まあそんなことをしている間に烈火の英雄はどこかに言っているわけだが、先ほどから出てくる気配は無いし………もしかしてさっきの会話で首相室に向かったわけじゃないよなぁ?」


 いや……可能性だけなら強いだろう。

 疑念を強めた今の烈火の英雄なら直談判ぐらいならしかねないとは思うし、まあそのきっかけを作った俺が言うのもおかしいけれど。

 やめた方が良いだろう。


 空を飛んで首相室前まで行こうかとも思ったのだが、正直無理に力を使い過ぎたので今後の事を考えると無意味に力を使いたくない。

 なのでここは素直に内部から進むべきだろう。

 国会内まで入っていく過程で選択肢が二つ。

 階段か、エレベーター。


 階段なんて絶対御免である!

 長ったらしい階段を必死に上るバカなんてこの世界に存在してほしくない、というかどの世界でも存在してほしくない。

 そんな奴は潜入するぐらいの時だで十分である。

 そして残念なことに今は潜入どころか素早い行動が求められるわけで、それすなわち俺は何の躊躇もなくエレベーターのボタンを押した。


 どうやらエレベーターは上へと昇っている最中なようで、下まで戻ってくるのに時間がかかり過ぎる。


「これ烈火の英雄だよな。やっぱり首相室に向かっているみたいだ………」


 やばいよなぁ……もし妹が生きていてその上何かに利用されているかもなんて知ったらどんな地獄絵図が完成するか。もし、事態が収束しても妹が死んだといえば間違いなく彼はこの国を本気で滅ぼすだろう。

 身内の死を二回も容認できる人間だとは思えなかった。


 その時こそ俺達は本当の意味で殺し合う事になる。


「止めないと……」



 ソラの予想は正しく、烈火の英雄はエレベーターから歩いて首相室まで辿り着いていた。

 部屋のドアをゆっくり開け、室内に入るとそこにはフォードと首相のであるマーベルが何かを話し込んでいる光景だった。

 その光景だけで烈火の英雄にとっては十分だった。


「裏切っていたのか……!? 裏切っていたのか!! フォードォ!!」

「やれやれ……予定通りいかないものだね。どうする? 私が相手した方が良いのかな? 彼は生かしておいた方が良いかい?」

「そうね。もう用済みよ。彼のお陰で十分なデータは手に入ったわ。あとは私達の肉体の歩調を合わせるだけ。そうね………二分ほど時間が稼いで頂戴」


 フォードはゆっくりと身体を起こし、ギルフォードの前に立ちふさがった。


「裏切ったのかと聞いているんだ」

「裏切ったも何も、私にとって君達は私個人の作戦を遂行する為の駒に過ぎない。それ以上もそれ以下も無いんだよ」


 細めの奥にある善意とも悪意とも取れない濁り切った瞳、オールバックの黒髪をとってもいつものフォードだが、喋り方はどことなく今までの彼とは違った。

 ギルは二本の剣を強く握りしめ怒りを込めた一振りを下ろすのだが、その攻撃は無残にも剣を粉々にされることで終ってしまった。

 素手で一振り。

 おそらくソラとの戦いで剣は限界を迎えていたのだろう。


「その様子だと随分はしゃぎ回っていたようだね。それに右腰……いや脇腹かな。痛手を受けているようだし、剣の振り下ろしに力が籠っていなかったよ」


 ギルフォードは魔導の力でそれでも戦おうとするが、フォードは右拳を鳩尾に叩き込みフォードを吹き飛ばして見せた。

 ギルフォードはそれでも抵抗しようとしていたが、武器を失ったギルフォードが勝てるわけがなく、悔しそうに表情を歪ませるだけだった。

 そんな時………部屋のドアをソラが開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ