芳蘭中央市場事変 14
関西弁で喋る男は巨大なライフルの銃口を海へと向けて引き金を何度か引く、普通のライフルより銃口が大きいためか銃弾もまた大型の銃弾が飛び出てくるのを海はギリギリの感覚で避けながら敢えて遮蔽物が無い方向へと向って走って行く。
トラップを使い熟す人間相手に敢えて身を隠すほど愚かにはなれそうにないし、男も敢えて遮蔽物がある方向へと向って海を遊動しようとしているようだった。
車やバイクなどに様々なトラップを隠しているのか、それを取り出したり、時に車などを直接トラップ代わりにして攻撃を仕掛け、海はその攻撃の全てを躱しきり素早く接近してから男へと向って剣を振り下ろす。
男はその攻撃を巨大なライフルで受止めるが、海はそんなライフルを切り落とそうとするのだが、ライフルをよく見ると刃がくっ付いており、斬る事も出来るような仕様になっているようだった。
刃の部分で攻撃を受止めて関西弁の男は海を蹴ろうとするが、海はその蹴りを早く動いて回避して一旦距離を取る。
雷を刃に纏わせてから縦に三つほどの斬撃を繰り出すのだが、関西弁の男は感心したような顔をして「やるな~おどれ」とぼやきながら余裕を持って回避した。
観察するような目で見ているのだが、同時にどこか楽しげな顔をしているのが海はどうしても気になる。
「早いな~おっさんにはキツいわ。このままやと負けそうやな。何せもう何人かやられたみたいやし…そろそろ撤退するかな…」
「逃げるんですか? 貴方達は僕達を襲うために雇われたとそうおもっていましたけど…」
「そやで。うちらはあくまでも雇われただけ。受けた依頼はあらゆる手段を講じてでも達成しようとし、失敗しそうなら死ぬ前に撤退する。それがうちらのやり方や。坊主。そういう意味じゃうちらはテロリストとも違うし傭兵とも違うで。テロリストは信念や目標のために拘らないしな。国はうちらの事を武装集団と呼ぶ」
海としてはここで逃がしたくないという感情が存在するし、ここで逃がせば多分より酷い被害が出る気がしたのだ。
だが、だからと言ってここで「駄目だ」といって襲い掛ってもきっと堂々巡りになりそうな気がすると考えた海は「良いですよ」と一旦撤退を認めた。
しかし、本当の狙いは彼が油断した瞬間に襲い掛ろうと思ったのだが、関西弁の男は「ほなさいなら」と言いながら振り返ろうとしたが、海は襲い掛る前にまず右側に大きく移動した。
彼は振り返りながらも左手で衝撃で爆発するタイプの爆弾を容赦無く投げ付け、大きな爆発が海を襲い掛る。
しかし、それが連鎖的に建物全域での爆発が起きていく。
「どうやらお前と一対一ので戦いでは不利だと感じて、撤退と撃退を兼ねて仕掛けておいた爆弾を起爆させたようだな」
「してやれられたよ。でも、と言う事はまだあの人は勝ちを完全に諦めたわけじゃ無い…いや、これはチャンスだ」
「そうだ。この爆発ギリギリまで耐えろ。崩壊寸前まで引きつければ男は必ず油断する。霞の型で猛ダッシュで走って行き一気に攻撃しろ」
海は建物が連鎖的に崩壊していくのを見守りながらも敢えて黙って見守り、足場も次々と崩壊しては亡くなっていく中、海のエコーロケーションで男がダッシュで建物から去って行くのを感じ取る。
それがチャンスだと感じ取り海は全身に雷を纏いそのまま猛ダッシュで駆け出して行く。
崩壊していく足場なんてもはや一歩踏み出す度に穴が開くのではと思われるほどだが、海の今の速度では足場が崩壊する前にもう既に次の場所へと足を踏み出していく。
その容量で駆け出して行く。
関西弁の男は完全に崩壊した建物を見て安堵の息を漏らし、脂汗を掻きながらも何度か振り返って次の場所へと向おうとした瞬間、海は男の首を切り落とした。
なんとか倒したという感覚で一旦溜息を吐き出し、一旦建物の方を見つめる。
ギルフォードは入ってきたゲートとは違う車や荷物を運び込むために搬入口へと向って走って行き、辿り着いたとき確信した。
搬入口は多くの作業員やドライバーの死体で埋め尽くされており、大量の血や崩壊したトラックや車があちらこちらから火を噴いている。
そんな場所の中心では出刃包丁を二本握りしめている包帯で顔面をグルグル巻きにしている医者風の男、そんな男は背中に幾何学模様の何かを描いており、それが上空にある結界を造っているのだと。
なにより男の全身から感じる呪属性の気配、こいつが呪術そのもの威力や効果を継続させている。
多分この結界の中に閉じ込めた存在の呪属性を強力にしつつ効果を永続化させているのだ。
「? 貴様は…ああ殺られたんだな。折角呪属性を強力にしてやったのに…僕に役割がやってくるだね。でも、お兄さん強そうだ」
「……お前を殺せばこの結界を閉じることが出来ると?」
「うん。出来るよ…と言ってもお兄さんは多分信用しないよね? だから僕を倒せば良いよ…」
まるで挑発するような発言をするが、ギルフォードが強いという事が分かる時点で十分相手も強いと言うことにギルフォードは気がついていた。
纏っている雰囲気が他のメンバーとは比べものにならない。
「纏っている呪属性の雰囲気が今までの奴らとは比べものにならないな。ジャック・アールグレイより上だろう。一般人程度なら見ただけで殺せそうだ」
「それは無理かな…でも、そうだね。触れれば殺せるかもしれないね。まあこの辺の人達は皆斬って殺したけど。でも、お兄さん。どうして僕が出刃包丁を武器にしているか分かる?」
「さあな。切りやすいからとか?」
「持ちやすいし、長さとか気にしないで済むし、何より血の付いた出刃包丁って不気味じゃ無い? 怖く感じない? 恐怖は呪属性の入り口だから」
この人物から感じるのは何処まで行っても突き抜けた呪属性、恐らく下手をすればキューティクルなどとも比べるべきも無く、ただ怖い。
顔面から足のつま先まで巻かれている包帯、目の部分と口の部分だけはちゃんと覗かせているが、それ以外は全部包帯が覆っており、その上から白衣などの医者の衣装を纏っている。
その衣装にも大量の返り血で真っ赤になっており、それが不気味さを加速させている。
「憎いとか、怒りとか、怖いとか、悲しいとか…そういう負の感情っていわゆるどうやっても超えられない一線があるよね。誰もが心の中で超えられない線引きをするよね。でも僕ってそういうの分からないんだよね。いや…僕は何時でもやり過ぎちゃうから…なんでかな?」
それが彼の呪法のデメリットなのだろう。
超えられない線引きを簡単に超えて、簡単に命を奪う事ができて、その命を奪う度に彼の呪いは強くなる。
呪属性の特性を完全に言い表した呪法、完成された呪法。
呪属性にも様々な形を持っているが、多分その中でもきっと呪属性の本質にかなり近い能力。
ソラの持つ『可能性の支配』が魔属性の本質に非常に近いように、その本質に近い能力はおのずと強力な能力になる傾向がある。
それが異能という存在であり、異なる能力由縁である。
異なる能力の本質に近くなると同時に能力そのものがその本人に近付いていく。
それ故に簡単に能力の上限を開放する事ができるようになるし、その分過酷な状況に陥る状況も多い。
ソラもそういう状況に陥りやすかった。
「僕ね…小さい頃からよく人に殺され掛けるんだ。初めて殺され掛けたのは三歳の頃かな…僕ねお父さんに殺され掛けて逆に殺したの。よく覚えていないんだけど…こう…出刃包丁でね……首をね?」
ギルフォードの首筋に突然出刃包丁の刃が飛んできた。