芳蘭中央市場事変 7
ギルフォードが敵と交戦してから十分ほどが経過したとき、ギルフォードの戦場へとダッシュで辿り着いた海とオールバー、ふとギルフォード達の居場所を探そうと辺りをキョロキョロしていると、少し向こう側から音が聞えてきた。
炎が立ち上り、時折爆発音や雷音などが聞えてくるので海はビルディングの上へと移動する。
路地を曲がって向っても良いのだが、戦闘に巻き込まれたら災難であると判断しての屋上への移動。
上からならまだ被害が少ないと判断した海とオールバー、屋上に辿り着くとダルサロッサの氷像を発見した。
もう頭部や背中の翼なんかは完全に溶けており、バランスを失った胴体は横に倒れているが、海はその姿に少し疑問を覚える。
だから「これは何だろう」と思って少し近付いていくとオールバーが指をダルサロッサの方へと向けながら爆笑する。
「こいつ氷になっている!! 炎竜が氷になって死にかけるとか爆笑だろう!? 受けるじゃ無いか!」
「じゃあこれダルサロッサさん? でもどうしてこんなことに…」
「小僧。そこの柵から下を見ろ。答えはそこにあるだろう」
爆笑を止めたオールバーは海が胸ポケットの中に入れていたスマフォを取り出し、カメラで何度も撮影してから納得し、そのまま海と共に下を覗いてみると、ギルフォードが麻袋を頭部に被っているランタンを叩く男と戦っていた。
加勢しようとしたがそこをオールバーに阻止された。
「落ち着け。あの様子なら完全に溶けるのに二十分ほどはあるはずだ。それに今此所で加勢して敵に逃げられるよりよく観察して、逃げた際に直ぐに追いかけるようにしろ。お前の早さはもはやメンバーでトップクラスだ。あのケビンという女と張るぞ」
「うん。あのランタンを叩く仕草と回数で攻撃する炎が変わってる?」
「よく気がついたな。良し。ここでレッスンだ。もっとよく観察しろ。こいつは呪か聖か魔か?」
海はオールバーに言われたとおりよく見て観察してみることにした。
ランタンを叩いた回数で攻撃に使用する炎の種類を分けており、叩き終える際にそのままステッキをランタンの側面にくっ付けて下に下ろすようにしているのが見て取れた。
何より麻袋は両目と口しか開いておらず、あれでは聞くという作業をする際に少し難がありそうだった。
何より男はジッとギルフォードの方へと視線を向けており、紫色の爆発する炎の攻撃の後は必ず緑色の炎で上空へと移動している。
もはやルーティーンと化しているが、ギルフォードもこれが分かっていて敢えて突っ込まないようにして居るようだ。
青色の炎を警戒しているのだと分かる。
ダルサロッサを一瞬で氷像に変えた能力は、着弾した所がしっかりと氷になっているのが上からでも分かる。
「呪属性かな」
「何故そう思った?」
「多分だけどあの男音が聞えていないし触覚も無いんじゃ無いかな? だからステッキでランタンを叩いた際に必ず滑らせるように下ろしている。単純に離して術が発動するのなら離せば良いし。回数で攻撃の種類が変わるけど、触覚が無いから叩く感触が無い。だからこれ以上行かないぐらいに強く叩き、最後にそのまま下にスライドさせることで術を発動させる」
「では音は何故だ?」
「紫色の炎は爆発だって言うのは流石に分かった。でも、同時に眩い光で視界が潰れてしまう。爆発はやはり強力であの威力流石にギルフォードさんでも直撃したら死ぬかもしれない。だから逃げているわけだし。でも、だったら視界が塞がっても周囲に気を配り、音などに敏感になれば良いのに、敢えて上に逃げて視界を広げ敵の位置を常に把握している。よく見ると立ち位置も常に敵を正面に捕らえるようにと心掛けている」
「フム。合格だ。そうだ。あの男は触覚と聴覚が存在しない。何かを失ってメリットを得るのは呪属性の特徴だ。あの男は呪属性の人間だが、位はおよそ法だろうな。アンリミテッド状態のギルフォードと互角なのだから。では、ここで更にクエスチョン。どう攻撃するのが良いと思う?」
海はふと考え込む。
此所で下手に加勢したら最悪そのまま逃げられる可能性が高い、何よりも敵は常に周囲の立ち位置に気を使っている。
ギルフォードが常に正面から襲ってくるしか無い状態を造っており、攻撃パターンもある程度は絞っているように思えた。
あまり賢くないのだろう。
「攻撃するなら爆発してから緑色の炎を使った瞬間だと思う。炎を出して次の炎を出すまで一秒ほどのインターバルがあるから。緑色の炎はそのまま移動の炎だからあれだけは周囲に対して攻撃は出来ない。例えで来たとしても大した威力では無いと思う。自分の身の回りに起きる攻撃を派手にした場合自分が被害を受けるから。だからあの瞬間だけは常に視界にギルフォードさんを捕らえないといけないという都合上視界は常に下。上から飛び降りて襲い掛るのにはこれしか無い。素早く移動して素早く切る」
「そうだ。光のような速度で走り、光のような速度で斬る。それは小僧にしか出来ない。出来るじゃ無いか…さあよく見極めろ」
海はしっかりと敵とギルフォードの動きを見極めると、一瞬だけだがギルフォードの視界がハッキリと海の方を捕らえる。
そのまま黙って戦闘を続行し、ギルフォードは一瞬青色の炎による攻撃を回避する為にバックする。
するとその時を待っていたのか男は紫色の炎を解き放つ。
ギルフォードは爆発をギリギリで回避しつつ突っ込んでいくと、眩い光から逃げる為緑色の炎で上空へと逃げる男、その瞬間男の視界が回った。
その後海の移動した痕跡や攻撃痕である『バチバチ』という雷の音の後男の意識は完全に消えた。
斬られたという感覚すら残っていなかった。
「大丈夫ですか? ギルフォードさん」
「助かったぞ海。あの男この場所を最大限に利用して常に有利な立ち位置を見極めてくるから厄介で」
「とりあえず早くダルサロッサの所に言ってやれば良い」
オールバーの言葉に従いもう一度屋上へと移動するギルフォードと海とオールバー、屋上ではもう半分ほど溶けているダルサロッサの氷像が元の形へと復元していく。
しかし、元に戻っただけだった。
「どういうことだ? 何故元の姿に戻らない?」
オールバーはジッと見つめていき、周りをグルグルと回っていると結論を出した。
「男の呪法の一部を外部の呪法が強化していたのだろう。この体男の術が原因になっているが、氷を維持しているのは別の奴だな。そっちを殺さないと術そのものは溶けないようだ。まあこの状態で放置しても最悪大丈夫だろう。今度は溶ける気配がなさそうだし」
「だがこの場所に放置は少し心配だな…どうしたものか…」
「移動させましょう。あの建物か…この周りにある場所で冷凍庫のような場所を探して」
「鍵を掛けられたら良いな。海。重ね重ね済まないが探してきてくれないか? 早いお前が探してくれるまで俺が此所で護っている。その方が効率は良いはずだ」
「分かりました。少しだけ時間をください」
そう言って海は走り出していきこの周りをしっかりと見て回ると、肉を取り扱うお店の奥に巨大な冷凍庫を発見した海。
急いで戻ってギルフォードと共にダルサロッサの氷像をそのまま冷凍庫に入れてから電子ロックを掛ける。
因みに電子ロックは海とオールバーが能力でハッキングしてパスワードを変更した。
「これで安心だな。とりあえず別の呪法者を探した方が良さそうだが。海は俺に何か用事があるんじゃないか?」
「そうでした。実はアメリカ軍の特務部隊が現地入りしているらしく…連携しようとしています。それで、此所が終わり次第建物の方へと制圧に向って欲しいと…」
ギルフォードと海とオールバーの視界の先には大きな建物が見えていた。




