芳蘭中央市場事変 1
俺達が乗る列車が香港を出発したのは午前六時と比較的早く、地下を走る列車は『ゴトン』という音と振動が床に直接座っている俺達の尻を刺激し、俺は対面で揺れながらもグビグビと酒を飲むライツをふと見つめる。
広い肩幅に服の上からでも分かる鍛え抜かれた筋肉、短く切りそろえられた髪は厳つい顔つきを更に際立たせていた。
その全てがラッパ飲みしているウイスキーと思われるお酒の瓶を加えていることで全て台無しになっているのだが、どこのアルコール中毒者だよと突っ込みたくは成る。
運転しているのはベベルなのだが、ホークは白い目をライツに向けて非難を強く含んでいるが、全く気にしないのがこのライツというアクトファイブのボスであるのだ。
この人上海攻略線もその後の香港攻略線も全く役に立たなかった。
ボーンガードはそんな状態の中で筆ペンをクルクル回してマイペースを貫いており、俺は仕方が無いと思い諦めてからジュリに「何処に行くんだ?」と聞いた。
「北京に比較的近い場所にある新都市である『芳蘭』と呼ばれている都市だよ。古き良き中華って感じの街並みが残る場所と新都市らしいビルディングなどが集中して居る場所と二カ所があるの。まずはそこへと向うの」
「そこから乗り換えか?」
「そうなんだけど。正確には乗り換えじゃ無くて芳蘭を制圧しないといけなくて…」
「制圧しないといけない理由があるんだ。ソラ・ウルベクト。芳蘭は北京に近い場所と言うこともあり北京と直接繋がっている路線がいくつも用意されており、その制御装置もまた芳蘭にある」
途中でホークが引き継ぐ形になったが、そんな話しにギルフォードが割り込む。
「到着して直ぐに街に散開して情報収集で良いのか? それとももう君達は芳蘭という都市の情報を手に入れているのか?」
「芳蘭は陸上からの侵入が不可能になっており、入るためには鉄道での侵入しか無い。しかし、ウォンはこの芳蘭でも破滅島と呼ばれているプロジェクトの為に施設を地下に造っており、その為にこの路線を組んでいる。ただ、セキュリティの為か北京へと直通を使うには別の出入り口を探さないといけない。地下の施設から別の地下の施設までは流石に直接は繋がっておらず、街中を経由していくしか無い。これは恐らく北京が近いのと、周りから物資がこの街まで集まる事が理由だろう」
要するに北京に物資を集めるのにこの街を経由地点としつつ、同時に防衛拠点としての側面があるのか。
なら恐らく芳蘭の中に大きな軍事基地があるに違いないし、その軍事基地は都市戦も想定された訓練がされているのかもしれない。
「もう分かっているかと思うが、芳蘭は都市防衛用の軍事基地が備え付けられており、街中でいきなり騒ぎを起こせば即都市戦へと移行するだろ。特にお互いに街中で問題行動を起こしかねない人間が多いんだ…気を付けておくように」
俺達はレクターとベベルをふと見る。
どうやらこの二人には何を言われているのかまるで理解出来ていないようで、二人揃って首を傾げている。
間違いなく自分が都市内で問題を起こすかもと疑われているとは微塵も感じていないようで、そういう全く考えてくれない部分は結構嫌いだ。
まあ言わないけどさ。
無駄に論争になるだけだし、無駄に傷つけるだけだしさ。
「到着後まずするべきなのは北京行きの地下列車の場所を探し出す。同時に軍事基地の場所を把握しいざ問題が起きたときに動けるようにする。我々の宿泊する場所を選んでおきたいところだな」
「それも到着後に直ぐ調べなくちゃいけないことですね。出来れば早くに決着を付けたいところですけど…」
「ああ。そうだな…宿泊施設は私が探そう。どうせ連れていても役に立たないなら私がボスを管理する」
「おいおい。私がまるで役に立たない男のようじゃ無いか」
「ようじゃ無いかが余計だな」
ホークはそんな辛辣な言葉を投げかけてライツからの言葉を完全に無視。
じゃあ俺達は北京行きの地下列車の場所を探そうか、それとも軍事基地の様子を一旦見に行くべきか…いやレクターを引き連れて軍事基地の近くまで行きたくないな。
そう思って思案顔をしているとホークは「君達にはまず軍事基地の場所まで行き、調べてきて欲しい」と頼まれてしまった。
「良いのか? こっちにはレクターが居るんだぞ」
「私が居ない状態でベベルを抑えられる自信はボーンガードには無いだろう? ならまだ北京行きの地下列車を探す方がトラブルを起こす可能性が低い」
「なるほど。確かにそうかもしれない」
「皆で俺がトラブルメーカーみたいに! トラブルを俺が造るんじゃ無い。トラブルが俺を巻き込むんだ!」
「お前がトラブルを造って周囲から集めてくるんだよ。二重の意味でのトラブルメーカーなんだよ。自覚しろって。いい加減」
トラブルを造り出して、トラブルを周りから集めてきて、トラブルを俺に押しつけるというもはや三重の意味でのトラブルメーカーだ。
俺にとっては迷惑この上ない存在なのだが、それでもこいつ俺の友人なんだよな。
「今回はビシッと首輪を付けるからな。マジでトラブルを起こしてみろ。お前を身代わりにして俺達は帰る」
中国とかもはやどうでも良くなるわ。
お前だけでなんとかしろ。
「では、その方針で行こう」
俺達はまず到着後三つに分かれることになった。
俺と中心にレクター、海、ギルフォード、ケビンとジュリの人間サイドとブライト、エアロードとシャドウバイヤ、ダルサロッサにシャインフレアとオールバーの竜メンバーは軍事基地の場所を把握し内情を調べる。
ホークとライツは二人で宿泊場所と拠点を確保し、その一帯の安全を確保する。
残りのメンバーは北京行きの地下列車の停泊場所を探し出すこと。
まず俺達は地下列車の停車場から階段で上まで上がっていき、金属製の片開きのドアをそっと開くと地下のアーケード街へと出てきた。
隙間から人通りを確かめて人混みに紛れ込むように歩き出し、追跡者がいないことをしっかりと確認してから俺達は一旦落ち着く。
「地下街だな。一旦上へと行こう。そこから行動開始だ。地図を入手して軍事基地の場所を把握後一旦近くまで移動しよう」
「それで良いと思うよ。まずは地下から出よう。地下は監視カメラが多いし、あまり彷徨いていると逆に目立つから」
「だな。あそこに上に上がるエスカレーターがあるからあれで上がるぞ」
ギルフォードがエスカレーターを発見して上へと登っていくと、ビルディングが建ち並ぶ金融街に出てきたのだが、ふと後ろを振り返るとそこには赤く塗装された建物が並ぶ中華街が広がっていた。
結構人通りが多いエリアな用で結構賑わっており、円状に広がる石造りの広場に提灯型の街灯にベンチや屋台が並んでいる。
案の定エアロードとシャドウバイヤが直ぐさまに反応するのだが、俺は「後にしてくれ」と頼み込むと、ダルサロッサがカメラを構えて取り始める。
そっちも後にして欲しい。
パシャパシャと幾つか写真を撮ったら満足したのかスタスタと俺達の元へと歩いて行くる。
此所ではスマフォを使っても地図が表示されないようだがらそっち方面では無理。
となるとコンビニみたいな場所で地図を購入するか、それとも情報屋みたいな人達を探し出すか、それとも近くに居る人達に聞くか。
「周りに聞くのは良いですが、どう聞くつもりですか? 軍事基地の場所は何処ですかって聞くと怪しまれますよ」
ケビンの指摘もごもっともである。
どう言い訳しても軍事基地の場所を聞くとどうしても怪しく取られる。
と言ってもコンビニみたいな場所で売っているとも思えないので、俺達はこの辺りを見て回ることにした。




