小休止 10
聖竜が一体何が言いたいのかと思えば、結局でジェイドとボウガンの事だったのだろうが、なんかこう…話が逸れていく傾向があるので結果が良く分からなかったりする。
まあ良いかと思って黙っていることにし、その分ならもう直ぐ終わることだろうと思っていると聖竜は「では本題だが」と語り出した所で俺は「嘘だろ」と愕然としてしまいそのまま正直に言って絶望した。
何故神は俺に試練を課そうとするのだろうか。
これからが本題だったのなら今までの会話は一体何だったんだ?
もしかして俺を寝かさないという想像を絶する嫌がらせだったりするのだろうか、だとしたらそれはもはや成功したと言えるだろう。
寝る時間が今この瞬間にもガリガリと削られていき、俺には目の前に居る前任の聖竜が俺の時間を囓るビーバーのように思える。
「ソラ・ウルベクト。君はもう魔法名は手に入れたな? あれはよっぽど能力に認められないと手に入るモノでは無く、それが手に入るという事はもう十分君は強いという事だ。ならこれからは『アンリミテッド』を常に使って戦闘をしなさい」
「何故? 使う必要性が無い時に使う意味ある? 結構疲れる上に敵に魔法名をバラすことになるんだけど」
「バレることの何がデメリットなのだ? 能力の詳細がバレると言うが、それを言えば能力名がバレた程度で全ての策が見透かされるわけじゃ無いし、使っていけばあっという間にバレる。問題は君の『可能性の支配』のようにアンリミテッド状態で無ければ安易に暴走する可能性がある異能は使った方がむしろメリットがあるはずだ」
それは一理ある意見であり、実際俺はアンリミテッドを使わない時でも時折暴走しそうになるが、もしアンリミテッド状態で完全にコントロール下に置くことが出来るならむしろメリットしかないのかもしれない。
「むしろ君の魔法の性質からすればバレてもさほどデメリットが無いだろう? 異能を打ち消すというのが最も分かりやすい能力だし、そもそも矛盾に近い能力故に例え可能性の支配という名前がバレてもむしろ相手の混乱を招くはずだ」
「それもそうですね。じゃあ今度からそうすることにします」
早く解放されてさっさと眠りにつきたい俺からすればもう抵抗することすら止めることにした。
この場合無駄に抵抗すれば無駄な時間を過ごすことになるだろうし、良く分からないこの空間ともおさらばというわけだ。
と言う思いで心の中で「あと少し」と言い聞かせていると、前任の聖竜は「さてと…今度こそ本題だ」と喋り出した。
何時になったら本題が始るんだ?
「今度こそ本題だ。今度こそ」
「これで次があったら俺は此所で怒って能力を行使する!」
「本題だが。無間城という城について念の為に話しておこうと思ってな。あれは絶望から成る城であり、その性質上あらゆる物質を消失させるという驚異的な能力を持っている。しかし、帝城が有る限りその能力にも制限が掛かってしまう。だからこそ私はガイノス帝国を建国したのだ」
あのドイツで見つけた深淵の底に封印されていた逆さまの城、帝城とは相反する存在であると教えられていたし、その封印を解くことをジェイド達の目的にしていたはずだ。
最もこの中国の何処かにあるその城の封印場所なんて俺は知らないし、ましてやジェイドがどこに居るのかは分からない。
しかし、何故今更そんな事を言い出したのか。
「私が此所に現れる事が出来たと言うことは、ジェイドは少なくとも封印を解いたと言う事だ。しかし、あれは封印を解いて直ぐに稼働するわけじゃ無い。その為に必要なモノがもう一つ。それは膨大なエネルギーだ。それも稼働する際に必要なエネルギーでは無く、無間城の意識を覚醒させるショックに必要なエネルギーだ」
「それって稼働に必要なエネルギーじゃないの? それとはどう違うの?」
「稼働に必要なエネルギーは恐らくエネルギー生命体から得ているはずだ。あれが有る限り無間城を動かす分には特に困らない。だからこそ無間城を目覚めさせるためにエネルギー生命体を完全に揃えたかったというのは有るのだろう」
「でも手に入っていない。エネルギー生命体の半分はアンヌが管理しているはず。まさか取り出そうと?」
「嫌…それは無い。それが出来るのならもう実行しているはずだ。それこそロシアでの戦いで時間稼ぎをしたりはしないだろう? したのだろう? ロシアの地で時間稼ぎを。あの時間稼ぎはジェイドが封印を解くのに余裕が欲しかったのと、覚醒させるのにも時間が欲しかったからだ。その全ての条件を揃えることが出来たのが中国だったのだろう」
ジェイドが無間城の条件を全て満たすことが出来る絶好の場所こそが中国だと言ったが、それに破滅島はどの程度関わっているのだろう。
ウォンという男が何を目論んでいて、何を目的にしているのかまるで分からなかった。
「それは中国が絶好の場所だったのか? それともその中国に覚醒させる条件を整える人間が居たから偶々選ばれたのか? どっちだ?」
「後者ですね。それこそがウォンだったのです。彼が若き研究者時代に作り出そうとした人間の科学力が到達する一つの結論。それが必要だったのでしょう。ジェイドからすれば『自分がいれば完成する』と思われるほどの科学力がウォンにはある」
じゃあ破滅島はやはり破壊した方が言いと言う事か?
なら破滅島がどんな兵器なのか教えて欲しいけど。
「それは出来ない。それを教えれば結末に左右することになる。私の計画通りにするなら破滅島の完成は絶対です。もしここで破滅島が完成しなければジェイドの計画が更に延びる。そうなれば更に犠牲者を出さなくてはいけなくなる。破滅島が完成した際の犠牲者の方が少数で終わるのです」
「それって破滅島が完成したら犠牲者が出るって聞えるんだけど?」
「出るでしょう。その兵器としての性質上…」
それを聞いて俺が納得すると思うのか?
むしろそんな話を聞けば俺としては頑固として阻止するに決っているだろう。
「絶対に嫌だ! 未来なんて分からなくて良い。そんな遠い見えない未来の見えない犠牲より、俺には見える未来の見えている犠牲を阻止する方がよっぽど大切だ!」
「そうでしょう。ですが、それをすると言うことは三十九人の遺志を蔑ろにすることだと言うことを忘れないように」
「……彼女達がそれを望んだと!? これから起きる犠牲が必要な犠牲なのだと!?」
「そうです。破滅島は完成してもどのみち直ぐに破壊されます。ジェイドの性格と私の計画通りなら間違いなく。その時貴方は目撃することになります。人間の英知すら超える無間城の力を」
「だから犠牲を見逃せと? 俺は出来ない相談だ!」
「どのみち私は教えませんよ。例え貴方が此所での出来事を知って阻止しようと動いたとして、どうやって阻止するのですか?」
まさか夢での出来事をそのまま真に受けて、しかも何処がどう狙われるのか全く分かりませんなんて言えるわけが無い。
でも、だからと言って今から起きる惨劇の地が何処なのか分からないまま放置なんて俺には出来ないんだ。
まだ未来なんて確定していない。
未来を見てもその通りになる訳じゃ無い。
未来は形を持たない。
それはそれぞれの人の意志で簡単に変わるからだ。
人は迷い、時に戻って、それでもゆっくりと前に進みながらそれでまた迷う生き物だ。
「変えられない結末なんて無い。俺はそれを信じたい」
「そうですか。でも…この未来は変わらないでしょう。この会話も私達が見たとおり」
最後に聖竜はハッキリと「もう未来は決っている」と告げた。




