小休止 6
結局その後も幾つか観光名所と言っても良い場所を回った後、俺達は指定したホテルへと戻っていくのだが、宣言通り彼女達は夕食を軽く食べて行くのを俺達男性陣は若干引きながら見守った。
何故あれだけ食べてまだ食べることが出来るのか不思議でならない。
胃袋の不思議を垣間見た瞬間だが、俺は敢えて気にしない方針をとることにし、結局そのままそれぞれの部屋へと戻っていくのだが、ブライトはともかく何故エアロードとシャドウバイヤは俺の部屋へと入ってくるのだろう。
俺の部屋は彼等のたまり場では無いといい加減主張しなければ成らないのだろうか、それとも他の部屋を進めれば行くのだろうか?
この際ハッキリと言っても無駄なのは分かっているし、もう言わない事にした。
俺はカーテンを開けて窓の外を確認するように右から左へと顔を動かすと、明るい街並みの風景が見えてきた。
この新たに開発された都市はどうやらただビルディングが並んでいるというわけでは無く、歩いていない場所をスマフォで調べてみた感じでは石造りのヨーロッパを意識した建物も大分造られているようだ。
それこそ繁華街と呼ばれている場所や住宅街、学生が集まりやすい場所などはそういう傾向が強く、金融街や宿泊施設や観光客が集まりやすい場所はビルディングが建ち並んでいるような印象だった。
これだけ明るいとまだ歩き回ってみたい印象だが、どうだろうと時計を確認すると七時…時間的にはまだ余裕がありそうだ。
となると俺はブライト達をどうにかする必要があるようだが、そんな時まるで俺の気持ちを受け取ってくれたようにジュリが部屋のドアを鳴らす。
「部屋で簡単にティータイムするけど来る?」
ジュリの提案に対してエアロードとシャドウバイヤは直ぐさまに「行く!」と答えたが、ブライトは俺の顔をジッと見つめたまま動かない。
何かに感づいているような素振りを見せているが、まさか俺がこの後出掛けようとしている事に把握しているのだろうか?
まさかまさかと思っているとブライトは笑顔で「僕は良いや」と断った。
間違いない。
ブライトは俺が出掛けるともう理解して居る。
ジュリはエアロードとシャドウバイヤを連れて部屋から出て行くと、俺はウエストポーチを胸に斜めがけした状態でブライトを見る。
完全にお出かけモードになっている俺にワクワクするような素振りを見せるブライト、俺は小さく「行くか?」と訪ねるとブライトは喜んで俺の服の中へと入って行く。
もうすっかり定位置になっている気がするが、まあブライトが気に入っているなら良いとしよう。
そう思って部屋から出ると師匠までもが俺の背中にくっ付いてきた。
「私も付いていくぞ。と言うか部屋に一人放置するな」
俺はもう黙って従うしか無かったが、こうしている間もエアロードとシャドウバイヤはティータイムを続けているだろうし、そのティータイムも何時終わるのかなんて分かったものじゃない。
俺は部屋の人に鍵を一旦預けて出掛けていき、地下鉄に乗って目的の場所へと向った。
実は観光名所では無いが、小綺麗な石造りの街並みと一定間隔で植えられた植木、ビルディングでは無い高くても五階建て程度の建物が雰囲気を醸し出している場所。
地下鉄のホームから階段を上っていくと右隣に大きな道路が見えてきて、反対側には車が入れないように柵で隔てられている人通りが出来ている。
一歩入る道を間違えたら迷子になりそうだが、俺の目的地はそこではない。
「此所…何処? 僕今日来てない気がする」
「実は回るときに観光名所でスマフォで調べたんだけどな、この辺は出てこなかったんだよ。偶々この近くをケビン達と回った時スマフォで出てきたから興味が出たんだけど、その時はケビン達は回る場所をもう決めていたから敢えて言わなかったんだよ。夜に時間があれば回ろうと思って」
「そうなのか。だが…学生もそこそこいるみたいだし、学校が近いのか?」
「近くには二種類ほど大学と幾つか高等学校もあるみたいだ。だからか、この辺は学生が楽しめる類いの娯楽施設が多いみたい。映画館からゲームセンターまで色々だよ」
まあ映画館やゲームセンターは俺の目的地じゃないので此所では一旦無視、俺の目的地はこの先にあるとあるお店なんだ。
そう思って道路沿いを歩き出していく。
「なんか帝都の北区を思い出す光景だな。此所は」
「う~ん。どうなんだろうな。クライシス事件の後街開発計画の際に幾つか資料を提供した中にあったはずだけど…参考にはしたのかもね」
「学生が多いけど大学生?」
ブライトが結構遊んでいる学生を見つける度にそんな事を俺に尋ねてくるので俺は「多分」とだけ答えた。
この場合、夜に遊んでいる高校生がいる方が問題だと思う。
俺は歩いて十分ほどの場所にある四階建ての建物の中へと入って行く。
左右に開くタイプの自動ドア、マットを踏んで中へと入って行くとそこには沢山の家電製品が並んでいた。
「家電製品を使って居るお店? ううん。これは…魔導機? あれ? 中国って魔導機を扱っているお店が出ているの?」
「中国の中でもこの香港はまだ都市開発計画の中でもまだ外の影響を受けていたらしく、外から幾らか店が出店しているらしいんだ。街中を歩いたときも外国産のお店を幾らか見つけただろう? 最近じゃ魔導機を取り扱うお店はドンドン出店しているようだし」
「ソラはこういうお店が好きなのか?」
「まあね。自分でも昔は弄っていたし…流石に一から開発しろって言われたらそれは無理だけど。こういう所に来て珍しい部品なんかを見えると改造したりしたく成るね。カメラとかパソコン程度なら組み上げる事ぐらいなら出来る」
「ソラ凄い! じゃあどうして通信機とは造らないの?」
「? いや…あの場合は市販の物を買った方が確かだしな。ドイツで壊れたときも端末を回収できればまだ修理できたかもしれないが、もう回収は不可能なレベルだったし」
本当にあれは悔やまれる。
あれは購入した後で個人的に改造を繰り返していた一品だったし、今では使われていない貴重な品を使っていたのに…クソ。
結構高かったんだぞ。
「ならジャンク品探りに? 僕そういうのは良く分からないんだけど…こういう所で買える物なの?」
「流石にジャンク品は買いに来ていないさ。ただ中にはその国でしか買えないような品があると聞いたからさ…アメリカの時はそんな事をしている暇が無かった上、精神的に無理だったし。ドイツの時も…」
回れなかったので軽いストレスだったりする。
俺はそこまで喋った所で地雷を踏んだとわかりふと黙り込む。
俺がアメリカで回る余裕が無かったのは師匠が死んだからで、幾ら生き返ると聞かされていてもあの時の俺はその後も余裕なんて何処にも無かった。
師匠としてもそんな思いを俺にさせていたと言うだけで後ろめたさがあるし、そんな思いをして欲しくないから俺は成るべくその時の話をしないように心掛けたつもりだった。
しかし、最近どうにも気が緩んでいるような気がするのでこれを機にまた気を引き締めよう。
そう思って品物を見て回ってみると珍しい品が幾らか並んでいることに気がついて俺は食い入るように見る。
「僕どれも同じに見える。でも、このお店なんで部品まで並んでいるの?」
「このお店の系列…『エルダー商工』は魔導機関連を扱う部門でも有名で、その筋では大手だよ。特にこのエルダー商工は部品まで扱う事でも有名で、自力で魔導機こそ作れないが、魔導機を改造できるようにと販売しているんだよ。まあ、ジュリの高性能タブレットは改造する余地がないから無理だけど」
あれはマジで高性能なんだよな…。




