嘘は誰の為に 11
まだ各寺院での鏡を破壊する少し前、戦火が開かれたばかりの頃ソラはマリアから一枚のジャケットを手渡されていた。
「悪いがソラよ完全に同調しシステムのテストを終えるまで鎧を使わんでくれ。ラウンズに関しては数に限りを持つがまあ、いいじゃろう。その間はこのジャケットを使ってくれんか」
「このジャケットは?見た感じタダのジャケットに見えるけど?」
「合成繊維で編まれており、言ってしまえば軽量サイズの防弾ジョッキじゃと思えばよい。無論あまりダメージを受け過ぎればボロボロになってしまうじゃろうがな」
「炎の攻撃は?」
「無論イケるはずじゃよ。ほんの一時間以内の話じゃ、これで我慢してくれ」
マリアが手渡されたジャケットはガイノス帝国軍が着用する青色のブレザー型で、そのジャケットを受け取ると俺は黙って黒いTシャツの上から着込む。
確かに軽く丈夫そうに見えるそのジャケット、俺は緑星剣だけを腰に召喚する。
「さて……行ってくるよ。群がっている飛空艇を少しでも落としておきたいからな」
俺はそのまま甲板エリアまで移動して行き、戦火が開かれた第一島周囲の空は飛空艇や戦艦の争いで激化していく。
その激化はあっという間に周囲の島々すらも巻き込んでいく、この飛空艇は第一島の周りを飛び交いながら小型の戦闘用の飛空艇五機を相手にしている。
本来ならエアロード達三人の竜が相手してくれればいいのだが、自分の周囲にいる敵の相手をするのに忙しようであまりこちらの援護にまわれていない。
というよりはこっちが速めに援護にまわってやった方が良いだろう。
ジャケットだけでどれだけ戦えるのかが不安で仕方がないが、文句を言って解消されない問題ばかりが周囲に漂っている状況。
俺は両足に『風属性』の力を籠め、柵に右足をかけてからまるで竜巻に巻き込まれて高く上昇していくようにありえない跳躍をする。
さすがに飛空艇も離れた距離と上空を埋められると予想していなかったようで、俺は緑星剣に『風属性』を纏わせながら飛空艇を真っ二つに切断する。
自分でも驚くばかりで身体能力が上がった気がするというか、疲れにくい状態になっている。
星屑の鎧が無いお陰なのか、俺としては体力をなるべく温存するべくジャケットの防御力に期待したい。
と言ってもマシンガンのような攻撃で全身を襲われたら間違いなく致命的なダメージになるだろうし、なるべく回避した方が良いだろう。
壊れた飛空艇の側面を走りだし、再び跳躍しながら別の飛空艇を横に薙ぎ払うその瞬間、内部から驚きの声が聞えてきた。
「飛空艇を真っ二つにするような力なんて………将軍クラスぐらいしか!」
「しかし!外に写っている人間はどう考えても士官学生に見えますよ!?」
右側面の翼を切りつけ、真上に移動してエンジン部分を切り落とすとそのまま一気に跳躍していく。
というより将軍クラスの人間ってそんな人間離れの行動がとれるんだという事に衝撃を受ける。
確かに、ガーランドから指導を受けた時、俺とレクターを相手にして息を乱さないばかりか、そもそも体を殆ど動かしていない。
「あの人の化け物ぶりを見ると……父さんも同じレベルの人間という事だよなぁ。まあ、あの人達と同レベルになろうとは思わないけれど。でも、足を一歩踏み出す言いにはいい頃合いだよな」
俺は風の力をコントロールする術を一か月ほど前にガーランドから習っている。
「いいか?周囲の空気や水などを武器を使って操作する際のコツは『武器先で掴む』ようなイメージだ。それが一番簡単な事だ。それ以外にも衝撃波を意図的に作り出す方法は正面に弾丸を撃ち出すイメージなどだな。魔動機で戦うような人間の殆どはこのイメージが非常にうまい。術式と違い、武器と一体化している魔導機は特にこの戦い方が非常に重要だ」
まあ、長い説明だったのだが。
それでも俺とレクターにとっては重要な授業だったのは確かだ。
「どの武装一体型の魔導機は間違いなくこの即席のイメージを作り出すのが重要になる。特にお前達はあらかじめ造っている術式をそのまま使っているだろう?それでは時間がかかり過ぎる。環境を利用するのが重要だ」
まずはこの飛空艇戦で風を掴むイメージを作り出そうと思っての戦闘、俺の場合は魔導機のようにあらかじめ術式を記録させることができないので、ガーランドの説明通りに戦おうと思うと少し難しい。
しかし、斬撃を繰り返していく間に少しずつ慣れていくのが見て取れた。
五機目を撃ち落とした段階でいったん甲板エリアに戻っていく。
「マリア!エアロードの方がやばそうだ!この戦艦で大型クラスをあいてにしてくれ!俺はエアロードの援護にまわる!」
「分かったが、正直に言えばこの戦艦では大型クラスを何機も相手にするのは厳しいぞ」
「見た感じガイノス帝国軍の超大型空母が残りの二機をあいてにしてくれている!マリアは最後の一機の相手をしてやってくれ!」
俺は大きく跳躍していきエアロードを鉄製のロープで拘束している飛空艇を三連撃をお見舞いし、そのまま半壊した飛空艇を足場に大きく跳躍する。
「大丈夫か!? エアロード!」
「こいつら厄介だぞ!撃ち落とそうともこうも群がられたら相手するのも大変だ」
「俺がロープを切るからお前はそのまま周囲の飛空艇を撃ち落とせ。被害を考慮する必要はない!」
大きなエアロードの体はある意味その辺のビルと同じぐらいの高さを持っており、細い腕や足ですらもいい足場になる。
俺は飛空艇からエアロードの体にからめとるロープを切断していく。
「その辺はもう考慮していない。シャドウバイヤに関しては第六島に飛空艇を落としている」
「待て!そこは奈美とイリーナとヒーリングベルが戦っていたはずだぞ!」
俺は苦情の1つや2つでも入れたい状況、ジッとシャドウバイヤを睨みつけるがどうやら見えない様でシャドウバイヤは黙って飛空艇を撃ち落としていく。
「お前の周りだけ嫌に多いな。何でこんなに多いんだ?」
「おそらくだが私が戦闘用では一番強いというのが知られているんだろうな。結構有名な話だ。ソラ! 見ろ」
俺がロープを切断しながらエアロードが示す方向に視線を向けると、そこには光りが複数近づいてくるのが分かった。
群れは一つや二つではない、ドンドン俺の元まで集まってくる。
俺の周りでエアロードのロープを光は切断しながら漂うその光の正体、それは鏡なのだと分かるのに時間がかかってしまった。
「皆………やり遂げたんだな?」
「そのようだな」
最後の一つの群れが俺の元まで近づいていき、最後に俺の右腕に詰まっていく中、俺の頭の中で皆の戦いがまるで記憶のように見えた気がした。
ボロボロになりながら、傷つきながら戦って辿り着いたこの鏡。
受け取るのは気持ちだ。
こんな力だけではないんだ。
俺の元に集まった太陽の鏡は完全に俺の右手の中へと納まっていき、右手の甲を優しく触れながら俺は皆の無事を願う。
第一島の周りに張っていた白い結界が解けていき、俺の視界には燃え盛る第一島の姿が見えてきた。
あの中で今まさに烈火の英雄や魔王が動き出している。
俺は気持ちを引き締め、鎧をあえて召喚しないまま真直ぐ見つめる。
後ろでは大型飛空戦艦あいてにマリア達が戦いを挑んでおり、エアロードの周りのロープを全部切断しきる。
「エアロード! 第一島まで近づいてくれ!」
「任せておけ! 乗り心地は保障せんぞ」
俺の言葉にエアロードは翼を羽ばたかせながら一気に距離を潰していく。
「皆………後は任せろ」




