闇を切り裂いて行け 8
止まったエスカレーターはもう既に階段と同じ気がするが、それでも俺達は階段から止まったエスカレーターかという結論に俺達は何故かエスカレーターを選んでしまう。
何だろうか…こうこっちの方が楽そうと言う気持ちがあるのだろうか。
先頭をレクターが走り、その後ろを海、俺、ケビンという順番で走っているが、この場合ケビンがどうにもレクターを避けているような気がして成らない。
本当にレクターは一体ケビンに何をしたんだ?
俺の知らない間に信頼を地の底へと叩き落とすような事でもしたのだろうが、こいつの場合そういう女性への信頼の失墜は今に始ったことじゃないので特に驚かない。
女心をまるで理解せず、思った事はそのまま口にして、その上欲望に対して忠実な点が多く見られるこの男はある意味モテない要素を全て兼ね揃えているような奴だ。
初対面の同級生にこいつは「アンタ嫌い」と何もしていないのに言われるぐらいで、流石にこのときに可哀想だと思ったのだが、こいつ中等部どころか小学校時代からこんな感じだったらしい。
最もジュリとは学区が違ったので知らなかったらしいが、それでも同じ小学校の人から話を聞いた時は皆「今と特に変わらない」との事だった。
でも、それでも俺はこいつが幾ら問題を俺の元へと連れ込んでも、どんな皮肉を俺が言ってもこいつは俺を信じてくれる。
俺が異世界である皇光歴の世界にやって来た時、誰も知っている人が居なくて正直心細い思いをしていた時、それでもこいつは俺に話しかけてくれた。
それだけは物凄く感謝しているし、何よりもこいつが俺にくれたモノは大切なモノばかりで、それだけで俺はこいつと親友になれて良かったと思える。
時々本当に後悔しそうになるけど、本当になんでこいつと友人なんだろうと疑問に思ってしまうときがあるけど、それでもきっと…一生そう思いながら親友でいるのだと思った。
まあ、だからと言ってケビンが抱くレクターの評価をなんとかしようとは思わない。
それについてはこいつの妥当な評価なので、敢えて何かフォローしたりしないのだ。
陸上へと戻ってくると眩い朝日がくるモノと思っていたが、どうやら現在上海は大雨のまっただ中なようで、元々寒かった気温が更に下がっている。
俺はともかくブライトが濡れると風邪を引くかもしれないと俺は星屑の鎧で身を隠す。
するとブライトから「見えない」という苦情がきたが、俺はそれを「我慢」と言って落ち着かせると、雨に濡れるオールバーが突然呟く。
「我は雨が嫌いだ。霧が晴れていく…」
「そっか…それは大変だね」
俺にはそうとしか答えられなかったが、それに対して海は「でも雨なら雷を有効活用できるんじゃ無い?」と意見を告げる。
オールバーは「まあ…」とイマイチ曖昧な答えが返ってきた感じを見るとどうやら彼は雷より霧が本質なのかもしれない。
しかし、実際かなり鬱陶しい雨で、勢いもかなり強い。
ケビンは持っていたポーチから簡易なポンチョを羽織だし、レクターや海も同じように羽織る中、この中でエアロードが元気だった。
どうやら雨が好きなようだが、はて…そうだったか?
「エアロードって雨好きだったけ?」
「さっきの戦いで微かに体に汚い血が付いたので洗い流したいのだ。それに雨は嫌いじゃ無いぞ…雨音を聞きながらうたた寝すると気持ちが良い」
「それ部屋に引きこもることが前提の話だよな? 確かにお前雨の日はどういうわけか大人しかったが…そんな理由があったとは」
「シャインフレアは嫌いだったっけ?」
「ええ。私は光竜。光が遮られる雨の日は嫌いです」
「? その理屈だと夜も嫌いなんじゃない?」
「いいえ。新月の日は別ですが、月明かりも淡く美しいので好きですよ。満月の日にベランダに出てゆっくりと月見をするのも乙です」
なんというかシャインフレアの満月の過ごし方が凄く慣れているそれだと思った今日この頃である。
その状況でオールバーは「満月とは?」と海に聞き出す。
海はその状況で落ち着いて満月について語り出すが、俺は敢えてその辺の内容を気にしないように歩き出す。
巨人が第三野営地前に居るはずだからそれを横から強襲しようという作戦になっている。
俺が走り出すのを見た海がそれに付いていき、同じタイミングで走り出したケビンや先頭を走っていた俺を追い抜いて再びレクターが先頭を走って行く。
もう少しで巨人が見えるはずだと思って走っているが、どういうわけか巨人が見えてこない。
あの第二野営地を出た時にビルの隙間から見えていたあの巨人がどういうわけか見えてこない。
「ねえ。もしかしてあの巨人ヘドロで出来ていたし、雨で流れて消えたわけじゃ無いよね?」
「いや…どうでしょうか…それなら天候を見て運用しないと思いますが…」
「そうだな。ケビンの意見に俺は一票だなレクター。なら運用しないと思うし、そんな弱点があるなら多分気を使うと思うぞ」
「ですね。少なくともスマフォを見る限り雨が降るというのは昨日の時点で分かっていたはずですし。なら場所を移したとか?」
「なら雨が足跡を消したのかも。あれヘドロだから移動経路が分かるはずだけど、この雨が洗い流してしまったんだよ…きっと」
俺が視認したときに居た場所を低い視点で探ってみるが、確かにここに居た痕跡はハッキリと残っている。
なら最前線へと向ったのかと思っていると、俺の考えを理解した海がビルの屋上目掛けて駆け上がって行く。
数分の内に戻ってくると海は首を横に振った。
「少なくとも第二野営地の方で騒ぎは起きていないですね。市街地戦であるこの第三野営地攻略戦も普通に進んでいるようですし…その上で居なくなっている…」
なら俺は走って第三野営地へと向って行くと、第三野営地は何かによって滅茶苦茶になっている。
驚くしか無いこの状況、しかし襲った痕跡がしっかり残っているのにどういうわけがその本体がここに居ない。
俺は左右を確認して上を見上げるが、よく考えると上空に移動していたら誰かが見ていそうな気がする。
瓦礫ばかりが残っているこの元第三野営地を見て回っていると、ブライトが「ソラ! 足下!」と叫んだ。
その声通り足下を見ると大きな大きな右目が俺をしっかりと見ており、何かがやってくると思ったその瞬間俺は太陽の鏡を展開して身を守ったが、それでも踏ん張る事が出来ずそのまま吹っ飛んでいく。
大きくビルの壁に衝突してしまった俺はそのまま素早く身を起こしてやってくる次の攻撃をダッシュで回避する。
ビルに叩き込まれるヘドロの巨人の右腕、大きく瓦礫の中から伸びており俺はその伸ばされている右腕を真ん中辺りで切り裂く。
「ソラ。ヘドロだから形を維持しなくて良いんだよ! 瓦礫の中に隠れるって戦法も出来るんだ!」
「でも…そんな事のために第三野営地を!?」
「もしかしたら第一野営地も第二野営地もそこに居る人達は皆犠牲にする前提だったのかも。ほら、第一野営地の時もそんな感じのことがあったじゃない」
確かにあの時中国軍は第一野営地を最後には使い切るつもりだったようだし。
じゃあ初めっから第三野営地を護る為に配置していたんじゃ無く、戦局上そこを利用するつもりで配置していたんだ。
頃合いを見て第三野営地を襲撃しその瓦礫に身を隠すつもりだったんだ。
恐らく地下での戦いは既に漏れていて、俺達が地下から上がってくる前に第三野営地を強襲、瓦礫に隠れて待ち伏せ。
最悪なのは雨が奴の足跡消した事だ。
あれでどっちに向ったのか分からなかった。
レクター達がやってくると、地面から無数に伸びるヘドロの腕が俺達に襲い掛った。




