闇を切り裂いて行け 6
上海地下街の開発が進んだのはここ数ヶ月のことで、その進み具合は上海復興計画以上の速度だったそうだ。
その復興を一身に担った人物の名を俺は初めて聞いたときまるで聞き覚えの無い名前だったが、案の定知らない人間らしくライツからも「知らなくて当然だ」と言われた。
なら意味深みたいに言わないで欲しいけれど、この人に何を言っても無駄な気がしたが、その開発計画を担った人物が裏でジェイドと繋がっている可能性が十分に高かった。
その人物はそれ以外にも幾つかの新たな都市開発計画を担っていたほどだが、その開発計画も随分後先を考えないというか、ライツ曰く私怨を込めている節があるとの事で、恐らく何かしらの憎しみを込めているのだろうと。
その人物の名前は『ウォン・ジン』という名前の二十代の比較的若い男性とのことで、どういう人間なのかまで分からなかったが、少なくとも設計関係で力を持っているのだろう事は想像出来る。
問題はこのウォンという人物がどうにもこの上海にまで現在来ていることが判明したのだ。
一帯なんの目的があって現在激戦区の一つになっているこの上海に戻ってきているのか、それが何を意味するのかもまるで分かっていないのだが。
それでもこの上海で何かが動き出そうとして居ることぐらいは俺達にもハッキリと分かった。
しかし、この場合気にするべきなのは六大都市開発計画と呼ばれている都市開発よりこの上海の地下街を優先したことである。
それも陸地の方を優先して進めているようで、この都市地下で何をしているのか少しばかり気になっていた。
何かを掘り進めていることは間違いが無いが、それが何なのかは何も理解出来ない。
レクターが先に進んで三十分ほどが経過した時、奥からレクターが駆け足で戻ってきた。
一体どうしたのかとふと不思議に思っていると、レクターが急いで戻ってくるので俺は「どうした?」と聞いてみた。
するとすっかり怒りが落ち着いたようでレクターは特に焦る様子も無く来た方向を指裂いて告げる。
「向こうの方にヘドロの巨人とそれをコントロールしている中国兵を発見した。なんか何かの施設の出入り口を守っているみたいでさ」
「施設を守っているってどういう意味だ? 何か地下に建物があるのか?」
「そういう意味じゃ無くて…巨大な金属製のドアを守っているんだよね。見れば分かるよ」
そういうレクターに付いていく俺達、レクターが立ち止まった曲がり角からレクターが指さす方向をジッと見て見ると確かにそれはあった。
金属製の綺麗な丸形の鍵が付いた巨大なドアとその前に陣取っているヘドロ状の巨人が上半身だけで守っているように佇んでおり、その周りを武装した中国兵が徘徊して居る。
中国兵を襲わないところを見るとどうやらあの巨人は中国兵によってしっかりコントロールされていることは間違いない。
「あれが報告にあった香港の研究所で造っていた巨人だな。いやその改造型か? 報告では二本足でしっかり歩いている巨人だったはずだからな。きっとこの施設防衛用にと改造されている巨人か」
「あの建物を守っているという事か。と言う事はあの先にはそれだけの施設があると言うことだよな? なんだろうな…」
「そんな話はベベルから聞いていないから中国サイドでも相当秘密にされている情報だな。内部に入り込んで居る奴らは聞かされていないから。ならあの中にウォンという男が居る可能性もあるわけだ」
「先ほど話題に出たこの上海地下街の開発を担っている男ですね。でも、その為にこの地下街を造ったのですか? ワザワザ?」
ケビンの疑問も当然のことで、俺だってそんな話を聞かされてまるでピンとこないのは確かな話なんだから。
そんな事のために地下街を造って何かの施設をここに配置した。
それがジェイドの思惑なのか、そこから外れているのかは分かりようも無いが。
ジェイドとて別段万能というわけじゃ無いだろうしな。
「ジェイドの外で働いている結果だとしたら何だろうな? 何かの兵器とか? それとも実験施設?」
「実験施設はないと思います。だって香港の島でその為に造られた大規模研究所がありましたし。だったらワザワザ巨人とそのデータを送ったりしないと思います」
「私もその少年に一票だな。研究施設はないし、こんな地下に兵器製造施設を造るとも思えない無いからそれもパス」
「そっちは分からなく無い?」
「いや無い。再開発が進んでいると言ってもここは上海。本来は娯楽文化が非常に強く、金がよく動く都市でもあるわけだ。そんな地下で再開発時に兵器造りの為に製造所を造ると? それに海岸線にある街や国境沿いなんてそれで無くてもいの一番に進行を受ける場所だぞ。私がこの都市開発計画を進める側からすれば絶対に配置しないな」
「俺も同意見!」
「レクターには聞いてない」
「ソラが虐める!」
レクターの言葉に俺は辛辣に返して、レクターはショックを受けるのだがそんなレクターにケビンは「五月蠅いわね」と更に辛辣に返す。
流石にショックで項垂れて黙り込むレクター。
「なら何? まさかこんな強固に固めてあるドアの先にカジノがあるとは言わないよな?」
「造った奴の趣味ならあるんじゃないのか? カモフラージュとしてもあるかもしれんが。まあ趣味でカジノを地下に無理矢理造ってその上それを隠しているのなら「なんだこいつ」って話だが」
「まあ普通では無いでしょうね。それが私怨なら尚更です」
私怨でカジノを無理矢理造りその上それが本人の本当の目的だとしたら心底残念な話だな。
何というかそれだけは絶対に存在しないで欲しい可能性だったりするが、まあそれはあの奥へと行けば分かる話だ。
と言うわけで俺はエアロードをそっと見た。
「嫌だ。お前が何を考えているのか分かるぞ。絶対に嫌だ。絶対にあれに立ち向かったりはしないぞ」
「待て待て。エアロード。俺の話を聞くんだ。お前があれを倒してくれると俺達に取って非情に有利なんだ。あの奥にどんなモノがあるにしても戦闘になる可能性が高いだろう? その上外でも現在激戦が続いて居るはずだ。そんな中で俺達がここで手間取ることは出来ないし疲弊するわけには行かない。戦闘という一点ではお前という存在において右に出る竜はいないだろう? 何せお前は戦闘では竜一の存在なんだから。これが一番効率の良い方法なんだよ。頭の良いお前なら分かってくれるだろう?」
「そ、そうか? そうかもしれんな」
我ながらよくもまあこれだけの言い訳が口から飛び出ると思った物で、その言い訳によってエアロードもその気になったのか体を大きく変えて巨人や建物に向って巨大なブレスを何十発も吐き出す。
その際に生じる強力な風にジュリがスカートをしっかりと抑え、レクターがめくれるスカートの方に視線を泳がせるのを俺はしっかり目撃し、レクターの両目を自然な流れで潰した。
悶え狂うレクターを再び鬱陶しそうな顔で見るケビン。
するとアッという間に回復したのかレクターが両目をそっと開けるとハッキリと「白」と発言した。
何の色を述べたのかイマイチ分からず俺はレクターの方を見ると、レクターの視線はケビンの短いスカートの中へと向けられていた。
ようやくレクターの視線に気がついたケビンは軽蔑と侮辱と怒りと憎しみを全て濃縮したようなもうこれまでで最悪と言っても良い目でレクターを見下す。
そして高速の蹴りがレクターの顔面にお見舞いされた。
「死ね」
「おお。短絡的な死ねだな。何というかその一言にケビンのレクターへの思いが全て乗っかっているのが分かる」