闇を切り裂いて行け 4
ギルフォード達はボーンガードが待つ旧漁師町へと降り立ち、皆で降り立ってから直ぐに周りを見回したが、正直に言えばゴミが山積みになっているし、漁師が使っていたであろうボートはボロボロでもう使いそうも無かった。
ジャック・アールグレイがなんの気遣いもまるで見せないままハッキリと「汚い街だな」と発言すると、それを聞いていたアンヌが「ちょっと」と制止する。
しかし、そんな発言真面目に聞いている人間がいるわけが無く、その辺に居る人間もホームレスのような人ばかりで正直まともに取り合う気がしなかった。
ホームレスも全く話を聞いている素振りを見せないばかりか虚ろな目で青空を仰いでいるだけ。
アンヌがそっと近付いていき「大丈夫ですか?」と聞いていてもまるで反応を見せないので触れようとしたがそれをボーンガードが「止めておけ」と制止した。
「この辺のホームレスは元々この街の労働の為にこき使われていた人達だ。寝る間も惜しんで働かされて最後は廃人と化しているだけさ。このホームレス達を救う術は無いさ。こうなって廃人と化したらもう放置さ」
「そんな…」
「労働途中でも関係なんて無い。使えなくなったら外に放置されるだけさ。でもこの辺に居ると言うことは多分だが家族が居るんじゃ無いか? やめておいた方が良い。絡まれたら面倒だ」
ボーンガードに黙って付いていくアンヌは心配な顔をふとホームレスの方へと向け、そのまま振り返らず歩き出す。
ボーンガードが目的地へと案内している過程でも中には彼等に恵みを求められたりして、そのたびアンヌが反応するのを皆で止めて歩き出す。
すると上陸する前から見えていた街を覆う大きな金属製の壁が見えてくるが、唯一の出入り口の一つが少し遠くに見えてきた。
距離を少し取った状態で見守ることになる。
「あれが都市へと入るために出入り口だが、見ての通り武装した兵士が外にだけでも四人で、その中にある建物に更に五十人は控えているはずだ。もし堂々と正面から突っ込んでいけば間違いなく問題行動になるだろう」
「待て。どうして中にある建物の人数まで把握しているんだ?」
「別の出入り口があるからさ。この街は古い村を無理矢理改造した名残が残っており、下に下水道が通っているんだ。そこから上陸できる。匂いが少々キツいが我慢してくれ。俺は錬金術でなんとかなるが」
「その術を俺達に適応するというアイデアは?」
「無いな。我慢だ」
そうして脇道へと逸れていくボーンガードについて行く面々、すると村から少し離れた場所にあるレンガで出来ている建物が残っていた。
錆びた金属のドアを軋むような音が聞えてくるが、ボーンガードはまるで気にする素振りを見せず奥にある階段を降りていく。
そのまま地下下水道へと入っていきキツい匂いが漂ってくるのを全員が我慢していると、ダルサロッサが気絶しそうになっている。
仕方が無いとダルサロッサを抱え始めるギルフォード、シャインフレアもレクトアイムもダークアルスターも匂いで鼻がひん曲がりそうになっていた。
「ここは匂いがキツいな…早く出そう」
ボーンガードはそのまま気にしないまま目的地へと歩いて行き、別の階段を上へと登っていくのをダルサロッサは恨めしい目で見ていた。
先ほどの錆びた金属製のドアとは違って綺麗な金属製のドアを開けて行くと、賑やかな声が聞えてきて、ボーンガードは外の様子をうかがいながらタイミング良く出て行く。
ギルフォード達の視界には酒を飲んで浮かれている大人達の姿と濃い緑色の壁や床、酒場っぽい内装が視界に入ってきた。
ジャック・アールグレイはそっと酒場のマスターの元へと向って中国語でお酒を注文し始める。
皆で落胆してしまうが、ギルフォードが「今後の動きを確認しよう」と言って適当な席に座り込む。
「さてこの街は聞いている通り左右に伸びている街で、大きな通りがど真ん中を中心に左右と上へと伸びている。ここはその中へと左側の方になる。目的地は中心部にある『管理官武将所』と呼ばれている軍が管理している建物だ」
ボーンガードがテーブルの上へと出してきた一枚の写真は十階建ての綺麗な建物が写されており、隠し撮りしたと言うことがハッキリと分かる内容だった。
「この建物を制圧するのが今回のミッションになる訳だ。因みに今上海組の方は第三野営地攻略に向けて全力で戦っている真っ最中らしいぞ」
「そう言えば結局昨日の戦いはどうしたんだ? 何やらヤバそうな話だったが?」
「ああ。結局なんとかなったらしいぞ。海だったか? その少年の介入で上手く突破したそうだ」
「そうか。やはり寄越して正解だったな…。こっちは数が減った分気合いを入れないとな…流石にそろそろジャック・アールグレイも本気を出してくれるだろうし」
「だと良いな」
他人事の様な感じなジャック・アールグレイに溜息を吐き出すギルフォード、そこでようやく回復したダルサロッサが「食べ物」と要求してきた。
ギルフォードは適当な食事を頼み始め、ダルサロッサは出てきた食べ物をドンドン食べていく。
「この街には誰か来ているのか?」
「キューティクルが出来ているという話だ。少なくともボウガンとカールの方は現在再び行方不明だな。あっちは無間城降臨の儀式の真っ最中かもしれないが」
「無間城ですか。私達は見ていないんですよね。確かソラさん達が見ているんでしたね? ドイツの時に」
「ゆくゆく奇妙な運命の中に居るな。あの少年は。無間城なんてそれこそ噂話でしか聞いたことが無いぞ」
ジャック・アールグレイは無間城という城を噂話でしか聞いたことが無い。
「そもそも無間城って何なんだ? 俺は知らないぞ」
「破滅をもたらす城と呼ばれて居るぐらいしかしらない。何せ古くさい噂話にそっと出てくる城だ」
ジャック・アールグレイの言葉に続くようにダークアルスターが口を開いた。
「無間城。メ・ラール・ヴォルガールと呼ばれている城であり、存在そのものが異能そのものと呼ばれている城でその性質は「破滅」だ。それ故に支配する事すら容易に出来る城でもあり帝城とは正反対の城でもある」
「随分詳しいな。我々闇竜、聖竜、影竜、光竜は始祖の竜から記憶を受け継いでいるのでこのぐらいは知っているさ。因みに帝城とは正反対の性質を持っている。帝城の名前は『メ・ガール・デルタカール』という名前だ。希望の帝城と絶望の無間城。デザインも正反対になっており、お互いがお互いに対になっているというのが重要だ」
「ではダークアルスターさんはどんなデザインなのか知っているのですか?」
「見たことは無いぞ。始祖の竜も見たことは無かったはずだ。深淵の底で生まれて異能殺しの手によって破壊されると言われている城。だから異能殺しを持つ者は始祖の竜によって導かれなければ成らないとな」
「あの少年がそんな存在ね…まあ背負うだろうな。あの少年なら」
「かもしれないな。だが…あの少年にそもそも選択肢があるのかと言われたら困るけどな。始祖の竜がどこまで知っていたか知らんが、多分そこまで知っていたとは思えない。成るようになると言うのが始祖の竜の方針だったと思うが。でも聖竜には詳細な計画を立てていた所を見ると恐らく勝つようには方針を立てていた様だが」
「ソラがいつか現れると予想していたと? それこそまさかだろう…」
「分からんぞ。ギルフォード。それこそ方法なんていくらでもあったはずだ。それこそ必要なモノはボウガンが生まれた時には存在していたはずだ…あくまでもタイミングだ。ならボウガンは恐らく貴族内乱も起こした可能性が高いな」
全てはボウガンが下地を整えていた可能性すら出てきていた。




