闇を切り裂いて行け 3
ソラ達が上海にある第二野営地で目を覚ましている頃、ギルフォード達はホークと合流して大陸側へと上陸する手筈を整えていたのだが、ここでホーク曰く問題が生じてしまっているとのことだった。
その問題とは香港の大陸側は都市開発が進んでおり、一昔前とは随分装いが変わっているらしく、新都市の方に戦力を集中する反面、どうしても直ぐには上陸できそうに無かった。
その話自体は前日、要するに海が上海方向に向った時に聞き、そのまま対策を一旦翌朝へと持ち越したが、やはり現状どうやって上陸するかは問題視されている。
そしてソラが起きた頃ギルフォード達も同じようにホテルの自室から出て行き食堂でホークと合流していると言うことだった。
ダルサロッサ達竜と共にバイキング方式のレストランで適当な食事を取りに行き、広めのテーブルで大人しく食べて行くと、まず先にとホークが口を開いた。
「やはり現状直ぐには上陸できそうに無いな。もう既にアメリカの海軍が既に上陸に向けて作戦を実行しており、空軍も一緒に作戦行動中だ。今日一日は突破は無理かもしれないと言う話だ、上海のようには行かないだろうな」
「そうですか…こちらは戦力が低下したので少々心配でしたが…この調子では上海組の方が先に攻略して北京へと上陸しそうですね」
アンヌはパンにバターを少し塗ってから少しちぎってから口に放り込むと、その隣では同じような仕草で食べて行くレクトアイム。
ホークはそんなレクトアイムを見た後で食べ方が汚いダルサロッサをつい見てしまう。
用意されたお皿に口をくっつけてそのまま犬のように食べているが、元々四つ足なのでそのように食べるしか無いのは分かるが、だからと言ってそれ以上に汚く見える。
かたやダークアルスターはナイフとフォークをキチンと使って丁寧に食べているが、こっちは何というか上品さというよりはいけ好かない貴族っぽい食べ方だと思ったホーク。
竜にも正確が出るなと思わざる終えない光景だった。
ギルフォード達もそのまま正確がよく反映されており、ダルサロッサほど汚くは無いがそれでも上品さとはかけ離れた食べ方をするギルフォードやダークアルスターと同じ用に食べているジャック・アールグレイ。
「まあいいさ。なら大人しくしていよう。どのみち香港を攻略しないと北京へと迎えないわけだしな。向こうが早く終わればこっちに手伝いに来るだろう」
「来れば良いな。あのソラという少年の正確を考えれば私やジャックの手伝いをすると言い出すかと言えば言わないと思うが?」
「私やダークアルスターは嫌われているからな…やれやれ…」
「自業自得だと思うけどな。お前達の場合は」
ギルフォードがボソリと呟くだのが、そんな事を一回一回聞いているジャック・アールグレイでは無い。
どのみちアメリカ軍側の上陸作戦が上手くいかないと事が進まないのが現状だったが、そこでホークが提案し始めた。
「そこでだ君達は竜を使った上陸が出来るはず。向こう側にボーンガードが準備しているはずだ。街は左右に伸びている構造をしている。街の海側には大きな壁が造られており、それが上陸を阻んでいる。だから右側にスラム街と呼べるほどの街が見えてくるはずだ。そこに向って欲しい。無論バレないようにな。私は上陸できそうな船を見つけて後で駆けつける」
「分かりました。それはそうと。どうしてジャック・アールグレイはそんな風に残念そうな顔をしているのです?」
「気にしない方が良いと思いますよ。アンヌ。どうせ「楽できなかったか」とか考えているのでしょうし…」
レクトアイムの言葉に「やれやれ」とだけ喋ってブラックコーヒーを飲むジャック・アールグレイ、どうやら図星だったようだと誰もが簡単に理解出来た。
これで上陸する手筈を整えた。
そんな時アンヌは少し気になった事を聞いてみることにした。
「そう言えばスラム街と呼べる街とはどういう意味でしょうか? 街自体は比較的最近できたんですよね?」
「急激な都市開発で人口は集まったのだが、その余波か住めなかった人や金のない人達が街からあぶれてしまい、街の外で質素な暮らしを強いられているようだ」
「ありがちな結果だな」
「急な下水などの整備から始り、街の外では街の中から出てくるゴミを分けたりとそういう仕事で生計を立てていたり必死なようだな。実際乗り込んでいるボーンガード曰く酷いらしい。まだ街に近い方は綺麗なところが残っているようだが、そこから外れていくとトタン屋根で出来た家が広がっているイメージだそうだ」
「戦後の日本じゃあるまいに…」
「それだけ急激な都市開発の余波で暮らす場所を追い出された人や街の経営者や一部の金持ちに目を付けられた人間達から追い出された人達が街の外で暮らしているそうだ。街は左右に伸びているが、そんな街の外壁に沿うよう出来たようだ」
「どうして急に都市開発計画が?」
「元々中国では人口が爆発的に増加傾向にあり、その上首都などの人口の多い場所はクライシス事件で吹っ飛んだ結果新しい住む場所を求めていた。その時元々あった開発計画の都市が幾つかあり、その場所の計画が急遽再スタートを切った。だが、クライシス事件の後で予算が少ない中で行なわれた都市開発計画だけに中国中にいた金持ちに資金調達を頼んで、その代わり優先的な権利などを与えた。その結果金持ちが幅を効かせて、その外で苦しい暮らしを強いられる人達が生まれたようだな」
「クライシス事件の後って事は本当に急に発達したんですね? だってあれって確か六月か五月かでしたよね?」
「五月下旬から六月上旬頃だな。そもそも帝都クーデター事件が四月の初めの事で、その二ヶ月無いぐらいにクライシス事件が東京を中心に起きた」
そんなホークの説明を聞いていたアンヌがふと訪ねる。
「その事件にもソラさんは関わっていたんですよね?」
「そうなるな。と言うかそういうことだと聞いているが? あの少年が中心に解決したとか…」
「良くそんなレベルで事件に関われますね…」
「あの少年の身の回りの酷さは少し考えさせられますね」
「そんな事はどうでも良い事さ。問題なのはその時クライシス事件では人口の多い街や首都が徹底的に狙われた。その時多くの街が吹っ飛んだ。その時に代わりの都市を急遽開発する必要が生まれ、そんな中政治関連が混乱した所にジェイド達が政治中枢を乗っ取った。そして強引な都市開発計画を更に急遽始めることになり、反対勢力を力で押しつけるという結果に終わったようだ」
「ならその都市開発計画に反対した勢力は…」
「八月に北京を始めに大規模クーデターが一部の市民と軍の一部で起きたそうだが、その際にメメントモリとキューティクルが鎮圧に参加して一掃されたそうだ。生き残った人達は都市開発計画の労働力として選ばれた。そして八月から二ヶ月ほどの速度で五つの都市を完成させた。この香港にはその内の一つがある」
「その労働者はどうしたのでしょうか?」
「アンヌ。考えない方が良いでしょう。どうせまともな答えがあるとは思えません」
「まあ、答えても良い。殺されては居ないが。大概の人間は過労死で例え生き残ってもゴミを漁って生きるか、ゴミ分別などの底辺の仕事をばかりさせられて暮らしているようだ。それこそゴミのような扱いを受けていると聞いている。中には人身売買の対象として売り飛ばされるなんて事にも成っているようだ」
酷い言葉にアンヌは言葉を詰まらせてしまうが、ジャック・アールグレイは全く空気を読まない口調で「だろうな」とだけしか答え無かった。




