霞の咆哮は海に力を 10
かつてこの無間城を使った侵略を誰もが考えつき、その全てが失敗に終わった事を知っているのはジェイドのみと成っていた。
無限の宝玉を持っていたはずの始祖の吸血鬼ですら失敗に終わっていたが、それでも彼女は惜しいところまで来ていたのは事実だった。
あの時聖竜を仕留めていれば違ったかもしれないが、それ故にジェイドはその計画が当時早すぎると実感したのだ。
聖竜は殺されると感じて皇帝一家と契約して逃げ延びる道を探り、結果始祖の吸血鬼は不死皇帝であるジェイドの手によって封印される。
それが千五百年前の真実であり、その遙か前に始皇帝が後に自らの墓となる始皇帝陵に儀式場を造ったのだ。
それを利用して始祖の吸血鬼自身降臨を急がせていたし、それでも何が足りないのか彼女は最後まで理解することは無かった。
無間城自身遙か遙か昔にこの世界にやってきた存在であったし、それを始祖の吸血鬼自身が知らなくても別に不思議では無い。
古代エジプト文明なんて可愛らしいもので、そんな時代より遙か昔より存在しておきながら封印された場所。
深淵なんて噂話にしか成らない場所に封印され、ずっと存在し続けている城は『破滅』をもたらすと言われていた。
その無間城と対となる存在として作り出して今なお世界に存在し続ける城こと帝城であるのだが、それもまたジェイドは知っていること。
あの城は帝国建国時より存在してずっと同じ形で維持され続けている『希望』の象徴でもあるのだから。
それ故にあれを破壊しない事にはジェイドの目的は達成出来ないし、それを全力で妨害してくることも予想出来る。
だがだからと言ってワンワイドゲームをしようと思うつもりなど存在しない。
ずっと昔かつての共である初代ウルベクト家の当主と決めた約束を果たすため、本当にこの世界には維持するだけの価値があるのかを確かめる。
「かつてお前は言ったな…「真の永遠とは繋がっていく想い」なのだと。お前はそれをあの少年の代にまで繋げて見せたんだ。確かめさせて貰うぞ」
ジェイドは不死者との戦いの中で大切な人を失った。
それがジェイドに『平和とは』と考えさせる切っ掛けになり、その答えが『平和の為には人は幸せを差し出すべき』と考えたのだ。
その己の答えを伝えたジェイドだが、友人が出した答えは「思いを繋げて行くことで平和を作り続けていく」という物だった。
当時は「甘い考えだ」と否定して何時しかの約束を残したのだが、そんな友人の思いが二千年も経ってずっと続き続けていることに驚いた。
ジェイドはもう『撃』の流派は滅んで居るのだと考えていた。
それでも続き続け、今あのソラ・ウルベクトという自らの挑む事が出来る英雄に繋がっていることに何か運命な物を感じてしまう。
「これも命が繋ぐ絆なのかもしれないな…」
かつて始祖の竜が告げた「命が繋ぐ絆を信じたい」という言葉、その信じた先が今なのかもしれないとジェイドは少しだけ考えている。
もしそうなら自分も少しだけだが信じて見たくなった。
永遠には永遠なのだと考えていた自分と、まだ見ぬ未来に希望を望み続けている事を選んだ友人。
「お前も信じたのかな?」
きっと信じたんだと考えた。
友人はそのまだ見ぬ未来を…希望の明日を。
メメントモリはふと考え事をしたいた。
機械として生まれてここまで生きてきた彼には合理的という言葉以外をあまり理解しにくい物があり、それは決して理解出来ないわけでは無いがそれでも理解するのに時間が掛る。
人を理解出来ないわけじゃ無いが、それでもこの世界の人間と言う種には少々変わった所があると感じていた。
メメントモリが生まれた世界では人は機械によって頼り切って育っており、それ故に管理される事に恐れなんて抱いて居なかったのだ。
それこそ人が選んだ平和の形であり、人は生まれてから死ぬまで全部機械によってスケジュール管理され、今日一日の行動すらも全て決める。
一分一秒を全部きっちり定めているのだからそこに争いなど有るはずがない。
しかし、それをかつてジェイドは「平和だが不幸だな」と告げた。
平和だが不幸。
その言葉の意味をしっかり理解出来なかったメメントモリは「争いが無いのなら幸せでは?」と訪ねるとジェイドは「そこに自由が無ければ幸せじゃ無いだろう?」と当たり前のように告げられた。
幸せとは、不幸とはという問いにメメントモリは全く答えを出せなかった。
「自分の道を自分で選ぶことを不幸だと考える者だっていると思う。そういう人間からすれば管理されることは幸せじゃ無いのか?」
「いいや不幸だな。一から十まで全てをスケジュール管理している事は生きているとは言えない。そういう人間は怠惰な人間という。結局人間自分で道を選ぶしか無い。そして選んだ道に責任を持つしか無いんだ。それが怖いというのは理由にはならないさ。大事な事は選択と責任だ。それが果たされて初めて幸せと呼べるんだ」
「それは強い人間では?」
「人間に本当の意味で強い弱いも無いさ。そういう私も弱い人間だよ。不死者に逃げているわけだからな…」
それは強さでは?
そう考えてそう聞いてみたがジェイドはまるで意見を聞くつもりが無いらしく、あっさりと否定されてしまう。
結局でメメントモリは「じゃあ強さってなんだ?」と堂々巡りに入ってしまった。
勝てば強さになるのではと考えてもそれをジェイドに否定される。
「勝ち続けて勝ち組みたいな人生を送っても最後に負けたら負け組なのか? 有終の美という言葉もあるだろう? 何を勝ちとする? 何を負けとする? 負け続けて最後の最後で勝てばそれは勝ち組か? じゃあ逃げて逃げてを繰り返して最後に生き残ればそれは勝ちか?」
「………」
「ほら。分からなく成ったろう? そのどれもを幸せに感じないと思ってしまったろ? 幸せを他人に決めさせて、他人と競い続けて生きている限り幸せはあるのか? だが、時として負けている方が幸せに感じるときだってある。大事な事はその一瞬一瞬を全力で生きてみることさ。不死者になった時点で負け組みたいなものだよ。怠惰で代わり映えのしない生き方をしている事を私は幸せだとは感じない」
「じゃあその瞬間瞬間を全力で生きて最後に負けても幸せだと感じるのか?」
「私はそう思うよ。だから私は負けても良いと思えるぐらい全力で生きているつもりだよ。私は人生の勝ち組になろうとは思って居ない…私は世界の選択者ではあっても、世界の勝者になりたいわけじゃ無い」
「負けて幸せと言えるのか?」
「いつか分かるかもな…」
ジェイドの言葉にまるで納得できなかった。
勝ちこそが価値を持ち、平和である事を突き詰めればそれは幸せでは無いのか?
「誰も困らないぞ。無理して努力してその結果夢が叶わないならいっそ自分が慣れる道を最初っから選んだ方がマシだろう? 無駄な事を排除するべきだ」
「それはお前が機械だからそう思うだけじゃ無いのか? 例え叶わなくても努力し続けていけば道は見つかるだろう? その夢だけが全てでは無いさ。幸せなんてその辺に沢山在るぞ。盲目的になるぐらいなら寄り道反り道を全力で楽しめ。以外とそっちにこそ幸せがあるのだから」
「それはジェイドがおかしいだけでは?」
そう思わざる終えないが、ジェイドは「どうだろうな?」と笑いながら去って行くのを思い出す。
メメントモリは「抗う」事を幸せだと考えられなかった。
辛い目にあう事をどうして幸せに感じるのか、無駄な事をし続けて願いが叶わないなら努力なんて最初っからするべきじゃない。
それでもジェイドはきっと笑って否定してこういう。
「お前はやっぱり機械だな」
と笑うのだろう。




