霞の咆哮は海に力を 9
オールバーは机の上でジュリから貰った食べ物を黙々と食べていきながらテントの中をジッと見ており、ソラ達が寝床作りに勤しんでいる姿を見ていても特に何も思う所は無かった。
人間という種をオールバーは特に詳しいわけじゃ無いが、それでも端から見ていて人間は少しだけ面白いと感じていたのだが、特にオールバーはソラ達は面白さでは他にひけを取らない用だと感じている。
最後の一つを飲み込んでから外の風景を見ようとテントの窓になっている場所まで移動すると、窓の外ではソラ達がライツと呼ぶ男が何処かへと歩いて行く瞬間が見えた。
オールバーはふと気になったのか、一人でテントから出て行きライツと呼ばれている男の近くへと隠れながら進んで行く。
姿を隠して聞き耳を立てていると、ふと隣にソラが姿を現した事に驚いてしまう。
声を上げそうになるのを必死で堪えるオールバー、笑顔をオールバーへと向けるソラはそっとライツの方へと聞き耳を立てて聞き始めると、ライツの近くにベベルが近付いていく。
「どうだ? この先の第三野営地の様子。報告を聞こうか」
「第三野営地の様子は第二野営地とは違って今のところ不死の軍団は確認できなかったが、その代わりに変わった兵器が投入されているようだ。それも巨人タイプの兵器だ。ぱっと見キューティクルという悪魔が使って居た能力を活用しているように見えるが」
「なるほど…その写真はあるのか?」
オールバーは香港で聞いた話を思い出し、例の施設で行なわれていた研究を持ち出した人物が兵器事上海に渡っているという話。
それが第三野営地の防衛に回されているらしく、それをオールバーはソラにするべきかと思っているとライツがふとソラ達の方を見る。
「隠れているつもりかもしれんが…いい加減出てきたらどうだね?」
ソラとオールバーはふと物陰から出て行き二人の前に姿を現すとベベルが本気で驚いた素振りを見せた。
「何時からバレていた? バレないとふんだんだけど…」
「視線でバレバレだ。直視されたら嫌でも気づく。で? 何の用事かな?」
「いや…そろそろ役に立とうとする気は無いのかと…」
「やれやれ。お前達と良いホークと良い…どうして私を働かせようと試みるのか。所で香港で面白い話を聞いていないかな? そこのオールバー君は」
「…香港のとある島にある施設で造られた兵器と研究内容を持ち出した奴がいるらしい。その兵器が恐らく第三野営地に防衛戦を引いている存在だろう」
「研究内容は香港にいる奴らから聞いた例の竜を道具化する内容なのか?」
「どうだろうな…あそこの研究施設は色々としていたそうだから違うかもしれないな。だったらあの…紅茶の名前みたいな奴はそう言っていた」
「ジャック・アールグレイか…どうだろう。まあ仕事の支障になりそうな話なら確かにするかもしれないな…なら持ち出した奴もいるのかね?」
「かもしれんな。蜂合う可能性は十分にあると感じた方が良いだろう」
そう言うとライツは大きな欠伸を上げながら「私は寝る」と言って歩き出していき、テントの方へと向っていく。
ベベルは「適当なボスだな」と言いながら別の方へと歩いて行くのをソラとオールバーは確かめてから自分達のテントへと入って行く。
すると中から枕が飛んでくるのをソラは片手で受止めて「何?」と聞いてみた。
無論枕を投げたのはレクターであり、ニコニコ顔だったりするがソラからすれば唐突な行動に怒りしか存在しなかった。
どうやらライツは別のテントへと向ったようで、ソラからすれば一緒のテントで無ければ良いと感じていたので良しとする。
「枕投げ大会!」
「寝ろ。明日も動き回るんだから寝ろ。出なければ無理矢理でも眠らせるだけだ」
「なら枕投げ大会だな! さあ…行くぞ!!」
ソラは枕を投げる素振りのレクターの顔面に目のも止まらない速度で跳び蹴りをお見舞いしてレクターの体を自身のベットへと叩き込む。
無論そんな事で気絶するレクターでは無いが、素早く起き上がろうとした所でソラはオールバーを力一杯投げ付けた。
レクターの顔面にくっ付いたオールバーは全身から雷を放ちレクターを気絶させた。
「よし…寝よう」
その声と同時にソラ達は眠りについた。
その夜ボウガンは中国のとある場所へと辿り着いており、そこは発掘跡地のような様子で発掘道具などがあちらこちらに放置されている。
そんな中で地下へと道を進んでいくボウガン、階段と言うよりはスロープになっている道を降りていき薄暗い道を更に奥へと潜っていく。
実はロシアでの結末後カールと共にこの場所へと向っていたボウガン、香港でキューティクルがヤバそうというカールの予測で現地に向ったが、案の定な結果だった。
キューティクルとメメントモリの二人は再び上海と香港の最終防衛ラインで待機することにし、今度こそジェイドから「油断するな」との忠告を受ける事に。
「遅い=ボウガン。何をしていたの?=不思議」
「別にこの墓場に配置している結界厄介じゃ無いか? だったらシールドにすれば良いのに」
ここはとある人物の墓場であり、目的地はこの奥にあるのだがそこに誰も近づけないように迷わせる結界をカールが張っている。
カールは大きな空間の一番奥にある大きな石版の前でボウガンの方に顔だけを向けた。
ボウガンはそんなカールの元へと辿り着き石版を見上げる。
カールが石版にふと触れると石版が下へとずり落ちて更に奥への道が姿を現した。
「此所で合っていたのか? 正直半信半疑だったが…この始皇帝陵にあるのか? 無間城出現の儀式場」
「ある=確認済み。今は閣下が儀式を再開している=問題ない」
「なら良いが。まさかここを調べるのに数日も掛るとはな…」
ボウガン達はこの場所を調べるのに数日を無駄に過ごしており、ジェイドとカールがこの場所を発見して儀式を急いでいた。
正確には兵馬俑が安置されている場所に手掛かりが存在し、すると始皇帝陵の近くに出入り口を発見した。
そこも始皇帝陵かもと調査が進んでいた場所である。
「無間城をこの世に復活させるに必要な儀式場がまさかこっちにあったとは…やはり始祖の吸血鬼が?」
「いいえ=否定。元々無間城は始皇帝が出現させようとしていた=その為の儀式場。その死後始祖の吸血鬼が利用しようとして居た=失敗」
「なるほど。その話をジェイドが知っていたと? でも二度も失敗したのは手順を知らなかったからか?」
「ええ=正解。無間城出現は死領の楔を世界の軸に打ち込み、世界と結んでいる鎖を儀式で断ち切る必要性がある=正確な順序」
「? ならどうしてその死領の楔をあの少女に埋め込んだ?」
「世界の軸に埋め込もうとすると時間が掛って仕方が無い=何百年掛る。でも、あの少女は世界の流れを知ることが出来る=便利。それに埋め込めば後はこちらから流れを弄って鎖を断ち切る儀式を行える=儀式の省略」
「ふ~ん。後は捕らえた四神の半分を使って無間城出現を促すか? いや…そもそも四神はその少女の体にある死領の楔と世界の軸の間にあるズレを修正するのに必要と言うことか…」
「その通り=正解。これで無間城を出現させることが出来る」
最低限の明かりだけが頼りの場所を進んで行くボウガンとカールは大きすぎる空間に出てきた。
底の見えない大きな穴の中心に無数の巨大な鎖が下へと伸びており、穴の中心には不思議な力で浮かんでいる儀式場が存在しており、そこまでは吊り橋で繋がっている。
吊り橋を渡って儀式場へと足を踏み込むと淡い光で描かれている幾何学な模様の中心にジェイドが座り込んでいた。
「これが…無間城復活の儀式」




