表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
904/1088

霞の咆哮は海に力を 3

 ジャック・アールグレイを見下すような目で一個上の階である五階から見下ろすキューティクル、その彼女の両手には常闇の宝玉と霹靂の宝玉がそれぞれ左右の手に握られているのだが、それを楽しそうに服の中に隠してしまうキューティクル。

 ジャック・アールグレイはそこでようやく彼女の服装に目を通す。

 全階はパーティーにでも参加するような感じのフリルの付いていない感じの大人感の強い真っ黒な喪服なドレスだったが、今回は黒とミッドナイトブルーで色分けされているフリルの付いたお城のお嬢様のようなドレスを身に纏っている。

 キューティクルはそんなドレスのスカートの中へと両手を突っ込んで宝玉を隠してしまうが、その際に際どい感じに見えたのだがジャック・アールグレイは反応する事はなかった。

 それはそれで面白くないキューティクルは再びスカートの中へと手を突っ込んで三枚のカードキーを取り出す。

 それをチュパカブラみたいな化け物が浚っていくと何処かへと消えていった。


「今のカードキーはこの建物の外窓から見えるドーム状の建物に入るために必要な鍵。今この施設全域は私の結界で閉ざされていて入るのにも出るのにも一苦労。貴方がここから出たければあのカードキーを手に入れて私の元へと来るしか無いの」

「わざわざ殺されたいと願うとは中々面白そうな人格の持ち主のようだな」

「え? 貴方みたいに竜の力を使えない人に私が負けると? それこそ面白いジョークね。笑えるわぁ~。悔しいなら掛ってきなさいよ。ドーム状の建物で待っていてあげるから」


 そう言ってキューティクルは黒いヘドロのような物体に包まれたと思うとそのまま姿を消してしまう。

 ジャック・アールグレイは流石に苛立ちを覚えながらも「仕方ない」と言って歩き出す。

 結界に包まれた以上ここから出ることも外からの応援も見込めない。

 となると彼女をどうにかする以外に方法が存在しないが、だからと言って現状勝てる見込みもまた存在しない。

 チュパカブラを探しながら対策を考える必要があるのだが、今はとりあえずカードキーを探し出そうとして動き出す。



 時を同じくし海は結界に覆われた施設の出入り口前で立ち止まっており、中には入れないで入る状況に困り果てていた。

 出入り口を含めて施設の外壁から不可視の結界が張られており、触れる事は出来るが入る事も出ることも出来ないようになっている。

 海はギルフォードとアンヌから任されてここまで急いで来てみたが、これでは手伝うことも出来ないと思い少し肩を落す。


「あら。面白いお客さんね。でも…貴方竜との契約も無いのになんの役に立てるのかしら?」

「貴女は…キューティクル。この結界は貴女が?」

「ええ。今ジャック・アールグレイは竜との契約が使えず、自らの異能で私に勝つしかないけど…今のままじゃ勝負にならないのも事実。面白い子も来たし貴方も勝負に参加する?」


 好意で提案しているわけじゃ無いキューティクル、むしろ彼女の真骨頂はここから来る。

 彼女の悪意はここからアクセル全開で海とアカシを傷つけようとしていた。


「ただし中に入るためにはそこに居る竜を差し出して貰うわ」

「差し出す? 出来るわけ無いだろう」

「まあ聞きなさいな。そこの子にはこの元闇竜と同じく宝玉になって貰う。そしたら中に入っても良いわ」

「尚更聞くわけ無いだろう!? アカシを道具にしてアンタが武器にするって話だろう? そんな条件従う訳がない!!」

「なら此所でジャック・アールグレイを見殺しにする? 確かにここで死んで貰った方が貴方達からしても大して困らないでしょうね。何せ彼は元とは言えあの少年の敵。今上海で戦っているソラ・ウルベクトの敵。あ~あ。あの少年がいたらこんな状況簡単に解決できるのになぁ~」

「僕成る!」

「駄目だ! アカシ!」

「だったら助け出して!! 僕を助けて。同じく捕まっているダークアルスターさんももう一人も……一緒に助け出して。海はソラとは違うけど、でも誰かを助けられる事が出来るって証明して! 僕待っているから…」


 アカシはニッコリと笑ってキューティクルの元へと移動して行き、海はそれを急いで追いかけるが、キューティクルはそんな海の目の前でアカシを強制的に宝玉に変えてしまった。

 無論本来アカシには通用しないが、先ほどの交渉はアカシに無理強いさせる事が目的で、その目的は達成したと言っても良い。

 キューティクルへと向って刀を力一杯振り抜くのだが、それをキューティクルは元アカシで防いで見せた。


「守護の宝玉とでもしておきましょうか…良い名前でしょう? さて…精々私に勝ってみなさいよ。まあ、まずは私に元へと辿り着く事ね…頑張ってね。普通の少年君」


 そう言うと海の目の前からアカシもろとも姿を消してしまう中、結界の一部が開き中へと誘導される。

 日本刀を握りしめる右手の平から血が少しずつ流れており、海は悔しさのまま結界の中へと入って行く。

 ソラと比較された事も、アカシに辛い選択をさせてしまった事も、何よりもそんな状況下で何も出来なかった自分が悔しくてたまらなかった。

 中に入って行きまず中庭へと向うと蜂を発見した。

 正確には一メートルほどの大きさのある大きな蜂が無数に渡って飛び回っているが、その蜂は何というか何処か人間らしさを持っている。

 羽根も顔も蜂っぽいのだが、左右から人間に見える腕が生えていて、その腕にはランスが握られていた。


「もうこの施設の人達は化け物に変えているんだ…人をなんだと思っているんだ?」


 再び怒りが込み上げてきて握りしめた日本刀を振り回しながら走り回って蜂を駆除して回るが、その蜂が現れている一つの大きな大きな巣を発見した。

 どうやらあの巣自体が多くの人が化け物と化した結果であるらしく、海は左右前後から襲ってくる蜂の化け物の攻撃を回避しつつひたすら排除していき、最後に巣へと突っ込んでいきそのまま巣を切り裂く。

 巣を完全に壊すと蜂は全てその場で倒れて即死する。


「人をなんだと…? これはカードキー?」


 巣の中から出てきたカードキーには『3』と書かれており、何だろうと拾い上げるとジャック・アールグレイが建物から姿を現した。


「どうやって入ってきた? いや…言わなくて良い。竜が一緒では無いという状況で何となく分かった。やれやれ…あの女は随分性格の悪い方法で君を追い詰めたようだ。そのカードキーは全部で三つある。その三つを揃えてあのドーム状の建物に入ればいいわけだ」

「じゃあ僕の持っているカードキー以外で後二つあると言うことですか?」

「ああ。それで二つ目だ。後一つ」


 ジャック・アールグレイは一階でウロウロしていたチュパカブラを追い詰めてあっと言うまにカードキーを確保していた。

 チュパカブラ以外にも幾つかの存在にカードキーが渡っているのは分かっていたが、海が入ってきたのは想定外だった。


「残りの一つは分かっているんですか?」

「簡単に化け物に成る事が出来る条件を揃えている場所とくれば、私が入ってきたあの場所だろう。まるで植物園みたいな作りに成っている場所」


 ジャック・アールグレイと海は一緒に最後のカードキーがあるかもしれない場所へと向った。

 ジャック・アールグレイと海は目的の場所へと足を踏み出してゆっくりと中へと入って行くのだが、するとど真ん中から大きな口が生えている植物が二人に襲い掛ってきた。


「餌!! 餌欲しい!!」


 明らかに言葉を発している存在だったが、その瞬間二人は理解した。

 これもまた元人間の化け物なのだと…。

 キューティクルは遊び半分で人を化け物にして回っているのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ