魂は叫ぶ 7
ギルフォードは建物の中でウトウトとしていると窓から外を眺めていたダルサロッサがジッととある方向に向って見つめて居る事に気がついた。
一体どうしたのかと思って体をそっと起こし「どうした?」と訪ねると、ダルサロッサはそっとギルフォードの方に顔だけを向ける。
ダルサロッサは真っ直ぐに海辺の方に右前足を向け「あっちに…」と言いかけた所でどう言おうかと悩み始める。
ギルフォードとしてはそんなに面倒な説明がいるのかと思いとりあえずダルサロッサの台詞を待つことにした。
そして一分ほどしっかりと考えてからハッキリとした声で驚きの言葉を告げた。
「アカシとダークアルスターがゆっくりとこっちに近付いているのかと思ったのだが、どうにも大きめの船…あれは空母と言うのか? それに乗って突っ込んでこようとしているようだ」
「何だと!? じゃあ……あれは港に突っ込もうとしている空母か!? 何を考えているんだあのメンツは! アンヌとレクトアイムはどうした?」
「先ほどからこの街から遠ざかっているのは間違いが無いな。何かあるのかもしれん。右往左往しているように見えるが、どうにもある方向に向って進んでいるようだし…どうする? どっちに行く? それに何やら街の中心地で何か問題が起きているようだ」
「そりゃあ空母が突っ込んできたら問題が起きるだろう!」
「そうじゃない。その前から少し問題が起きているようで街の中心地ではちょっとしたパニック状態だ」
「何があったんだ? と言うかどうして分かる?」
「? 下を見ろ。そのパニックになった人達から情報が来たのかそういう話をしているじゃ無いか…」
「お前中国語が分かるのか?」
「竜にとって言語能力なんて能力でどうにでもなる。そうで無いと色々と困るだろう。エアロードはどうだか知らんが。どうにも人が化け物になって襲っているという事件が起きているようだが」
ギルフォードの中に選択肢が増えてしまい少し考えてみる。
アンヌ達を追いかけるかというアイデアは一瞬で棄却、今更追いかけてどうにかなるとは思えない。
ならジャック・アールグレイと海を迎えに港まで行くかと思ったが、あの二人にダークアルスターとアカシが揃っているなら滅多な事には成らないだろう。
となるとその中心地で起きているというパニックを解決した方が良いと判断。
ギルフォードは早速鞄を担いでダルサロッサと共に建物から出ようとした所で下の方からハッキリと聞えてくるパニックになっている人達の声が耳に届く。
ギルフォードは身を乗り出して下を見てみると、走り去っていく人達が軽いパニック状態だと分かる。
「今下に降りたらあのパニックに巻き込まれるぞ…どうする?」
「屋上に出てみよう。何か方法があるかもしれない」
ギルフォードはダルサロッサと共に階段を上っていき屋上に出ると、隣までの建物が非常に近いことに気がついた。
隣の建物まで寄って見ると、古い作業用の橋が架けられており、ギルフォードはその橋を何度か片手で触れてみてしっかりして居ると確認してから急いで渡る。
二人で渡り終えてから次の建物までそっと体を覗かせると、建物と隣の建物までの間に幾つかの鉄パイプがある事に気がついた。
ギルフォードはダルサロッサを鞄に押し込むのだが、ダルサロッサそれだけでギルフォードが何をするつもりなのかを悟った。
「正気か!? その鉄パイプを使って隣の建物に移るとか言わないよな?」
「良く分かったなその通りだ。その辺に作業途中で捨てられた鉄パイプが幾つか放置されているし、渡る分なら困らない」
「真ん中で折れてしまったらどうする!? 最悪即死だろう!」
「真ん中の時点で歩いていど速度が出ているから最悪建物の真ん中辺りに到着するし、俺達なら怪我をしないで着地する事が出来る」
「意見がまるで分からない! 分かった! 私が飛ぶ!」
「いや大きくなったら目立つ。まだパニック状態で目立っていないようだし、このままパイプで移動した方が早い」
全く意見を変えてくれないギルフォードによって無理矢理鞄に押し込まれただけじゃ無く、落ちないようにと配慮された拘束のせいで逃げられないダルサロッサ。
後ろでは無く前を向いているため否応なしにスリルを味わう羽目になっていた。
いっそ目でも瞑ろうとしっかりと瞳を閉じ、その瞬間だったギルフォードは鉄パイプを使って少し下にある道路を挟んだ先にある建物の屋上へと勢いよく滑走していく。
結果ダルサロッサは目を開けてしまい軽い悲鳴を上げてしまうが、そんな事ギルフォードが気にすることも無く上手く屋上へと着地してからギルフォードはそっと息を吐き出す。
「少し五月蠅いぞダルサロッサ。お前が飛んでいるわけじゃ無いんだから良いだろう」
「寿命が少し減ったぞ…」
「竜は長寿だから大丈夫だ。そんな事より中心部まではまだまだ掛りそうだな…この下は…まだパニックか…」
「あの都市高速を利用するのはどうだ? それか電車」
「電車はまだ動いて…いるようだが」
ならとりあえず電車に乗って移動しようと思い至り屋上から次の屋上目指して移動して行く。
時を同じくしアンヌとレクトアイムはようやくの想いで建物の近くの崖上に辿り着いた。
アンヌは鞄から双眼鏡を取り出して建物をジッと見つめるが、レクトアイムは海辺の方をジッと見つめる。
「人は結構居るみたいだけど…どちらかと言えば研究施設って感じかな? う~ん。それでどうしたのレクトアイム」
「いいえ…あの大きな船。空母でしたか? 何やら港の方へと向って突撃をしかけているような気がして。どうにもあの空母にアカシとダークアルスターも居るみたいですし。最初はダルサロッサがその方向へと向って進んでいるのかと思ったのですが、電車に乗って中心地へと向ったようですし…」
「何かあったのかな? でもそろそろ速度を落さないと港に衝突するんじゃ…」
「それが狙いでは? 多分そのまま港の方へと突っ込んでいこうと思っているのでしょう」
「それでは民間人に被害がでるんじゃ…」
「まあ…敵地でそんな手心を加えるような人間には見えませんしね」
レクトアイムは大きな溜息を吐き出してから研究施設っぽい建物をジッと見ていると、待ちとは別方向へと伸びている道路から一台の大きめな柵がついているトラックを発見した。
そのトラックはゲートの前で一旦止まってから中へと入って行くのだが、その際に見えたトラックの中身に流石にレクトアイムも少し引いてしまった。
と言うのも中に入っていた生物、それは明らかにUMAと呼ばれるような生き物に見えてしまう。
「生物兵器でも造っているのでしょうかね。あまり良い気持ちがしませんが…」
「でも入るなら少し苦労しそうだね…他に入るところ無いかどうか少し調べてみようか…あっ。空母が」
アンヌとレクトアイムの目の前で空母が港に突っ込んでいく瞬間だった。
海は空母が港に突っ込んで乗り上げた衝撃で大きな揺れを甲板で過ごし、アカシは衝撃の際に海の鞄の中へと顔を突っ込んでいた。
ジャック・アールグレイはブリッジからその様子を眺めていると、中心地の方で大きな爆発が見えた気がした。
「もう既にトラブルを起こしている奴がいるのか?」
「いや…何か居るぞジャック。この下にある港。もう既に何かに制圧されているようだ」
ダークアルスターの言葉通り海が港に降りると二足方向の爬虫類のような外見をした舌を垂れ流した鋭い爪を生やした化け物が徘徊しており、
その長い舌を目の前に居る女性の首筋に突き刺してから何かをチュウチュウと吸い上げていき、その女性の体がドンドン干からびていく。
今この街は化け物によって支配されそうになっていた。




