魂は叫ぶ 6
海はなんとか大きな島へと上陸しようと試みており、その為にも海上を移動する方法を模索しているような状況なのだが、他の三名と比べてアカシはまだ海を連れて空を飛ぶことがどうしても出来ないのだ。
まだ幼いからこその飛行能力の無さにアカシは少し頭を俯かせていたが、海はそんなアカシの頭を撫でながら「そんなにショックを受けなくていい」と励ます。
アカシはイマイチ納得は出来ていないが、それでもなんとか役に立とうと必死になっており、それは海自身にもハッキリと伝わっていた。
アカシを背負っている小さめの鞄に入れた状態で対岸の島の一つから見守っているのだが、海上を移動するにもアカシは飛べないとなるとボートを使って渡るしか無いのだが、問題は先ほどから海上を行き来している大型船である。
簡単な武装を搭載した巡回船だろうことは想像に難くないが、ライトがついているあれを強引に無視して突破するのは不可能と言えるだろう。
その巡回船も空母のようなタイプの船を守るように動き回っており、海空の防衛についてはしっかりして居ると言って良いだろう。
「逆に言えばあの空母さえ抑えれば海上の隙を作る事が出来るんだよな…じゃあ簡単なボートでも確保して…」
「僕頑張って海をあそこまで送るよ! 頑張る!」
「ありがとう。でも、流石にまだ大きくなれないアカシは俺を背負って素早く空母に向うのは無理だろう。無理をしなくて良いよ。その代わり戦闘の時は俺の死角を守るようにシールドを作って欲しい」
「……分かった」
再び項垂れるアカシだが海はそんなアカシの頭を再び撫でながらこの島に上陸した際に使ったボートへと戻っていき、空母へと向って進み始める。
なるべく巡回船を回避して移動して行き、そして空母の真下まで辿り着いた海は空母の壁を駆け上がって行き甲板へと姿を現す。
甲板には戦闘機の整備をしている人達やそんな戦闘機のパイロットが徘徊しており、海はまずは戦闘機を破壊しようと試みる。
気がついた一人の男が大きな声を張り上げるが、無論そんな声より早く海は素早く青い刀身を持つ日本刀を作り出し戦闘機を真っ二つにして切り裂いて戦闘機を爆発させた。
その爆発に驚いたその声を張り上げた男性はそのまま尻餅をついたままの状態で口をパクパクさせていると、パイロットが一斉に全ての戦闘機に乗り込み始めた。
無論そんな状態を海が直ぐに許すわけが無い。
海の水を利用する形で一気に持ち上げ、それを刀を中心にして操りながら駆け出して行く。
アカシは海の死角になりそうな場所に透明なシールドを発生させ、海は縦横無尽に走り回りながらドンドン戦闘機を水をカッターの様な形で一気に排除していく。
空母の甲板に武装した兵士達が海の迎撃の為に姿を現したが、甲板に残っているのは爆発に巻き込まれたり海の攻撃の被害を受けた整備士と戦闘機の残骸だけだった。
兵士達は急いで海へと銃口を向けて引き金を引くところで海は海水を使った斬撃を横薙ぎに繰り出す。
彼等を一瞬で制圧する事に成功した海はそのまま少し考え込む。
「どうしようか…この船をぶっ壊してボートで移動するか、この船を使ってそのまま乗り込むか…」
「後半は派手そうだよ。でも前半は前半で厳しそうかな…そうなると結局巡回船を全部相手にしなくちゃいけないし…まあもうこれだけ暴れたら巡回船が周りを囲んでいる可能性は高いけど」
「だよね。よし…この船を使って一気にあの島の港まで突っ込もう!」
海の中で意見が決っていると空母が急に動き出すのに気がついて一旦足を止めて船の針路を探っているどうやらこの空母は真っ直ぐに港へと向っているようだと気がついた。
でも誰がと海は想って少しブリッジを見つめて中へと突入していき、階段を上っていきながら上へと登っていく。
どんな船でも船である異常操縦するために場所は上に造られ、この空母も決して論外では無い。
階段を登りきって操縦席を見て見ると、ブリッジは既に無残にも死体が彼方此方に散乱しており、操縦システムの前にはジャック・アールグレイとダークアルスターが佇んでいた。
ジャック・アールグレイ組は海組を発見して「ほう…」と驚くような素振りを見せた。
「まさか同じ意見だったとはな…それでここまで隠れながらでも見つかること無くこれた分けだ…君が突入したタイミングの少し前に乗り込めたようだな」
「貴方もこれで侵入するつもりなんですか?」
「勿論だ。この船が港に突入すればどうなるかな? 無論巡回船は最悪抵抗するだろうが、これだけの質量を巡回船だけで撃沈する事は無理だろう」
「だけど他の戦闘機とか…」
「そう…そうなるだろう? だが使える戦力が限られている中でワザワザ乗っ取られた空母を取り戻す為に戦闘機を寄越すかな? 折角均衡している戦局を乱してまで。ならこのまま港まで突入させてから対応するか、いっそ戦艦のような船を寄越して魚雷で撃沈するかだが…後半は無いな…」
「何故?」
「此所に来るまで周囲を索敵してみたが、それらしい船は一台も無かった。そういう船は敵空母を撃沈するためにある程度前に出ているんだろう。ならもう港で相手をするしかない。この船が海上から港に近付いていけばもう既に上陸しているギルフォードは気がつくだろう」
「どうして?」
「アカシはちゃんと説明していなかったようだな。竜同士はある程度距離が近ければ大まかなな場所は分かる。それがあればダルサロッサからすればダークアルスターやアカシが地道に近付いていると分かるだろう。まあ気がつけばだが…それで無くても空母が接近していると分かれば混乱して直ぐにでも情報がギルフォードの所にいくさ」
海は大凡の状況を理解した時、ダークアルスターはふと口を開く。
「だがレクトアイムの方は街から遠ざかっているな。迷子にでも成ったか? ウロウロして居るように見えるが?」
「でもあのここから見える大きめの施設へと向っているように見えるけど。僕には…」
アカシが指さす方向には確かに大きめの施設が見えた。
複数の建物が密集して建ち並んでいる場所、遠すぎて距離感が分からなかった海だがそれでも街からは離れているように見える。
ジャック・アールグレイは腕を組んで考え込み、レクトアイムとアンヌの考えを読んだ。
「恐らくだがレクトアイムとアンヌは上陸する際にあの建物を発見して近付こうと試みているんだろう。ギルフォードは相も変わらず街中にいるところを見るとまだ気がついていないのだろう」
「フム。ならとりあえずギルフォードとダルサロッサと接触するで良いのか?」
「ああ。それでいいのかな? 海君とアカシ君」
「僕はそれでいいよ。海は?」
「それでいい。どのみちこの方法以外に侵入する方法なんてもう僕には無いし…」
空を飛ぶことが出来ないアカシのペアとしてはこのまま船で無理矢理上陸するしか無いのだ。
問題は巡回船だが、ジャック・アールグレイは「襲ってくるなら身のほどを教えてやるだけさ」と言ってレイピアを取り出した。
「ダークアルスター。少し手伝ってくれ。襲ってくる奴だけを迎撃する術式を船に書き込む」
ジャック・アールグレイとダークアルスターは操縦システムに紫色の光を放つ不思議な何かを次々と書き込んでいく。
すると空母は速度を上げていき巡回船へとワザと衝突していくのだが、その際に空母の周りが黒い何かで覆い守られているのが分かる。
突撃能力に特化した空母は大きな街目掛けて突き進んでいくのだった。
ギルフォードがこの船の動きに気がつくのが動き出してから三十分が経過してからだった。




