魂は叫ぶ 1
上海上陸作戦の第一段階は上手くいった事をアベルはしっかりと確認したが、飛空挺やアメリカ軍の主力が上陸するにはまだ少し足りないと考え少し腕を組んで考え込む。
問題なのは第一野営地から更に奥にある第二野営地近くに大量配備されているミサイルを搭載している最新型の戦車と戦闘機である。
これらをどうにかしないとアメリカ軍の主力は上陸することも出来ないが、それでも安全に第一野営地まで進む事が出来たのは間違いなくソラ達の活躍があってのこと。
アベルが聞いた報告に寄れば中国軍は第一野営地の直線ルートに超電磁砲の戦車とミサイル搭載型の戦車を大量に隠していたらしく、先ほどソラとレクターが全部たたき壊し、ケビン達の護衛の元一旦敵戦線を押し返すことは出来ていた。
最もこの状況で無闇に突っ込むことも出来ない現状を考えればあまり進展がある方ではない事は誰でも考える事が出来る。
そこでアベルは香港上陸作戦がどうなっているのかと考えそっちの方に連絡を飛ばして見るが、帰ってきたのはまだ香港中心部までたどり着けていないという現状だった。
香港は263余りの島々が存在し、その中でもラオタン島攻略のために周囲の島に背理されている敵戦力を掃討している所で、ハッキリと言えばあまり面白くもない代わり映えのしない状況が続いているようだった。
海上から攻略しようとすると大量の島々が邪魔をして居ることになるし、様々な死角に気を遣いながらの攻略は確かに難しそうに感じられた。
アベルは腕を組みながら「それなら放置しておくか」と考えを巡らせる。
「やはり鍵は上海か…ここを墜とせるかどうかで今後の戦局が大きく変わるだろうな…。それもソラ達が第二野営地をどうやって攻略するかだ」
第二野営地は先ほども言ったとおり大量の中国軍によって完全包囲されており、そこを突破するには少しばかり策が必要だろう。
先ほどの戦いを最初っから見ていたアベルからすれば、結構危なっかしい所は大量に存在していたし、今だってあまり良い状態とは言いがたいのだ。
無論そんな事をソラ達に言えば全員から「アベルにだけは言われたくない」と反論されそうで言わないけれど。
実際の所それでもソラ達が危ういなら流石に出て行くべきかと考えた所、その為にアックス・ガーランドが同行しているのだと考えて踏みとどまる。
最悪このまま香港まで行って手伝うべきかと考えたが、あっちはあっちで死角の多い島々攻略のまっただ中で、そんな中突っ込んでいき「邪魔」だと罵られたらそれこそ立ち直るのに時間が掛りそうだった。
アベルは艦長席にしっかりと体重を掛けて「まいっか…」と呟く。
ソラ達の行動次第で決めれば良いと考えて今はのんびりさせて貰おうと思いそのまま腕を組んで偉そうな態度を取る。
艦長席のふんわりした感じの椅子の柔らかさとしっかりとした作りはアベルに眠気を誘わせた。
あと少しで眠りに落ちそうな瞬間けたたましい警報音が鳴り響き「何事だ?」と呟きながら覚醒した意識の元目を開けると、ガーランドのハッキリとした声で「今寝ようとしていたか?」と言う脅し声が聞えてきた。
アベルは急いで姿勢を正し「寝ていない」とハッキリと否定した。
「なら良いが…ソラが後で香港の状態が知りたいと言っている。ソラの端末に詳細を送りつけてくれ」
それだけ言って通信をきられるとアベルは不貞腐れるように頬を膨らませてからさっさと指示する。
俺の端末に香港作戦の詳細が届くのだが、内容を軽く見るとあっちはあっちで大量にある島々に苦戦中らしく、当分は状況が変化しそうにないらしい。
そういうことならこっちは少しぐらい進めておいて何かあったとき父さんには香港を担当して貰った方が良さそうな気がしたが、上海は上海でこれからが本番と行っても良いだろう。
第二野営地への突破は楽ではないことは誰の目から見ても明らかだったし、その為の策を用意しないといけないのだ。
ケビンが横から顔を覗かせて俺のスマフォをのぞき見る。
「誰です? 香港の現状…? あっちは島々のせいで中々進みが悪いみたいですね」
「ああ。どのみち上海組であるこっちが真面目に戦わないとあっちにも影響がありそうだ。と言ってもあの傭兵王は全く働いてくれないけどな…」
「全く。何の為にこっちに同行しているんですか? 働いてほしいものですが…」
「言っても聞かないと思うぞ…ジュリが隣で治療に専念していても手に入れたお酒ばっかり飲んでいたようだし。あれが傭兵のモデルケースとして見られたら傭兵という仕事に偏見を持たれそうだよな」
「ですね。まあ傭兵ってどんな仕事なのかって言われると金で雇われて戦場で戦うというイメージを持ちますけどね。どうなんでしょうか? 警備会社みたいな感じの仕事もするのでしょうかね?」
「どうだろうな。代理で戦争をするってイメージが強いな」
結局で俺達は傭兵という仕事をあまり理解して居るとは言いがたいし、こうして見ているとあのライツという男が何か考えがあるんじゃないかと思える。
がしかし、あの体たらくを見ているとどうやらあまり考えがある方だとは思えないのだ。
実際周りからくる視線にまるで意を介さない様にグビグビと飲んでいくのだが、あの人は少しぐらい我慢することを覚えていないのだろうか?
本当にあれで考えているのかと言われたら少し判断に困るところだ。
すると後ろからレクターが駆け足で近付いてくるのを俺とケビンは素早く反応して迎撃した。
「何故攻撃が飛んできた!? ダッシュで近付こうとしただけなのに…」
「じゃあ今何をしようとしたのか言ってみ。その内容次第で謝ってやる」
「後ろから力一杯抱きつく!」
「死ね」
ケビンの脈絡のない純粋な殺意だけを込めた一言に流石にレクターは少したじろぐ。
まああの状況で抱きついたら誰でも殺意を抱くと思うがな。
とりあえず謝罪は無しだ。
「お前はもう少しぐらい真面目にという事を覚えろって。このままだとアベル・ウルベクト二世とか言われるぞ。良いのか?」
「どんと来い!」
「反省をしなさいよ。そうやって自由気ままに生きていたらいつか酷い目に遭いますよ」
ケビンの言葉に笑い返すレクターだが、俺はレクターが数歩後ろを見ないで下がっていく際に後ろのテントから大きな鍋を持っている女性を見つけ出した。
大分よろけているしあれは大丈夫なのだろうかと少しだけ心配して居ると、レクター目掛けて女性がその大きな鍋を思いっきりとひっくり返す。
レクターの頭上に広がる熱々の汁物が広がっていき、その瞬間俺とケビンは猛ダッシュで現場から逃げ出し、レクターは俺達が取った行動の意味が分からずふと後ろを振り返ると眼前まで迫った汁物を見つけた。
もう間に合うわけがなくそのまま体全身で受けて悲鳴を上げながらどこかへと走り去っていく。
すると俺の元にブライトが飛んで近付いてきて俺の服の中へと入り込む。
「レクターどうしたの? 悲鳴を上げながら去って行ったけど」
「気にしてはいけませんよ。あれは馬鹿だからです」
ケビンの辛辣な言葉を敢えて俺は否定しないでいることにし、そうしているとシャドウバイヤも俺の影へと戻ってくるが、どうやらシャドウバイヤも悲鳴を上げながら走り回っているレクターを発見したらしく「あれは何だ?」と聞いてきた。
するとそれとほぼ同タイミングで同じように野営地を見て回っていたシャインフレアとエアロードも戻ってくる。
「レクターが馬鹿をやった罰が下ったんだ。放置しておいてくれ。その内回復する…」
どうせ一時間も掛らず元の調子に戻るに決っているのだ。




