希望の戦士 4
空母の甲板では多くのアメリカ兵士達が忙しなく動き回っており、その端っこで邪魔にならないように俺達は体育座りで座り込んで黙ってその時を待っていたのだが、とりあえず俺達の体にへばりついている竜達は良いとして、何故俺を先頭にレクター、ジュリ、ケビン、ライツの順に座るんだ?
悪意を感じざる終えないが、とりあえず俺はレクターの方をしっかりと見て目と目を合わせた状態で「ジュリと変われ」としっかりと告げておき、レクターが口を尖らせてから渋々後退する。
するとケビンが明らかに不満そうな顔をして立ち上がりジュリとは反対側、もっと詳しく言えば俺の左側に座り込んだ。
今度はレクターが不満げな顔をする番であり、露骨に避けられているのは目に見えていると言えよう。
どうもケビンはレクターを嫌っている傾向にあり、その理由も何となく分かってしまうので敢えて追求もしない。
そう言えばと思い至り俺は立ち上がって「ベルに会ってくる」と言い立ち去ろうとした時、レクターが立ち上がった瞬間ケビンが低い声でまるでヤクザの言わば親父が睨み付けるような感じでレクターへと「座りなさい」と放つ。
俺は振り返りジュリに「行く?」と聞くとジュリも「うん」と言ってついてくるようで、師匠も「じゃあ私も会うか…」とノリノリのブライトと共についてくる気満々。
エアロードも今ゲームをしても面白くないという理由でついてくると言い出し、シャドウバイヤはそもそも影の中で眠っているので放置。
ライツは「ベル? 報告になかったが…」と言って腰を浮かせようとしたとき、ケビンが同じように警戒心丸出しで見つめ、ライツは「諦めるか」と言って近くの金属製のコンテナからお酒を取り出して飲み始める。
とりあえずウィスキーってラッパ飲みする飲み物ではない気がする。
俺はこの空間を超えていく感じにすっかり慣れた物だが、師匠は慣れていないのか一瞬渋顔を作り出してからそのまま俺の方を見る。
その「何故話さなかった?」みたいな顔だけは止めて欲しいし、そんな事一回一回言うわけがない。
そしてベルのいるあの空間へと辿り着き花畑にかかし状態の彼女を発見してから俺達はすっかり慣れた手筈で「手伝いましょうか?」と聞いた。
もうここに来たらマズ聞かないといけない案件で、ベルは今度こそ胸を大きく張って「見くびらないでください」と言いつつ俺が抱えている師匠を発見して「どうも」と笑顔を作る。
はい、今話がずれましたよ~この人。
今先ほどまでこの状況をなんとかしてみせると意気込んでいた彼女はすっかり俺の師匠に夢中になりかけている。
すると案の定気になったのがブライトである。
「ねえねえ。早く出ないの?」
「あら…御免なさいね。今……こう…足を踏み出し…助けてはいただけませんでしょうか?」
本当に手の掛る元お姫様だ事で。
俺は師匠をジュリに預けてから手慣れた感じでベルを救い出し、一緒に家の中まで連れ得ていった。
中に入って行き俺はロシアで購入したお土産を再び預けると彼女は「良いんですよ?」と笑顔を向けて少し躊躇する。
と言っても俺達が好きでしているだけだから貰わないのも困るとそのまま告げると彼女は笑顔で再び受け取ってくれた。
そして再び彼女は俺の師匠の方へと意識を向けて聞いてくるので俺は簡単にでは在るが、師匠の現状を説明した。
「そうでしたか…でも生き返られるのですから幸福なことです。それはソラ様やガーランド様が培ってきた功績でも在るのでしょう。胸を張って受け取ってください」
「ベルさんは生き返りたいと思ったことは在りますか?」
「どうでしょうね…正直ここにいる限り死んでいないのと同じですから。思った事もありません。今の不満はボウガンが会いに来てくれないことですね」
「そうでしょうね…」
「ソラ様は私に何か聞きたいことがあるのでは?」
「……ボウガンは武器を使うんじゃ在りませんか? ロシアの首都モスクワで戦った時、ライツという男の為にアクトファイブは武器を作っていた。そんな物をそもそもメメントモリが用意していたとは思えないんです」
「うん。そもそもメメントモリはそんな武器を必要としないからね。だからソラ君ライツさんと戦った後でも何か気にしていたんだ」
「でもそれでどうしてソラはボウガンって人が武器を持っていると思ったの?」
「消去法だよ…あの中で武器を扱いそうな人ってボウガンかカールぐらいで、キューティクルが武器を使いそうにない事は戦って分かったから。カールは俺は直接知らないがアンヌ達の話を聞く限りだと武器を使っているとは話を聞かなかった。だからかな…」
師匠は俺の話を聞いてベルに「どうなんだ?」と聞いてみると彼女は笑顔のまま頷いた。
「はい。なんと言いましたか…異端の弓という武器を持っていたはずです。そのメンテナンスで機械を扱っていたと聞きました。それがどんな武器なのかは私は知りませんが…一度でもボウガンが使って居るところを見たことがないですし、本人は滅多に使わないと聞きました」
「異端の弓…まさかここで聞くなんて…」
ブライトがボソリと呟き先ほどから何かを気にしているようだった。
知っているなら教えて欲しいと思ってふと訪ねる。
「何だ? 異端の弓って」
「五極と呼ばれている全部の異世界を含めてそれだけしか存在しない究極の武装兵器の事だよ。『異端の弓』『無限の宝玉』『見えざる盾』『天上の輝石』そして…『完全殺しの剣』で五極。五極の名の由来は『五つ存在する究極の武装兵器』であって、一つ所有するだけで十分すぎる効果を持つって言われているの。それぞれ『究極』の名にふさわしい能力を持っていて、『無限の宝玉』は生命エネルギーを消耗するけどその代わり無限のパワーを引き出し、どんなことで可能にする事が出来、『見えざる盾』はどんな攻撃も防いで見せその人の意志が折れない限り永遠を保つ、『天上の輝石』はどんな願いも叶えてくれる輝石、『完全殺しの剣』はどんな現象ですらも完全に殺す術を持つ。そして…」
結構長い話の先ブライトは語る。
「異端の弓は自らが持つ異能や魔導や呪いなどを矢の形に圧縮して放つという能力を持っているの。そしてどんな異能すらも一撃必殺に変える効果を持つ。でも普通一人一つという制約故に異端の弓は五極の中でもレベルが低いって言われていたの…でもそれをボウガンさんが持っているならもし使ってきたらギルフォードさんに勝ち目無いかも」
ジュリが首を傾げ、師匠も同じように首を傾げるが俺はその理由を知っている。
「ボウガンの持っている吸血鬼としての異能は…食って能力を奪うだったな。それってストックを幾つか持っていられるんだったか? 放った異能は帰ってくるのか?」
「勿論。だから相性は滅茶苦茶良いはずだよ。持っている能力次第では追尾型の一撃必殺技を作ることも出来るよ。しかも五極はその性質上完全殺しの剣以外では破壊出来ないというルールを持っているの」
「どうして?」
「それもソラは分かるよね?」
「ああ。五極は恐らくはその全てが『概念兵器』でもあるんだろう。それ故に完全殺しの剣でもないと破壊できないという制約もある。そういう意味では完全殺しの剣ってある意味のストッパーなのかもな」
五極が何らかの理由で暴走したりした場合破壊するという役割があるのだろう。
「そうかもしれませんね。でも私は本当に見たことがないのですよ。でも、普段から持って居るモノらしく…」
「なら何かでカモフラージュしているのかも。五極は普段から何かで隠していると聞いたことがあるよ」
何かというのがどうしても気になってしまった。




