希望の戦士 2
食堂でデザートを食べていると師匠が食堂の中へとジュリと共に入ってくるのを確認、ジュリは食堂から簡単なインスタントコーヒーを二つ分作って現れた。
俺の前にブラックコーヒーを置いてくれる辺りやはりジュリは気遣いが出来る人間だと再認識し、師匠は俺の隣で座り込んで無言を貫く。
何か喋ってくれた方が非常に助かるのだが、師匠はどういうわけか黙りこくったまま座り込んで俺の方を見ようとしない。
何だろうか…?
何か怒らせることをしたのだろうかと俺の右隣に座り込んだジュリに耳打ちをする。
「何? 師匠俺のこと怒ってる? なんか俺の隣に座って黙りこくっているんだけど…」
「え? いや…そんな事を言っていなかったけど? どうして? て言うか別にソラ君に用事があるわけじゃないはずだよ。ですよねガーランドさん」
「? ああ。単純にジュリがコーヒーを飲むから同席しただけだ。今の私は飲む食べるという一連の行為を必要としないからな。食堂には用事は無かったのだが。どうしたんだ? もしかして私が怒っているとでも思ったのか? また何かしたのか? お前達」
俺は先ほどの流れを説明するべきかと一瞬だけ悩みブライトを見ると、ブライトは何を言っているのかイマイチ分からない用で首を傾げて俺の方を見ながらプリンアラモードを黙々と食べている。
妹の下着に関しては先ほどコッソリと隠しておいたので見つかるとは思えないのだが、ここでへたに隠せば師匠にバレたときレクター共々怒られる可能性が高い。
俺はここで素直に話そうと思って口を開いた瞬間父さんが現れた。
「ソラ。奈美の下着をどうした?」
「アベル。貴様がどうした? 何故娘の下着を気にしてそれを息子に聞く?」
「!? ガ、ガーランド!? 何故此所にいるんだ!? いや…何でも無い」
「いや。去るな…こっちに来なさい。お前はどうして娘の下着に言及して、何故それをソラに聞いたのか。ソラ。今黙って去ろうとしたな? 浮かせた腰を落としなさい。良し。アベルは私の対面に座れ。二人ともどうして身内の、しかも異性の下着に言及したんだ?」
「待って師匠。俺は悪くない。これはライツというあの常識の無い傭兵王が妹が使っていた部屋に侵入して勝手に置き忘れた下着を…」
「ソラ! 下着を何処に隠した!?」
「レクター!!! 貴様という奴は!!?? こっちに来いや!!」
レクターは食堂に入ってから突然大きな声を上げてそんな事を喋り出したのだが、師匠を発見した結果青ざめてからダッシュで部屋から出て行こうとした。
しかし、師匠の素早い関節技がレクターの動きを封じて素直に父さんの隣に座り出す。
どうやら突入する時間を完全に間違えたようだと感じたが、もうこうなった以上は遅いのだ。
「さて…話の続きを」
「だから…置き忘れた下着をあの傭兵王が勝手に懐に入れて、それを取り戻したのは良いけど、その後この二人が下着を預かろうとしたから!」
「待つんだ!! ソラ! その言い方では私達が怒られてしまうではないか!!」
「そうだ! ソラはそれでいいけど!! 俺達は怒られるじゃん!」
「黙っていろ。なるほど…まあそれならソラは良いとしよう。そして…二人はしっかりと説教を受ける覚悟は出来ているんだろうな?」
父さんとレクターが顔面蒼白状態であれこれと言い訳をし始めたとき食堂に入ってきたエアロードの頭に何故か奈美のパンツが装着されていた。
俺は咄嗟に「変態だ!」と叫んでしまった。
いや、流石竜でもあれは変態だろう?
「お、お前…それどうした?」
「? レクターが昨日一般人はパンツを頭に被るのだと…」
レクターが更に顔を下に落としてから俯き、師匠はエアロードの方へと体を向けて右手を伸ばし「それを寄越せ」と声を発し、エアロードは多分その声が怖かったのだろう黙って差し出した。
奈美のパンツを掴んだ状態でジュリに手渡し「これをジュリが持って居てくれ」と頼み込む。
父さんは顔で「やりー」という感じの表情を作り出し、レクターはこれから起きるであろう説教を前にまるで死刑を告げられた死刑囚みたいな感じになっていた。
俺は成るべくそっちの方を直視しないようにしブライトに「何か飲むか?」と聞いてみた。
「飲む飲む! 僕ねオレンジジュースが良いな!」
「む? ブライトだけ何を食べているんだ? 私も食べたいぞ! ソラ! 私もデザート!」
「はいはい。こっちで見た方がどんなデザートがあるか分かるぞ…」
俺はエアロードが何を欲しているのかイマイチ分からなかったので誘ってみると、エアロードとブライトは師匠の怒号のような声を聞いて「ついていく!」と恐怖のままについてくる。
ジュリも流石に居心地が悪くなったのか黙って俺の後ろからついてきた。
冷蔵庫や冷凍庫を開けてエアロードが適当なデザートを選んでから、ジュリは俺に「小腹が空いてない?」と聞いてきたので「少しなら」と返した。
ジュリは簡単な物で「ラスク」を手作りしてくれ、エアロードやブライトが食べられるようにとメイプルシロップなどと一緒に師匠の席から意図的に離れた場所を選んだ。
因みに父さんが同じように逃げようとしたが、それを師匠は「座れ!」と叫んで制止、そのまま死刑を待つ死刑囚みたいな顔をして座り込む。
面白かったので敢えて黙っていることにした。
「ソラ君達の周りは相も変わらず面白いよね? 見ていて飽きないし」
「あのなジュリ。巻き込まれる側の気持ちになってくれよ。? ケビン?」
「何です? あれ…まあいい気味ですけど」
「ああ。奈美の下着の件でな。ケビンも食べるかラスク」
「良いですね。紅茶でも嗜みましょうか」
そう言ってケビンは食堂の中からアイスティーをガラスのコップに入れてそのまま持ってくる。
意外にもストレートティーだったことに驚きケビンに声を掛けた。
「え? ケビンってストレート飲めるのか? こう…甘い感じの物ばかりを食べているかと」
「どっちも行けますよ。基本あまり好き嫌いがあるわけじゃ在りませんし…シャインフレアも何か飲みます?」
「そうですね。私もアイスティーで」
そう言ってケビンは再び食堂へと入っていき同じようにアイスティーを作り最後にレモンを一切れ入れて戻ってくる。
どうやらシャインフレアはレモンティー派だったようだ。
「シャインフレアさんはレモンティーが好きなんですか?」
「そうですね。まあミルクティーでもストレートでも良いのですが、どれを選ぶのかと言われたらレモンティーが好きですね」
「と言う事はケビンの家では紅茶を飲むんだな。なんかアメリカ人ってコーヒーを飲むイメージが」
「それは偏見でしょう? それはコーヒーも好きですが紅茶も飲みますよ。基本その時の気分で変えているだけです」
「ああ。まあ確かに偏見だったな悪い。でも多分紅茶かコーヒーかって言われたら多分コーヒーだよな? 今はラスクを食べるから紅茶を選んだだけで」
「………まあそうですが」
普段からコーヒーを飲んでいる場面を見るので間違いが無いだろうと予想していた。
まあコーヒーの苦さって眠気を吹っ飛ばすのに丁度良いしな。
「そう言えばコーヒーで思い出したけど。この戦いが無事終わったら受験勉強しないとね。コーヒーでも飲みながら」
「? どうして受験勉強なのですか? まだ一年生でしょう?」
「帝国立士官学校の高等部は一年から二年に掛けて様々な学科に分かれるんですけど、その学科の試験に受からないと下手をすると就職にも影響するです。特にソラ君の受講する学科は難しいから」
「そうなのですか? ソラは賢そうですもんね…」
紅茶を嗜むケビンに俺は敢えてレクターも受けるとは言わなかった。




