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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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嘘は誰の為に 6

 ケビンは背中の痛みに耐えながらも思考をフル回転させていた。

 バウアーは完全に自らの力に気が付いてしまい、一気に劣勢に立たされていたが、それでもケビンはいたって冷静に状況を分析した。

 バウアー達マガイ族は『正々堂々』とした一族で、暗殺に不向きだった為滅んだ一族。

 その内、多くの『異能』を持つ一族は『マガイ族』を忌まわしい名前として封じるようになり、いつの日かマガイ族は世界から迫害されるようになった。


 それはこの海洋同盟でも同じであった。

 しかし、ケビンはバウアーの一族の考え方に一つの結論が出せそうだった。


(父親は軍入りを反対した。しかし、この才能が開花すれば彼は間違いなく最高の暗殺者になれたはず。そうすれば島の評価も変わってきた。という事は父親は止めたい理由があったという事)


 その辺がどうしても気になってしまった。

 目の前で襲い来るバウアーに背を向けて逃げ出せばいつどこから襲い掛かるのかという恐怖がやってくるだろう。

 ここから逃げてはいけない。

 ステルス能力を手に入れた人間に『逃げる』というのは最低の一手だろう。


 ケビンは逃げる事は出来ない。

 しかし、このままではジリ貧というのが現実で、正直勝機をすぐにでも見つけ出さないとやられかねない状況だった。



「君はどうして大統領が君を魔導機のテストに選んだのかを知っているか?」

「え?いいえ。何を聞いても教えてくれませんでした。アベルさんは知っているのですか?」

「ああ、大統領閣下に聞いたことがあるんでな。正直納得したよ」


 ケビンはアベルが一体何を聞いたのか非常に気になり、椅子から起き上がって前のめりで尋ねるのだが、アベルは微笑むだけで何も返してくれない。


「教えてください!大統領を私は尊敬しています。私にとって生きる理由であり、守るべき指針でもあります。ですが………同時に不安になるのです。大統領が私を選んだのは単純に……」


 そこまで言いながらその先を言うのがどうしても怖かった。

 大統領を信頼しているし、何があっても忠誠が揺らぐことは無いっと心に決めているのに、いざこういう事態になると不安になる。

 だから教えて欲しいと思うのだろう。


「そこから先は言わない方が良いな。口に出せば本当になるだろう。嘘や真実というのはそう言う事だ。日本の言葉で………『言霊』というんだったか?言葉とはそういう事だ。飲み込めばそれは誰にも伝わら無い」

「…………言霊ですか?」

「そうだ。嘘や真実というのはそういう事だ。言葉には力があると思うぞ」

「ありますか?」

「あるさ。本心だって言葉にして伝えることに意味がある。それに聞きたいことがあるなら君が直接聞けばいいさ。まあ、この場合君と大統領との信頼と君が魔導機のテストに選ばれたのは全くの別だがな」

「え?」

「バウアーと対峙すれば分かるかもな……君が選ばれた理由。その魔導機が教えてくれると思うぞ………」



 アベルがあの時何が言いたいのか全く分からなかったが、しかし大統領がこの魔導機のテストに選んでくれというのは間違いのない真実。


 言霊。


 言葉は力、意思はその強さ、真実という事はその証明になる。


 大統領を信じる。

 アメリカ合衆国という祖国に忠誠を尽くす為。

 何より自分を信じてここを任せてくれたソラの為にも、ここで負けるわけにはいかない。


 魔導機を最大値まで引き出させるためには自分の動体視力や反射神経では足りない。

 せめて相手の姿が見えたり、相手の動きが手に取るように分かればいいのに、と考えるのだがそんな奇跡が起きるわけがない。

 足音はケビンの周りを前から後ろにかけて右側を回り込んでおり、足音が少しずつ消えていくのが分かっていく。


 周囲の状況に慣れていくバウアー、泥濘の中でも足音を立てないように、足跡を残さないように後ろに回り込んで今度は後頭部目掛けてナイフを突き刺そうとする。

 しかし、ケビンは刺さる寸前で体を前に転がして回避し、バウアー目掛けてハンドガンを二発打ち込む。


 バウアーはその攻撃を横ステップで回避しながら、再び距離を取り始める。


 ケビンは意識を周囲への警戒心に集中し、どこから襲い掛かってくるのかという恐怖を飲み込む。

 足音も、足跡も、何もかもが聞えないサイレント世界の中でケビンの全神経が研ぎ澄まされたからなのか、それとも何かが吹っ切れたのか。

 バウアーが右側から突っ込んでくるという『未来』が見えてしまった。

 その未来通りに避けてみると確かに先ほどまでケビンがいた場所をバウアーが通り過ぎた。


(見えた?でも………どうして?)


 バウアーが動く先が見えてしまう。

 自分のみに起きたこの異常に悩んでいると、バウアーは再び回り込もうとしてくるのが見て取れた。

 まだ、バウアーは自分の攻撃が避けたのが偶然だと思っているはず。


 しかし、避けられるようになったという事はケビンの心にゆとりを生んだ。


(前の戦いの時、バウアーは私を殺そうとする手段の中に事故を選ぼうとしていた。それだけではない。ソラとの初戦闘の時も直接的な暗殺を当初は選ばなかった。彼は最初の暗殺が失敗すると直接的な戦闘に出る傾向がある………)


 最初の戦闘の時もそうであった。

 バウアーは『直接的な暗殺』に不慣れな一面があるのでは?とケビンは考え出した。


(何か……理由があるはず。そうだ。二回目の攻撃も最後に足跡が鳴った為によけることができた。これは暗殺者として失敗と言ってもいいはず)


 微かに音が鳴っている。

 その音の鳴り方は暗殺者として致命的な欠点だろう。


(ああ………そうか。だからバウアーの父親は彼を軍に出向することを嫌がったのね)


「あなたでは私には勝てない」


 あえて挑発しバウアーに冷静さを失わせようと試み、その行動は結果として大当たりを迎えた。

 バウアーは真正面から素早い速度でナイフを振り下ろそうとするが、ケビンはその軌跡が手に取るように分かった。

 ナイフを振り下ろすその瞬間にケビンはカウンター気味にバウアーの右肩目掛けてナイフを突き出す。

 バウアーのナイフがケビンの右肩を掠め、ケビンのナイフはバウアーの右肩を貫いた。


 痛みで透明化を解いてしまったバウアー、お互いにほぼゼロ距離に近い睨み合い。


「あなたは誰かを殺そうとするとき、冷静ではいられないくなる。だから物音を鳴らしてしまう。あなたに………人は殺せない」

「そ、そんなはずはない!俺達マガイ族は暗殺者の一族だ!」

「その話。ご両親から直接聞いたわけじゃないでしょう。反対したあなたの両親がその話を大人しくするわけがない。あなたはいつの日か自分の体にある模様を不思議に思い調べた」


 バウアーは言葉に詰まってしまった。


「そして知った。でもあなたが知ったのは外のマガイ族の事だけ、元々マガイ族とは『異能』を扱う一族をそれぞれマガイ族と呼んでいた。あなたの父親はこの海洋同盟に残るマガイ族の一人」


 バウアーの『透明化』やギルフォードの『焔』も同じ『マガイ族』である、その起源をたどれば全く同じ場所に辿り着く。


「でもあなたは知らないんですね。マガイ族は代々『正々堂々』としている者が多く、暗殺に非常に向いていなかった。一世を風靡したした彼らはいつの日か衆目の的になった。それ故に滅んだ。あなたのお母さんやお父さんはあなたが注目されれば忌み嫌われる可能性があったから嫌がった」


 だから反対した。

 そして、ここから先がケビンの予測だった。


「あなたのお父さんはもっと違う進路を歩いてほしかったんじゃないのですか?」

「はぁ?父親が?」

「あなたの才能は暗殺者以外でも十分通用します。それこそ警察なんかに行けばその才能は十分発揮できるはずです。あなたのお父さんは………暗殺者なんて古臭い職業にこだわって欲しくなかったんじゃありませんか?」


 あの日の父親を思い出し、必死になった止めた理由思い浮かべる。


「どうして………言ってくれなかったんだ?父さん」


 ケビンは『言霊』という言葉を思い出していた。

 言葉は口に出さなければ伝わらないが、それが簡単に出来ないでいるのも事実。


「大統領。どうして私を選んだんですか?」


 それはまだケビンには分からなかった。

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