傭兵王 8
駅に集結していくオークと行っても良い人影、赤色の堅そうな肌と一本ないし二本頭部に生えている角、武器こそアサルトライフルみたいな近代的な武器でこそ在るが、来ている防具はどちらかと言えば旧時代的な胸当てなどの金属系の防具を着けているだけ。
正直ならその辺も近代的な防弾ジョッキでも装備していれば良いのに、アサルトライフルを装備している胸当てを着ているオークという何というか物凄く違和感しか湧かない化け物が隊列を作って接近しているのが上からハッキリと見えた。
この距離感だとあと大凡三十分ほどで到着しそうだが、まだ駅前広場ではバリゲード作りが難航しているようで、とてもではないがあと三十分で完成するとは思えなかった。
俺は建物の屋上から飛び降りてオーク相手に足止めをする必要があると考えたとき、降りた所でケビンと海が「自分達も手伝う」と言い出したが俺は「いや此所にいてくれ」と指示を出す。
「まだ来る可能性は十分あるし、その時のためにここにまだ人が居る方が良い。どの程度オークの軍団を用意しているのか分からないけれど、この様子だとまだまだ来そうだ」
俺は緑星剣を呼びだして星屑の鎧を展開しながら走り続け、大きな通りまで出てくると視界の端っこに隊列を作ってこっちに向ってくるオークの軍団を視認する。
緑星剣に風を纏わせながら再び駆け出して行き、オークの軍団が俺目掛けて放つ銃弾の攻撃を全て回避しつつある程度まで距離を埋めたところで大きく上空に跳躍、風を纏った一撃を縦に振り下ろして地面へと叩き付けつつその衝撃で更に跳躍。
そこから体を回転させながら地面に着地と同時に円状に斬撃を飛ばしてから周囲にいるオーク達の目を俺に向けさせるが、オークの軍団は俺に対してまるで怯える様子を見せないまままるで機械のように襲い掛ってくるだけ。
やはり見た目こそ生物を模しているが、中身は機械で出来ている部分が存在しており、特に思考能力は一般的なAIというレベルを脱していない。
この程度なら俺でもなんとかなりそうだと思っていると、後ろから一回り大きいオークが姿を現してのっそりと近付いてくる。
鈍そうだなと思っている反面油断しているとやられそうだとあの大きめのオークに対して意識を向けながら周囲のオークから来る攻撃を回避しつつ風を纏った斬撃を何度も繰り出していく。
一体何回目の斬撃だったか分からないが、俺との距離がだいたい五十メートルほどまで縮まってしまった所で大型のオークは背中に担いでいた『何か』を右手で掴んで取り出す。
ガトリングだろうか、それとも大口径のライフルかもしれないし、いや下手をするとミサイルランチャーでも取り出すかもしれない。
そう思って警戒心を最大値まで高めて待っていると、オークが取り出した物に度肝を抜かれてしまう。
「戦車に搭載している120mm滑腔砲…!? 排熱とかどうするつもりなんだ? いやそれ以前に…」
戦車に搭載している主砲と呼ばれている砲台には滑腔砲と呼ばれる名前が付けられており、ライフリングと言われる直進製を高める目的で開発された部分が存在しない砲台の事で、戦車に搭載されている砲台である。
この滑腔砲には大きく分けて二種類の弾が使われていて、『HEAT弾』と呼ばれる弾と『APDS弾』と呼ばれる二種類の弾が使われている。
まあ後に『APDS弾』は『APFSDS弾』と呼ばれる弾に発展したが、細かい注釈をしているときりが無いので省くが、どれも少なくとも人間クラスが使う弾ではない。
実際人間が対物ライフルを使えば反動が大きすぎて怪我をする人間が多い世の中で、戦車の砲台を持つとか考えられない。
大型のオークは俺に向って砲台の引き金を引いて出てきた弾を見た瞬間叫んだ。
「HEAT弾かよ!?」
飛んできた弾を斬るわけにも行かないので俺は走って弾の下に回り込んで下から力一杯弾の先端にある衝撃で起動する信管を切り裂いてからミサイルそのものの起動を大きく明後日の方向へとずらす。
流石に衝撃による爆発は防いで見せたのだが、それでもあの威力だったため少しした後爆発を起こした。
ふざけんな!
爆発する方を選ぶか!?
そりゃあ沢山の人を襲う場合それで正解な気がするが、守っている側からすればたまった物じゃない。
あんな弾をバカスカと放たれたら先に街並みの方がやられてしまうが、よくよく考えてみればこんな弾を駅に向って放とうとしていたと言うことになる。
「ふざけんな。一掃でもするつもりか!? やらせるかよ…竜撃! 風の型! 到達点! 風竜回転演舞!!」
風で作り出した竜でそのまま突っ込んでいき大型のオーク相手に食いついた状態で一気に破裂させる事で撃破した。
まだまだオークの軍団がいるので油断できないがと思って一瞬オーク達がきた方を見ると先ほどと同じ大型のオークが同じ装備を持って複数体発見した。
まだあんな化け物がいるのか。
ホークは格納庫代わりに使って居た大量に備え付けられていた大型の倉庫の一つへと入って行き中を見回すと首を傾げて外へと出て行く。
隣の倉庫へを繰り返してやはり最後に首を傾げていると後ろからボーンガードがスタスタと何も考えていないような顔をしながら接近してきた。
「この中に入れておいた『滑腔砲搭載型オーク』はどうした?」
「? ロシア兵が欲しがっていたからやったけど? どうした? あれは使わないって聞いたから…」
「いや…装備が周辺被害を出すから躊躇っていただけだ。戦術的にも活用のよりがあるとはあまり思えなかった。体が大きいから標的になりやすいし、特に防御力面で優れている訳でもないからな…」
「ふ~ん。でも使わないんなら上げても良いんじゃ無いか? そんな出来損ないの兵器で勝てると思っているのなら現実をしる良い機会だろ?」
ホーク達はオークという兵器自体にそこまでの期待は存在していない。
結局で機械でコントロールされている心の無い兵器で、結局で予め入力されている事以外には適応されない。
アクトファイブのメンバーは誰も彼もがそもそも心ない兵器を信用していない。
ホークは「まあいいか」と呟いたときベベルが現場に現れた。
「なんだなんだ? 面白い事か!? 混ぜろよ…」
「面白くない。要しておいた廃棄兵器をロシア兵が勝手に使っているだけだ」
「ああ。でもさ…結局の所であのロシア兵も同じだよな。カールだっけ? あの天使に予め入力されている行動を取るだけの心無い兵器だ。彼等は兵器ではあれど兵士ではないさ」
「兵士という名前を名乗っているのにか?」
「ボーンガード。そういう問題じゃない。この場合彼等に『心』がある兵器なのか、『心』の無い兵器なのかという事だ」
「だったらこの場合心がある方が良いのか?」
「どうだろうな核兵器に心があったらそっちの方が困るけどな。この場合『心の無い兵士』と『心のある兵器』と言っておこうか。大量虐殺さえ可能な戦略級クラスの兵器に心を持たせたら困るだろ? だって癇癪を起こしたら勝手に使うんだぞ? 兵器として何段階も不完全と言えるだろう。それと同じ事さ。一撃で戦略を変える兵器なんて心が無いぐらいで丁度良いのさ」
だからアクトファイブは金を尊重する。
金は人の持つ人らしさである『欲望』を刺激してくれる、人が人らしくあれる物だと思っていた。
兵器は所詮兵器で人らしくあれる分けじゃないし、人が兵器になればそれは世界すら滅ぼすことができる存在になってしまう。
人には感情がある。
喜び、愛情、興奮、悲しみ、恐怖、怒りなど様々だ。
感情は常に人に予想外の行動を取らせる物で、それ故に人は生まれてから強すぎる存在には慣れないようになっている。
それを超えることが出来るのは……異能を宿した者だけだ。




