傭兵王 4
ボウガンは敢えてライツにバレる場所での食事を行なうことで彼等をターゲットに入れつつ、同時にライツという人物の実力を知っておくことにした。
ボウガンはソラ・ウルベクトが所有している能力の真名を知っているし、それ故に矛盾しないという事も理解して居るが、ソラは未だ知らないがあの能力には細かく分ければ確かに他者の能力を奪い『共存』させる能力、他者の能力そのものを『破壊』する能力があるが、まだもう一つ存在している。
それを知った時本当の意味で『竜達の旅団』の本当の真名がよく見えてくるし、それを理解出来るのだが、それこそボウガンがライツをソラにぶつけようと考えた結果でもある。
だからこそボウガンは仮死状態への移行方法を敢えて漏らし、その後蘇生状態への移行の方法すらも授けた。
だからこそ敢えてハンが暴走する事を容認し、敢えて無間城の出現場所を中国へとずらす為にドイルで策を練り、同時にライツとソラが衝突するためにお膳立てまでした。
もしジェイドがロシアに居た場合邪魔をする可能性が高かったし、例えそれを無視してもメメントモリ辺りが妨害に走った可能性じゃ十分にある。
ボウガンはそういう意味でジェイドに許可を取りモスクワに来ていた。
これから行なわれるソラとライツの正面衝突、それを確認しないと行けない。
「分かりませんね=理解不能。貴方はどうしてそこまでしてあの少年に刺客を送り込む=説明求める」
「カール…お前準備は?」
「あの少年達が来るまで暇=現状。貴方がしたい事に興味津々=で?」
「あの少年達が今まで戦ってきた相手は良くも悪くも異能という存在によって歪んでしまった相手ばかりだ。自分と周囲すら不幸にしてしまう木竜。闇竜と死竜が合体して挑んだ魔王。機械と人の英知が生んだ神。我々の様に人知を超えた存在。どれも彼も彼の『異能を破壊する』能力さえ在ればどうにでもなる相手だった。それでは意味が無い?」
「ボウガンはあの少年に何をしたい=理解不能」
「あの少年が持つ三つ目の能力。いや…これを含めて一つの能力なのだが。しかし、詳細化するならその三つ目の能力を目覚めさせるには人間として彼を追い詰める人物で無ければ成らない」
「なぜ今まで配置しなかった=何故?」
「最初の候補は木竜と一緒にいた人間だったがあれは不十分だった。二人目はギルフォードだったが、あれも不十分。三人目はノックスだったが…あれは論外だ」
「ノックスに対する評価が壊滅的ね=当然の評価」
「そういう意味で俺はアクトファイブに早い段階で目を付けていたと言うことだ。あのライツはソラが覚醒させるには十分な能力を持っている。今回は上手くいきそうだ…もう覚醒の前提条件を満たせた。後はソラが追い詰められるだけさ…」
「でもそれで死んだら意味なくない=そうなったらどうするの?」
「まあ…その場合は運が無かったと言う事だ。あの少年も俺も…な。まあそうならないだろう。あの少年のいざとなったときの爆発力は常に想定外を引き起こす。だからこそその想定外を想定できる人間を配置したかった。想定外が起きてそれで終わりでは意味が無いんだ。想定外を超えてその上で想定外を引き出すしか無い」
「ふ~ん=あっそ」
「そういう意味ではあのライツという男は俺の目が敵った人間だ。あのジェイドですら冷や汗を掻いていたほどだ。言っていたよ…「自分にこのチートじみた異能があって良かったと初めて思えた」とな。それだけあの男が異能に頼らずにどこまでも人として強くあれた人間なんてそうはいないぞ」
「あれは普通の人間=疑問」
「そうだ。特殊な異能も。特別な生い立ち上に得た魔導も。不幸な境遇故に起きた呪術も。神のような存在から与えられた神格すらも無い。どこまで言っても普通の人間なんだ。人間として出来るあらゆる才能の全てをこの男は引き出している」
「それって化け物というのでは=問い」
「違う。人間だよ。経営術は見て学び。殺しは実戦して学び。連携術は戦場で学んで。そうした中で学んできた経験をあの男は全て生かすことが出来る。それは才能であっても異能では無いよ。無論化け物でも無い。何故なら何処まで行っても人間でしか無いのだから」
機械に頼りながら、周囲の環境を頼りながらそれでも戦う事が出来るライツ、今となって魔導機を使って戦っているのだろうが、それでもボウガンからすれば使いこなすことが出来ると分かってしまう。
もしそこに異能のような特殊な才能に名前を付けるなら『理解』である。
「あの男は『知る』という一点においてあの男は誰よりも秀でている。人の評価すらあっという間に理解してしまうほどだ」
「要するにあの男は常に頭をフル動員して居ると言うこと=そうなの?」
「そういうことだ。恐らく寝ている間ですらも考えているんだろう。あの男の才能なんてその一点だけなんだ。生まれた時から死が近い場所にあり、それ故にあの男は『生きるためには考えるしか無い』と思うようになったんだろう」
生まれた時ライツは母親に殺されそうになった。
運良く生き残れたのでは無い、ライツはその時母親の手を噛みつく事で無意識とは言え赤子の状態で反抗した。
物心がついてからも暴力的な人間達が蔓延る環境で生き残るためには常に考えを巡らせる必要があった。
「いや…生きるためには考えを止めることが出来なかった。だからこそ考えを止めると言うことはあの男にとって死と同じなんだろう」
「なるほど=理解」
「死と隣り合わせであり、同時に生きるために考えたからこそあの男はここまでの才能を手に入れた。他者の才能をコピーするみたいなやり方ばかりを選び、コピーした才能をそのまま自分のモノとして馴染ませる。そして発展させていく。上手く生きるためにコツをあの男は幼少期の段階で完全に理解出来た」
過酷な環境で生きる為には常に他人を観察し、生きる為のコツを知るしかなかったのだろう。
両親も早くに失い、それでも死を前にして何時だって生きる為に考えて乗り越えてきた。
「それでも私や貴方からしたら羨ましい=そうじゃない? それとも貴方は今でも「仕方ない」と言うの=そうなの?」
「そうだな。俺の場合は仕方の無いことさ。俺が望んだわけじゃ無い。お前と違ってな」
ボウガンのにやけ面をじっと見ながらカールは無表情を向けてくるのだが、それに対してカール自身は決して拒否するつもりは無かった。
確かに最後にはカール自身がそれを望んで化け物になったわけだし、それについては否定は一切しない。
そういう意味ではカールとボウガンのケースはある意味対極と言えるが、一つだけ言えることはお互いに「助かるにはこうするしか無かった」という事でもある。
彼等は助かるには不死者になるしか無かったのだ。
不幸や苦しみから解放されて生きる為にはこうするしか無かったし、両親もそれを強く望んだ。
しかし、そこに差があるとすればカールが『自発的に行なったか』ボウガンの両親が『勝手に行なったか』の差である。
「貴方は勝手に、私は自発的に=大きな差」
「そうだな。そう言う意味では俺とお前はやはり対極であり犬猿の仲なんだろうな。こうしている間もお前とは仲良くなれそうに無いよ」
そんな会話をしているとサクト率いる連合軍の第一陣がモスクワ全域に総攻撃を開始した。
火の手が伸びていき、モスクワで隠れていた人達が避難しようと慌てて居るのが分かるが、だからと言って二人は助けに行こうとすら思わない。
何故なら今ソラ達がこの街に到着したからだ。
今モスクワ戦が始ろうとしていた。




