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挨拶から始る戦い 6

 カールはこの街を統治する上で真っ先にした事は大人を散けさせて強制労働場で働かせ、子供も別にして隔離して人質として扱いながら大人になれば強制労働場へと働かせるという手法だった。

 建前上街を維持しつつカールはそのまま街の人達を十年ほどずっとそんな感じで強制労働場で働かせている。

 刃向かう人達は力や洗脳で強制的に従わせて、それで恐怖した者は大人しく従うという手法だった。

 実際それでこの街は成り立っており、この街から逃げる人達が後を絶たなかったそうだ。

 ある意味仮初としての街の形すらまともに成り立たせようとすらしない上、街を残しているのも恐らくは解体費用が浮くからぐらいの理由かもしれない。

 家具を廃棄しているところを見る限りどうやら最低限で売り飛ばすなり破棄するなりしていたようだが、それでも彼女のジェイド以外の人間への興味の薄さがハッキリと見えてきた街構成だった。

 俺とジュリは近くにある強制労働場へと向かい出入り口へと辿り着いた所で俺達は唖然としながら足を止めてしまう。


 俺達は子供達を管理している人達から強制労働場はまず正面に見張りが二人交代制で見張っており、門を潜って目の前に管理棟が存在してそこから更に門を潜って奥に広大な強制労働場が存在しているとのこと。

 解放するなら管理棟を攻略する必要がある。

 その管理棟にはジェイドに崇拝しているロシア兵などで構成されており、あの孤児院も事実上そのロシア兵から定期的な監視があるとのこと。

 それ故に孤児院と強制労働場はある程度の近くに設計されているらしく、ある意味ワンセットという扱い。

 だが、この場合俺達が足を止めて中を魅入ってしまったのは管理棟の出入り口を見張っている兵士達が死んでいたからだ。

 それも大量の血をぶちまけながら。

 真っ白な雪に真っ赤な血の赤が付着してある意味美しささえある遺体なのだが、同時に俺はその綺麗な太刀筋が垣間見えるほどの綺麗な傷口を魅入ってしまう。

 腕前がハッキリと分かるほどの綺麗な傷口、壁に寄りかかるみたいな形で座り込む遺体に近付いていく俺はまだ血が変色していないと言うこともありここ最近の事だとハッキリと理解した。

 このロシア兵はカールが選別で選んでいるのでカールの指示なしに勝手な事をするとは思えないので、この辺りの兵士達が裏切りを働いたと思えないので殺したのはアクトファイブのボスだろう。


「もしかして強制労働場の管理者全員殺して回っているのかもな…この温もりと血がまだ変色していない所を見るとここ数分の出来事だ。ダルサロッサとジュリは孤児院まで戻って別の強制労働場の近くの孤児院に向って貰うように頼んでくれ。もしかしたら全部の強制労働場がこんな状態なのかもしれない」

「ソラ君はどうするの?」

「まだこの中にあのボスがいるのかもしれないから俺は慎重に中を確かめるよ。もし誰も居ないなら労働をさせられている街の人達を解放してくる」


 そう言って俺は中へと入って行き、足音を立てないように素早くかつ慎重に壁へと背中をつけて監視カメラの場所を素早く把握、窓からそっと覗き込むとやはり大量の血が部屋中にこびりついている。

 俺は窓から入らずに壁際に歩いて行き玄関を左手でそっと開けて中へとゆっくりと入って行く。

 エコーロケーションで常に周囲の部屋を確認しているので少なくとも生存者がいないことは確認積み。

 血を流して倒れているロシア兵達の脈を念の為に測り、温もりなどを確認してから殺されてからあまり時間が経過して居ないことを確認し俺は左右の部屋を素早く確認する。

 そこから走って10分ほど掛けてから管理棟を軽くではあるが見て回り誰も居ない事を確認してから一階まで戻るとどういうわけか一階の食堂で動く気配を感じ取ってダッシュで近付いていく。

 どうやら樽の中に丸まって隠れていたようで、倒れた樽の中から怯えた子供が姿を現した。

 俺に対してすら怯えている姿を見る限りどうやらよっぽど怖い目に遭ったようで、俺はスマフォの翻訳機能でなんとか少年に自分は敵ではないと教え込もうとする。

 無論簡単にいくわけでは無いが、30分ほど掛けて俺は少年からの最低限の信頼とある程度の詳細を聞くことが出来た。


 少年はある日孤児院にやって来たロシア兵の話を立ち聞きしてしまい、この強制労働場に自分の両親が居ると知りなんとしても会いたいと思い今日侵入してきたそうだ。

 何でも前々からこの労働場の東側には林が広がっているらしく、木々に隠れている場所に小さいヒビがあるのだとか。

 無論大人が入れるような隙間は無いが、子供が通る分にはキツいという意外に問題は無かったようだ。

 で、なんとか中に入ったのは良いが中も見張りが多くどうやって両親を探すのかと困り果ててこうして樽の中へと入った所で少年は聞いてしまった。


 施設の管理棟中に響き渡るほどの悲鳴と斬撃の音が何度も何度も聞こえてくるうち怖くなった少年は樽の中で見つからないようにと息を潜めて丸まっていたようだが、その内樽の蓋が開いて顔を覗かせる一人の男。

 厳つい顔つきに返り血が付いているその姿を見て一気に湧き上がってくる恐怖に悲鳴すら出てなかったらしく、汗や涙を流しながら怯えていたが男はまるで興味が無かったのか再び蓋を閉めてそのまま去って行ったそうだ。

 その内悲鳴が無くなった所で俺がやって来た。

 恐怖で隠れていたが耐えられなくなり逃げる為に必死で樽から出ようとして俺が再びこの場所に現れたと言うわけだ。


 俺は少年を連れて一旦強制労働場の出入り口を開放して大人達がワラワラと建物から出てくる。

 先ほど建物全体の電源を一旦落としたのでドアの鍵も開いたのだろう。

 少年は沢山現れる大人達を見回して恐怖を押し殺し、お父さんとお母さんを探そうと何度も何度もお父さんとお母さんの名前を叫ぶ。

 俺は少年に「君の名前を叫んでみたら?」とアドバイスを告げると少年は自分の名前である『ジョン・ウーバン』と名乗った。

 すると一人の女性と男性が身を乗り出し、少年がそれが自分のお父さんと母さんなのだと分かって涙を流していく。

 先ほど感じた恐怖から、それが本当の意味で終わったという安堵からくるのか、それともやっと出会えた両親への喜びなのか、その全てなのかもしれない。

 俺は少年の背中をそっと押して「さあ…お父さんとお母さんが待っているよ」と耳元で告げると少年は涙を流して父と母の名前を叫んで走って行く。

 男性と女性の方も大粒の涙を流して少年を喜びと共に抱きしめると、出入り口から沢山の少年少女達が現れて次々と大人達の方へと両親を探しに行く。


「ソラ君。やっぱり他の収容所も同じだったよ。誰かの手によって殺されていったって。どうやら子供はその両親とある程度近くで管理していたら多分此所で会えるはず」

「うん…今一人見つかった所だから安心した。でもこの街はここからだな」

「ソラ。でも良かったね」

「そうだな。ブライト。でも……なんでこんなことを」


 何を考えて解放したのだろうか?

 あの男になんのメリットがあるのだろう。

 リハビリの為なのか、それとも金にならないことを選んだのか…なんなのだろう。


「会えば分かるのかな? あの子ソラ君を呼んでいるよ」


 俺が見つけた子供が俺を呼んでおりロシア語で「ありがとう」と笑顔で告げてくれると心が少しだけ救われた気がした。

 すると少年はハッキリと告げた。

 男が去って行く中告げた一言を。


『後始末までが仕事さ…』


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