挨拶から始る戦い 3
アンヌとジュリは去って行くソラ達を見送りながらレインは起き上がり不安そうに見守る二人を見守ってベットの中へと入って行く。
アベルは上にいる二人の動向を周囲の監視カメラを使用して状況を静観していると、アックス・ガーランドとアベルの予測通りあの二人に対して増援が地上から送られており、同時に地下の水道を通って更なる増援がやって来ているとわかりアベルが先頭に後方支援にジュリとアンヌが配置された状態で敵の増援がやって来るメンツの前に立ち塞がった。
二十を超える兵士達がアサルトライフルを装備してやって来ており、それを見てアベルはハッキリと断言した。
「彼等はロシア兵のようだな。なら地上を攻めているのもロシア兵と傭兵の組み合わせだな。下手をすればこの街にアクトファイブの主力は残っていないのかもしれん」
「では主力はもうモスクワに?」
「と言う事だ。ジュリは後方から攻撃を仕掛けてくれ、アンヌもだ。私が前方で戦うから二人は支えてくれれば良い。派手に暴れると地盤沈下でもされると困る」
地下での戦いが始った頃ジャック・アールグレイとギルフォードは山積みになっている軍用車両や兵士達の死体の上に佇みながら更にやってくる軍勢を見守っていた。
とにかくここで暴れ回って敵の目を釘付けにし、地下では地下で後ろに回り込まれるのを阻止しつつ更に敵戦力を削ぎ落としていく。
アベルの予測では主力はロシア兵と傭兵の混成部隊であり、ここでこれらを削ぎ落とせばモスクワではアクトファイブの主力と正面から戦う事になっている。
同時に明日の夕方には竜達の旅団はモスクワに向わないと行けないという制限時間をお昼頃に通告を受けてしまった。
と言うのも連合軍は明日の夕方…正確にはもう当日になってはいるのだが、夕方までに主力が到着するという話になっている。
そこでアベルは考えた。
金銭面で支えてくれている人物に事情を説明し、廃墟寸前の場所へと拠点に選んで彼に会えて情報をリークさせることで敵の戦力を削ぎ落とし列車を動かすための条件をクリアする事だった。
ソラは最初こそ周辺被害を考えて渋顔を作り出したが、他にアイデアが無いと言う事で同意する事になり、主力隊が到着してモスクワで戦争が開始された場合竜達の旅団は民間人の保護と同時にアクトファイブの排除を行なわないと行けない。
「時間が無いと言う事だ。進撃率の高い素早く制圧する事が出来るメンツが選ばれて、制圧する能力の高い私達が此所に残ると。効率から考えればそれで良いのかもしれんがな」
「どっちでも良いさ。モスクワに早く向う事情が出来たのなら向うべきだ。少なくとも民間人が巻き込まれる可能性を排除するのも俺達の仕事だ」
「それは君達の仕事であって私の仕事では無い。て言うか巻き込むなよ。私の目的はメメントモリを排除して賞金を手に入れることさ」
「はいはい。さて…もう一暴れするか」
ギルフォードは黒い炎を纏った強力な一撃を容赦無く正面の軍勢に叩き込んだ所で戦闘が開始された。
時を同じくしソラ達はアクトファイブが拠点にしているこの街の中心地となっている建物の地下への出入り口前まで来ていた。
ソラは後ろにいる海、レクター、ケビンに同意を取りそっとドアを開けて中へと入って行くと、地下駐車場へと出てきた。
夜中と言うこともあり誰もおらず閑散としておりソラ達の歩く音だけが聞こえてくる。
警戒心を高めて歩いていると一番奥のドアが開くのがハッキリと見えて柱の陰に急いで隠れた。
間の抜けた奴が二人ほどやって来てソラは素早く倒せば行けるかと一瞬だけ考えている間にレクターが静かに素早く制圧していた。
物凄いノリノリでほんの数分前まで眠気に負けそうになっていた人間とは思えない。
すっかり本調子に戻っていたレクター。
「やれやれ…ここから上はやはりアクトファイブが拠点にしているようだな。準備は出来るよな? ここからは相当の数だ。エコーロケーションで調べてみたが百や二百じゃ無い」
「全員を倒してしまえば良いのですよね?」
「ああ。要するにこの街からアクトファイブが居なくなれば次に向う為の条件を満たすことが出来る」
ソラの頷きを合図に四人は突っ込んでいき、階段を上って大きな大理石で出来たような部屋に出てきた。
円状に広がる吹き抜けになっている場所、六階まで一直線に繋がっているのだが同時に上を見ていると綺麗なガラスの細工を壊しながら大量の機械兵器が浮かんでいる。
ソラの隣でケビンがウンザリするような溜息を吐き出した。
「こう…情緒を吹っ飛ばす登場はあまり好きではありませんね。この数と広さです。ここは四つに分かれて行動しましょう。集まる場所はここで」
「そうしよう。各地に散ってとにかくアクトファイブを倒す。いいな?」
「任せておけ! 眠気は吹っ飛んだ!」
「それじゃあ後で」
上からやってくる大量のミサイル攻撃を躱してソラ達は四つに分かれて行動し始めた。
モスクワではホークが槍の手入れをしており、ベベルは三階のベランダでのんびりとプールベンチで白いで寒さを体全体で楽しんでおり、ボーンガードはソファに座り込んで錬金術の本をジッと眺めていた。
彼等は同じ部屋で待機しており、お互いにある程度の距離感を維持している辺りが彼等の関係性を上手く表現しているように思える。
そんな部屋のドアが勢いよく開いて中に殺人鬼の鬼が息を乱しながら現れた。
「私も攻撃チームに入れてください」
「駄目だ。ハンからの命令だ。この最終防衛ラインを死守するメンツにお前も入っている」
「その前で殺せば良いだけ」
「もうじきボスが目を覚ます。これ以上古参のメンツを減らすわけにはいかない。それともお前はボスに逆らうのか?」
ホークはフード越しに鋭い睨みを向けて殺人鬼を怯ませるのだが、ベランダからベベルの「ケタケタ」という笑い声が聞こえてくると二人の目は同時にそっちの方を向く。
ベベルはプールベンチから身を起こして体事捻って室内の方を見ていた。
実に楽しそうな笑い声と微笑みを見せるのだが、同時に感じるのは何処まで行っても自分勝手な考え方である。
「良いじゃ無いか…行けよ。その代わりここに居る俺達を倒せたらな…その時はハンに言っておいてやるよ。俺達より強い奴が殺しに行きましたってな」
ベベルの言葉に殺人鬼は周囲を見回す。
錬金術を極めた男、傭兵としてのスキルをひたすら極めた兵、戦う事に情熱を注ぐ化け物。
このメンツを潜り抜けて行けるわけが無く彼女は諦めて室内に入り込んで端っこの椅子座り込んで殺す姿を妄想していく。
どこか楽しそうに妄想しているその姿は見ていると気持ち悪く見えた。
「君達は実に楽しそうに見えるな。どうしたんだ? 私がこの部屋を出て行く前と後で随分雰囲気が変わった気がするな」
「別に…そこの鬼が目を覚ましただけさ」
「おやおや。おはよう。さて…ボスが目を覚ました」
全員の動きが一旦止まり出入り口の方へと視線を向けると、大きな巨体を『ズシン』という音を鳴らしながら現れた二メートルを超える化け物。
体中に生傷がそのままにされており、特に顔に付いている大きな十字傷は特徴的である。
ボサボサの髪をそのままにしている風貌も、特に服装にこだわりを持っていないであろう簡易なシャツとカーキ色の軍用ズボン。
「数が随分減ったな…何があった?」
「竜達の旅団と呼ばれている面々にやられました。申し訳ありません」
「いや良い。挨拶に向っていく。ハン…来い」
ボスはそのまま何処かへと消えていき、全員は特に感情がわいてこなかった。




