金と欲望が渦巻く街 3
翌朝俺達は言われたとおり次の街へと向うための場所である倉庫街へと皆で移動し、指定された場所に合ったのは列車が鎮座しているのだが、これで移動するのだろうか。
結構古い列車だがこんなモノで本当にモスクワへと辿り着くことが出来るのだろうかと心配になってしまうが、これで辿り着けると言うことを信じて見ようという話になった。
で、詳しい話を聞くとどうやらモスクワまで二つほどの街を経由しないと行けないらしく、それぞれの街でアクトファイブを開放しないと次へと進めないそうだ。
次の街はキューティクルが支配していた街で、この先へは行けば分かるそうだが、その言い方と悪そうな微笑みを見せてくるダウンタウンの人達を見て少々不安しか無い。
列車に乗り込んで俺達は荷物を大量に積んでいる貨物列車は動き出す。
各々それぞれの場所に散っていくのだが、俺はポケットの中にある鍵を掌に転がし、俺はふと溜息を吐き出す。
次の場所はどんな場所なのか、ダウンタウンの人達曰く「行けば分かる。楽しい場所だよ」と言うのだが、支配していたのがキューティクルというのが心底心配でしか無い。
俺はアクアやブライトやジュリと共に対面式の座席に座り窓の外に広がるロシアの風景を見つめており、父さんが一個後ろで俺に向って羨ましいみたいな顔で見つめて居る。
というか、鬱陶しいので止めて欲しいが、レクターは俺の持って居る鍵を狙っている気がするので鍵はそっと懐の中へと入り込む。
海は後ろの席へとそっと移動していくのだが、この車両には俺達しかいないが、先ほどまでギルフォードとレインちゃんがいたような気がする。
「ギルフォードとレインちゃんはどうしたんだ?」
「レインちゃんがまた熱がでたから薬を飲みに行ったよ。アンヌさんはそれに付いていった」
「エアロードとシャドウバイヤは?」
「お腹が空いたって行ってアンヌさんに付いていったよ」
大人しくしていれば良い物を…あの馬鹿は何を考えて普段から行動しているのか。
俺は溜息を吐き出しながら額に手を置き「やれやれ」と口にすると、ふとするとダルサロッサがアクアと共に窓の外へとカメラを構えていて必死で写真を撮っている。
いつの間にかいたというかまるで存在感を感じさせない奴だな。
「ダルサロッサはついて行かないのか?」
「行かない。この風景を写真に収めたいのだ。このカメラ気に入った」
「そうか…なら良かったよ。大事にしてくれよ」
「うむ。そう言えば熱が出たという事だが、薬は効くのか?」
「魔導協会が用意した薬で熱冷ましと呪術の効果を鎮圧する薬らしいぞ。でも、一回飲めば一日ぐらいは持つらしいが」
そんな薬があったとは知らなかったが、魔導協会も準備が良いな。
俺も窓の風景に目を送っているとレクターが俺の近くへと近付いているので俺は顔面に拳を叩き込む。
こいつはまだ諦めていないのか…頼むからそんな事に執念を燃やすなこの人間代表の馬鹿。
すると車両に入ってきたのはギルフォード達だった。
エアロードとシャドウバイヤは両手一杯にお菓子や食べ物を持ってきているが、食欲を抑えて欲しいですと言えば聞いてもらえるのかな?
いや…無理だな。
「エアロードとシャドウバイヤはそんなにお腹が空いているのか? 朝ご飯を食べたよな?」
「良いでは無いか…で? このレクターは何をしているのか?」
「この鍵を狙っているんだよ。未だにベルに会おうとしているんだ。会わせないぞ…」
「なんでだ!? 俺は会いたい!! 面白い人だと聞いたぞ!」
一回会話をすれば必ず一回は話がずれる人を面白いで済ませて欲しくないんだが。
まあこいつに行っても無駄なので俺は師匠に頼むかと少しだけ悩みながら目を細めてレクターを見下すように見ると、レクターはその目だけで俺が何を考えているのか分かってしまったようだ。
ゆっくりと俺の方を見ながら逃げていくレクターの首襟を掴んで引っ張りながらレクターの耳元へと近付いていく。
「今度馬鹿な真似をしたら師匠とサクトさんからの説教だ…良いな?」
「イ、イエッサー…」
「いいな? これは最後通告だ。ベルにはお前とジャック・アールグレイだけは絶対に会わせない。これは俺からの決意表明だ」
「俺とジャック・アールグレイって同レベル?」
「ベクトルは違うけどな。でも、酷さで言えば同レベルだな。これ以上悪化して『ジャック・アールグレイより酷い』に昇格しないようにする事だ」
「因みに昇格したらどうなるのでしょうか?」
「俺と縁切りにまで発展する可能性が高い。最悪俺の人脈全てを駆使してお前を軍という将来を奪う」
「そ、そこまでですか!? 俺はそこまでの事を今しようとしているんですか!? 面白そうな人だって聞いたから会いたいだけなんだけど?」
「一回話をする度に話がずれるんだぞ? 違う話が始るんだ。同じ過ちを繰り返そうとするし、反省をしないし…」
「それってわざとじゃ無い? ほら、俺が良くソラをワザと巻き込むみたいな」
「お前のそれはワザとなんだな。覚えておけよ。この一連の戦いが終わったらお前の身に禍が襲い掛ると宣言しておく。それとあれはわざとじゃ無いと思う。彼女は素でしている」
そこだけは断言できるぐらい彼女は素なのだ。
多分だが自分を偽ると言うことが苦手な人なのだろうし、そういう彼女だからこそボウガンと絆を紡げるのだろう。
話をする俺は疲れるけどまあ好きな人という立ち位置についている。
「会ってみないなぁ…」
「駄目だ。お前と会って面倒事になる未来しか見えないし、その上で俺に被害がくる。間違いない」
俺はレクターを解放して腕を組んで黙っていると、ブライトが窓の外へと流れる風景から俺の方に顔を向けてきた。
ジッと俺の顔を見ているのでつい見返してしまうのだが、ブライトは俺に何を告げているのだろうか?
そう思っているとブライトのお腹から『ぐぅー』という音が鳴り響き、単純にお腹が空いただけであると分かってしまった。
俺は溜息を吐き出してジュリから簡単なお菓子を一つ貰ってブライトに渡す。
ブライトはチョコレートで作った一口サイズのお菓子を口に運んで食べ始めるのだが、それを見ていたエアロードがそれを美味しそうに見て居るのだが、そんな目で見られても困る。
「何だよ? 欲しかったらジュリから貰えって。俺の方をジッと見られても何も出来ないぞ」
「ジュリ欲しい…」
「でも今両手にスナック菓子があるよね? ポテトチップス」
ジュリの指摘通りでありエアロードの両手はスナック系の菓子で埋め尽くされており、今チョコレートのお菓子を食べる余裕があるようには思えない。
するとまずは両手のお菓子を食べてからスナック系の袋を両手で持って口の中に放り込んでいく。
何というか、別のお菓子を食べる過程で馬鹿食いする人初めて見たよ…。
「ジュリ! そのお菓子くれ!」
「食べる以外に何かしようとは思わないのか? ダルサロッサみたいにカメラで写真撮るとか、ヒーリングベルの様にSNS荒しをするとか」
「それは誇っても良いモノなのか? ソラ」
「良いじゃ無いかエアロード。お前やシャドウバイヤみたいに無趣味よりマシ。シャドウバイヤはスマフォを持って居ないから別としても、お前はスマフォを持って居るんだから何かしたら良いんじゃ無いか?」
「だってゲームとやらはソラが禁止しているし」
「別に禁止はしていない。課金だけは駄目と言っているだけだ。課金に上限が無いからお前がウルベクト家の家計を火の車に変える事は間違いが無い」
「む? 課金とはなんだ?」
俺達は黙り込んだ。
ヤバい…余計な事を教えたかもしれない。




