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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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嘘は誰の為に 2

 ヒーリングベルを封じた術、対生物用に開発した肉体の性質を変化させる薬剤。

 ヒーリングベルは大理石と非常に似た性質に変貌させられており、身体を動かす事は愚か意識すら存在しない。


(少しずつ……少しずつ意識が飲まれていくような感覚ですね。なるほど……パター…ン……Eで…す……ね。後は…た……のみま…し……た……)


 そこでヒーリングベルの意識は完全に黒い大理石に飲み込まれていき、そこにあるのは『ただの黒い大理石』へと変貌したヒーリングベルが存在していた。

 しかし、この状況も奈美とイリーナと共に考えていたパターンの1つ。

 ヒーリングベルは自分を無力化する術をいくつか考えており、その内の1つがこのパターンだった。


 勿論対策もばっちり講じており、奈美は急いで持ち場を離れてヒーリングベルの元へと急ぎながらジャンの監視は怠らない。


『イリーナ!パターンE』

『じゃあヒーリングベルは?』

『うん。封じ込められている。でも………今から私が対処する。作戦をEに変更!』

『了解!私がジャンを追い詰める!』


 やる気を見せるイリーナは寺院前から山を下り始めていき、ジャン目指して下っていく。


「ヒーリングベルを手放したのは荷物になるから、ジャンが今必要以上に荷物を恐れるだろうと踏んでいたし。パターンから考えれば間違いなくこのまま寺院を目指すはず」


 少し進んだ先の大きな岩の影に隠れる。


(なるべくヒーリングベルに武器を使用して欲しかった。恐らく、ヒーリングベル対策用の兵器は使ったんだろうけど。まだまだ、ジャンは戦える状態だと踏んだ方がいいよね)


 ここで争っている間に奈美はヒーリングベルを救出するたえに急いでいるはずで、ジャンの詳細な場所が分かるのは奈美だけ。

 ジャンの上空を移動している鳥が少しずつ近づいてくる。


 来ると思った瞬間、イリーナの隣に赤い缶が飛んでくる。


『イリーナ逃げて!ヒーリングベルはその缶で身動きを封じられていたの!』


 イリーナは急いで体を右側に飛ばし、擦り傷を作りながらも赤い煙から逃げ出す。

 今度は緑色の缶を投げつけるが、イリーナは近くに転がっている石で缶から煙が出る前に吹っ飛ばす。

 右側に小さな擦り傷を作り、痛みに耐え忍びながらもイリーナ素早く立ち上がり視界に素早くジャンを入れる。


「へぇ………味方一人の為に今度は君が立ちふさがるってわけだ……僕は別にいいんだよ。君をいたぶった後にもう一人をいたぶるだけさ」


 ジャンは勘違いをしているという確信を得たイリーナ。


『この人は勘違いをしている。ヒーリングベルが囮を買って出たのは、竜は多少の事があっても簡単には死なないから。あの状態でもヒーリングベルは冬眠しているだけで、完全に死んだわけじゃない。今頃奈美が救出しているはず。私がこの男を引きつけなくちゃ』


 イリーナはスカートのポケットに手を伸ばし、一つの笛を取り出した。

 息を少しだけ吸い込み、笛から高い音を遠くにいるジャンに対して放つ。


 ジャンは高い音を前にしてイヤホンがあるから大丈夫だという思いでいると、イヤホンを通り過ぎて耳に鋭い音が響き渡った。

 そんな時、ジャンの足元が強く揺らぎ吐き気が襲い掛かってくる。


「な、何!?」


 イリーナは今のうちに足元に黒い石を握りしめてジャンの頭目掛けて投げつけた。



 奈美はこけそうになりながらも何とか坂道を下っていき、ヒーリングベルがたどった道の地を走って行く。

 ポケットの中に入れておいた『修正剤』を握りしめる。


 この修正剤こそがあの状態のヒーリングベルを救う唯一の策、この一本もシャドウバイヤから預かった大切な一本。

 足場の悪い道をこけないように必死になりながら上空から見ていた場所までたどり着いた途端、奈美は息を呑んだ。


「え?黒い石がたくさんある…………」


 奈美は急いでこの黒い石の正体を検索し、素早くそれは見つかった。


「黒小石?マグマの熱が海水で冷やされて出来上がる石?でもこの辺は………あつ!この辺りは昔海底にあったんだ………だから。どれだろう?急がなきゃなのに……」


 黒小石はどれも似た丸まったデザインをしており、ぱっと見ではまるで気が付かない。

 触った感触もどれも同じに見えてしまい、一本しかない修正剤を無暗には使えない。

 触りながら確かめてみるが、まるで見当がつかない。


「何か無い?何か………何か…!? そうだ!」


 そう思い奈美は急いである証を探し始める。

 竜達が付けた『竜達の旅団』の証でる竜と船のマーク、特殊な道具でつけられたマークはどんな状況だと『白く』残るはず。

 そう思い、黒い中に存在している白いマークを探す。

 問題は奈美はよく見ていなかったためにヒーリングベルがどこにマークを付けていたのかを見ていなかった。


 必死になりながら走って一つ一つの石を確認していくが、全く見つからない状態が五分過ぎ諦めそうになるなら奈美は思いっ切りこけてしまう。


「無理だよ………」


 両腕で上半身だけを起こしながら一粒の涙を流して、ふと顔を上げるとそこに黒く丸い石を見つけ出した。

 その石にはありない白い部分が小さく残っていた。

 その石に触れ持ち上げて白い部分に触れるとそれが草木ではないことを確かめる。


「見つけた!これが顔?そしてこの首から……胴体と両腕で下に両足と尻尾?マークは首筋に付けたんだね。良し!後はこの修正剤を塗って」


 集成材をヒーリングベルの体中に塗っていくと、身体に少しずつ色彩が戻っていき、ヒーリングベルは強く目を開いた。



 ジャンは頭から流れる血に慌てた様子で悲鳴を上げ、動揺していく。


「あっ!ああっ!僕の頭から血が流れる!」


 動揺しているとイリーナは素早くジャンに近づき、持っている鞄を奪い去ろうと必死になる。


「クソ!このクソ女!!」


 イリーナの左側頭部に赤い缶を叩きつけ、イリーナの左側頭部から血が流れるがイリーナは痛みも全てを耐え抜く。

 何とか二つの鞄を奪い取る事に成功するのだが、ジャンは怒りのまま赤い缶の蓋を取りイリーナに投げようとする。

 それを小さな石が邪魔をする。


 ジャンが持つ缶に当たると赤い缶は地面に落ちていく。


「イリーナ!早く逃げなさい!」


 ヒーリングベルの澄んだ声に反射的に答えたイリーナ、ジャンの周りに真っ赤な煙がモクモクと立ち上がりジャンから痛みで悶える声が聞こえてくる。


「クソクソクソ!女なんて男に虐げられていればいいんだよ!どいつもこいつも!!」


 イリーナは血を流しながら鋭い睨みを向け、ヒーリングベルですらも嫌気がさしたような目線を向ける。


 ジャンは痛みに耐え抜きながら赤い煙から逃げ出していく、口から出てくる言葉はどこまでも汚くののしる様な罵声ばかり。

 しかし、ジャンが走り去ろうとした直後、ジャンは呼吸が出来ない苦しさに悶える。


「許さない!イリーナやヒーリングベルをこれだけ苦しめて!女をバカにして!許さない!」

「うるさい!………僕を罵倒して罵った女なんて皆屈服させてしまえばいいんだよ!」


 苦しみながらもジャンは最後まで抗おうとするが、奈美は決して許しはしない。


「あなたがしたことは決して許されないことをした。どうしてアメリカで呪術を売り飛ばしたんですか!?」

「………僕を見下したからだ!あの国何てクソなんだよ!」

「故郷をクソなんて。帰る場所が故郷でしょ?どれだけあなたにとって嫌な場所でも変える場所です!」

「そんな場所僕に利用されてしまえばいいんだよぉ」


 奈美はこの際この男を殺せばいっそ皆が楽になるのでは?と思い魔導機を操作していると、ヒーリングベルが「奈美!イリーナ!」という焦った声で意識がそちらに向く。

 ヒーリングベルは急いで奈美とイリーナの順に回収し急いでその場から逃げ出す。


 ジャンや奈美やイリーナのいた場所に半壊した飛空艇が通り過ぎていく、ジャンの体がその飛空艇に惹かれてしまったまま亡くなった。


「これが………最後?こんな形が?」

「イリーナ。奈美。これが争うという事です」


 寺院から粉々になった鏡が青空を通り過ぎソラの元へと向かって行く。

 奈美とイリーナは安心したままヒーリングベルに寄りかかって眠ってしまった。


「やれやれ。これでも移動もできませんね。よく頑張りましたね二人共」


 二人は安心した顔で健やかな眠りについていた。


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