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彼女はそれでも愛している 0

 俺は手元にある鍵を握りしめながらやって来たギルフォードや俺の服の中にいたブライト(因みに師匠は辞退した)、この三名でもう一度ベルと会おうという話になり、夕食前の時間で行なうことになったのだが、問題のレクターを父さんとケビンと他全ての竜の力で強引に拘束しているのを念入りに確認する。

 拘束を終えた後で俺達はドアに鍵を刺してみると、ドアそのものが発光して彼女へと通じる道へと変貌した。

 ドアを開けて光っている壁のようなモノを通り過ぎて彼女の元へと辿り着く。

 そして俺達三人は立ち止まってふと目の前に広がる光景を前にして唖然としてしまうが、俺が唖然とした事とギルフォードとブライトが唖然としたのは違う理由だと此所でハッキリと告げておく。

 目の前に広がる綺麗な草原に綺麗な花々達と一本の大きな木と奥にある小屋のように見える内装が良い一軒家、恐らくギルフォードとブライトはこの風景に驚いているのだろう。

 だが、俺が驚いているのはその花畑でかかしみたいに片足立ちをして困った顔をしているベルを見たからだ。


 また彼女は…どうして学習しないのだろうか。

 俺が代表して話しかけることにした。


「で? 今度は何をしているんですか?」

「あらソラ様。お久しぶりで御座います。あら? そちらのお二人は?」

「話が逸れていますよ…何をしているんですか?」

「ご免なさい。花畑で手入れをして居たのですが、するとあら不思議…出られなくなってしまって。困りました。それでそちらのお方は?」

「えっと…助けなくても良いと?」

「お助けいただいてもよろしいでしょうか? そちらの小さい竜さんは可愛いですね」


 話が逸れる逸れる…直ぐ違う方向へと話が逸れていくのだから飽きない人だ。

 俺は彼女を花畑から救出して彼女は笑顔で「ありがとうございます」とハッキリと告げてくれたのだが、何一つ達成感が得られない人だな。

 面白いから好きだけどね。


「えっと……こちらがベルと呼ばれているボウガンが愛した人だ」

「あら…ソラ様はお上手で。ボウガンの愛した人です」

「な、なるほど…俺はギルフォードと言います」

「僕聖竜ブライト! 綺麗ですね!」

「あら嬉しい事を言ってくれますね。ブライトさんも可愛いですよ。ギルフォードさんはもう少し微笑んでくだされば結構です」

「ソラ…凄いな彼女」

「だろ? 面白いだろ? 結構好きなんだよ…この人」


 彼女は是非と言って俺を家の中へと案内してくれたのだが、結構綺麗な部屋だなと思っていると彼女は高級そうな白と金で装飾されたカップを取り出して笑顔を向けてくれた。

 俺はコーヒーとか紅茶の種類を聞いてくるのだと思っていると、明後日の質問がやって来た。


「このカップ綺麗でしょ? ボウガンが買ってくれたのです。このカップは裏に変わった模様が描かれているのです」

「そうですね…そのカップを選んでいる時点では別の質問が存在していたんじゃありませんか?」

「そうでした。私ったら良く話が逸れるもので」

「俺は慣れましたけどね。俺が入れましょうか?」

「大丈夫ですよ。紅茶でよろしいでしょうか? ボウガンが買ってくれた紅茶ですけどね」


 鼻歌交じりで紅茶を入れていく姿を見ている中、ギルフォードは棚の上に置かれている写真などをふと手に取って見つめて居た。

 ボウガンは此所に時折よっているようだが、鍵を俺が持って居る以上此所に来る事は無いだろう。


「ボウガンは鍵をソラ様に預けた様ですね。もう…何時までも責任を背負おうとする。私はそういうことをしないで欲しいと何度頼んだことか…」

「アンタはボウガンにどうなって欲しいんだ?」

「人間に戻って欲しいです。そうして人間として天寿を全うして欲しいです。私は彼に幸せになって欲しいのです。これが私の我儘だと分かっていますが、それだけ愛しているのです。ボウガンがする全てを私は許せるほどに」


 カップに紅茶を入れた状態で彼女は嘘偽り無く笑顔でハッキリと向けた。


「良かったら皆さん私に会いに来てくださいね。話がしたいのです。ブライトさん抱きしめても良いですか?」

「うん! 抱っこ!」

「フフフ」


 話がズレたり元に戻ったり忙しい人だなと思っていると、ギルフォードはふと複雑な顔をしていた。


「ギルフォードさんはボウガンが嫌いですか?」

「……悪い奴では無いと思うようにはなった」

「そうですか…良かったらギルフォードさんのボウガンの話を聞かせてくれませんか?」


 俺は彼女が出した紅茶を飲みながら優しく微笑む。

 ベルの言葉が何かギルフォードに意識を切り替える切っ掛けになると信じて。


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