軌跡を巡る旅 10
父さんとライツが至近距離でナイフを構え合っており、緊迫した状況がその場を支配しているのだが、その緊迫した状況でルルブは楽しそうに下唇を舐めて俺達を交互に見つめ合う。
そして、更にギルフォードとケビンの戦いが激しさを増しているのだが、勢いがあるだけで正直説明しようが無い。
ルルブは地面を強めに蹴って砂埃を巻き上げてから姿を俺達から消し、俺とレクターは全神経を研ぎ澄ませながら俺はエコーロケーションで索敵に入った。
すると俺の背後に回り込まれていることに気がつき俺はしゃがみ込んで右フックを回避、ルルブはそのまましゃがみ込んだ俺に向って右拳を振り下ろすのだが、それをレクターが左手で受け止めつつルルブの鳩尾目掛けて蹴りをお見舞いする。
ルルブは鳩尾にお見舞いされた蹴りを後ろに少し下がることで威力を半減し、強く睨み付けてレクターの右足を掴んでから振り回す。
俺はそんなレクターを無視してルルブ目掛けて横薙ぎに向って斬り掛かるのだが、ルルブはそんな俺に向ってレクターをぶん投げてくる。
飛んでくるレクターを一瞬だけ受け止めるかと思ったのだが、服の中にブライトが居るのでそれをするわけにはいかず、俺はレクターを踏み台にして上に跳躍した。
ルルブの頭上を掴んで俺は風を掴んだ一撃をルルブ目掛けて叩き込む。
「竜撃! 風の型! つがいの風!!」
「ははぁ!! 良いなぁ!! ぶっ潰してやるよ!!」
「コラ―!! 俺を投げるな! 一撃! 極撃延長!!」
レクターは体を回転させて上手く着地しつつ素早くルルブ目掛けて衝撃波を作り出すのだが、ルルブはその攻撃を体を捻って回避しつつレクター目掛けて衝撃波を作り出す。
その衝撃波にレクターは自分の衝撃波をぶつけることで打ち消すのだが、同時に周囲に対して衝撃が広がっていく。
俺はそんな衝撃を気にすること無くルルブへと斬り掛かると、ルルブはその攻撃を仰け反って回避しつつレクターが睨み付けて牽制しようとするが、レクターがその程度で怯む馬鹿では無い。
馬鹿正直に突っ込んできてルルブ目掛けて高速突進攻撃を繰り出してくるが、その軌道上に俺がいるという事をこいつは知らないのだろうか?
ヤバい。
レクターから殺気すら感じる気がするのだが、気のせいだろうか?
「おい! 軌道上に俺がいるんだぞ! ぶっ殺す気か!?」
「俺を助けないで踏み台にした奴なんて!! このまま一緒に成仏させてやる!!」
「ハハハ!! 君達は楽しくして仕方が無いな!!! 良いぞ!! 盛り上げろ!!」
「アンタがメインだぞ!! 俺はついでなんだよ!! 異能殺しの剣!! 無撃…一ノ型……無我!!」
俺はレクターを巻き込むように無我を放ち、レクターは俺の無我の攻撃をよけながらルルブ目掛けて拳を叩き込んだ。
ルルブとしても俺の攻撃を避けながら戦うのは厳しかったのだろう。
と言うよりも俺の攻撃を回避することを優先してレクターの攻撃を避けきれなかったと言うのが真実だろう。
ルルブは激しく吐血して吹っ飛びそうになるルルブはそれを両足で堪える。
だが、今のダメージは骨が折れて内臓がやられるというレベルじゃ無いぞ…それこそ立っている事が不思議というレベルだろう。
「ハハ……ハハハ………まだまだだ…もっと…」
そう呟きながらルルブは自分の首筋に薬を打ち込み、体中に薬品が巡っていく中怪我が治っていくのが目に見えて分かってしまうが、あのレベルの薬品なら普通目に見えて副作用があると思うが。
どうしてそんな副作用が全く見えてこないというのはやはりおかしい。
俺がエコーロケーションでルルブの内側を覗いているが、やはり内臓から神経に至るまで副作用がまるで出てこない。
「どうやらあの男…薬品などの副作用が体に出てこないのだろう。多分どれだけ強力な薬品を使っても、多分だがウイルスも全て直ぐに治療する事が出来るのだろうな」
師匠の言葉を見て俺は改めてルルブを見る。
確かにそうかもしれない、レクターの攻撃で内臓がやられ骨がバキバキに折れてもまだ薬を売って直ぐ回復するというのは目に見える副作用があるはずだ。
それがまるで出てこないと言うことはやはりこの男は副作用も、ウイルスも効かない体なのかもしれない。
問題なのはこいつ自身知っているのかと言う事だ。
「多分知らんだろ。ああいう異能は言われないと気がつかないしな…多分医療関係者からすれば今すぐにでも欲しい人材だな」
「だろうね。どんな病気もどんな薬も問題なく使えるというのは世界が求めるものなのかもな。でもどうして師匠は知らないって思うわけ?」
「目に見える異能では無いしな、それにそういう人間は病気にならないから余計に気がつかない」
確かにそうかもしれないと思い俺はルルブをじっと見る。
それこそルルブは本来なら傭兵なんてやっている人間には見えない。
「もっと…」
未だに戦いを求める姿勢は大したものだと思うが、俺達からすればこれ以上戦いたくないと思っているのだが。
しかし、この状況で父さん達の戦いが終わりに向おうとしていた。
ナイフで一方的にライツを追い詰めているのは恐ろしいし、正直に言えばもうアンヌは余計な事をして居ないので単純な父さんの実力だろう。
一対一でしかも同じ武器で一緒の距離感で勝負をしかけていて一方的な戦いになるのはもう実力差だ。
「ライツ。諦めろ。お前ではどうやってもその男には勝てない。お前が死ぬと言うことは作画にこの後の作戦に支障がでる。それでなくても一人抜けている状態で支障が出ているのに…困るんだ」
「………アアアアア!! なんで勝てないんだ!? どうして…」
「単純に実力だ。ライツでは勝てない。私でも真っ正面から挑んだら勝てる気がしないのも確かだ…多分だがこの中で異能という一点を完全に省いて考えてみると実力がヤバいのはあれだ」
「人を化け物みたいに…まあ、この程度の実力の相手に負ける気がしないのも確かだな」
「ぐぬぬ……ウワァァ!!」
ライツが今にも捨て身で襲い掛ろうとするのだが、ハッキリと言ってそれでも傷一つ付かないだろう。
それだけ実力差がハッキリとしているのだ。
そんな最中で空間全域に響き渡るようなハッキリとした声と同時に『ドン!』という音が聞こえてきた。
「いい加減にしないか! ライツ。ボスの眼前だぞ。困らせるのか? それとも作戦よりも大事な事なのか? その下らない私怨は…ボス以上に」
「………分かった」
俺は見逃さなかった。
今あの機械の中で何かがハッキリと動いたのが分かってしまう。
どうやら蘇生はマジで進んでいるようで、ライツが行動を改めたのはあの中に居る人物が動いたからだ。
ハンの発言はあくまでも切っ掛けの一つに過ぎないのだろう。
ここで一斉攻撃でもして阻止するべきかと思ったのだが、ルルブがそんな中でも俺の方を睨み付けている。
「少年…動くなよ。今感づいたな?」
「さてな…何を言っているのかまるで理解出来ないけど?」
「嘘は良くないぞ。今一瞬だが目があの機械の方を向いて目が細くなった。お前先ほどから俺の居場所が正確に分かっているようだし、どうやら感づいているとみて良いだろう」
「………だから殺気を放って俺を足止めすると? それが俺に通用すると思うのか? 俺にはレクターという武器があるんだぞ」
「今俺を武器扱いした!? 抗議をいれる」
「お前が抗議という言葉を知っていたと言うことに驚きだ…お前が知らない言葉だと思っていたよ」
俺の隣でレクターが憤慨しているのを無視して駆け出そうとしたとき、機械が突然消えた。
ルルブも笑いながら最後に「また会おう!!」と叫んで皆同時に消えてしまった。




