軌跡を巡る旅 6
来た道を戻ってきて先ほどの時父さんとレクターが暴れ回っていたはずの場所で、俺はやけに静かになっていると思って戦場を見ると残骸がその場で山積みになっており、その頂上に達成感丸出しで汗を拭いている二人がいた。
嘘だろ…俺がここを離れて二十分も掛かっていないし、そんな短い時間であの二人はあの大軍を駆逐してしまったのか?
人間じゃねぇと思ってドン引きしていると探し終えて戻ってきたケビンもドン引きし、ギルフォードは溜息を吐き出して「やれやれ」とぼやき、アンヌは苦笑いを浮かべていた。
その全てを理解出来ないわけじゃ無いが、服の中に入っているブライトは「凄いね!」と本気で関心しており、そんなブライトに俺は「あれは凄いじゃ無くて馬鹿というんだ」と告げておく。
あれは普通じゃ無いんだ。
あの二人が馬鹿だからこそ出来る芸当であって、あれを普通の人間の『凄い一面』として認識されたら全ての人間が迷惑する事だろう。
そしてあの二人は戦場の先に向おうとするとき俺はハッキリと伝えた。
「向こうの方に次の部屋への出入り口を発見したぞ」
「おお。凄い目をしてこっちを睨んでいますよ。どうするつもりですか?」
「さあな。行くか。見つけたというのならさっさと次の場所へと向うことにしよう…」
俺が先陣をきる形で前を歩いて行き先ほど見つけたドアを開けて次の場所へと足を踏み出すのだが、次の階層へと辿り着いたのだが俺はその場所に俺は身に覚えがありそうでなかった。
というかここまだ海洋同盟の本島なんじゃ無かろうかと思ってこのフロアに辿り着いたギルフォードが足を止めた。
やはりここは海洋同盟の本島のようだ。
「ここは?」
「海洋同盟軍の軍学校だ。ここで俺はボウガンと出会った」
「? 待ってくれ! ボウガンは雇われたって話じゃ無かったか? 俺はそう聞いたぞ」
そういう話だったはずだ。
ボウガンは海洋同盟に反発する反政府組織の武闘派が雇ったフリーの傭兵という話しで、こんな軍学校に通うような人間じゃ無いだろう。
そもそも何故ボウガンはこんな軍学校に居たのかが不思議だが。
「別に通っていたわけじゃ無い。ボウガンは大陸や海を渡り歩くフリーの傭兵、この国は国交を断絶しているくせに国内に入り込む人間に国に尽くさせることである程度は免除させていた節がある。その一人にボウガンがいたと言うだけだ」
「? あの不死者が何を貴方に教えたと?」
「教えて貰った訳じゃ無い。言っておくが俺はこの軍学校でボウガンを見たのはほんの数日間だけだ。そこでボウガンが何をしていたのか俺にはまるで分からなかった。あいつはある日勝手に消えたと聞いている。そして、俺は再びボウガンと出会ったとき彼を雇ったんだ。今思えばあの時この場所に居たのは俺に出会う為だったのかもしれないな」
軍学校に居た理由か。
コンクリートで作られた無骨な建物、頑丈ではあるが正直に言ってあまり生活をしていまうという感じはまるでしないし、何よりも俺はこういう雰囲気は少しだけ苦手だ。
正直ガイノス帝国立士官学校は綺麗な建物で作られているので余計にそう思うのかもしれない。
よく考えると警察学校とかでもここまで無骨な建物では無い気がするが、何を持ってこんなに無骨な建物にしているのだろう。
頑丈さかな?
「生活感が無い場所ですね。アメリカのエージェント育成施設でもここより圧倒的にマシですよ。何というか最低限の衣食住を確保しているだけって感じですね」
「どれぐらいの人がここに通っていたんでしょうか? と言うよりもここはギルフォードさんが通っていた時にも使われていたのですか?」
「ああ。海洋同盟軍の軍学校は二カ所あるんだ。内容はほぼ同じなんだが、支払う金の量で通える学校が違うという特徴がある。ここはほぼ無料で入れる学校だ。だから勉強したり訓練を受けたりする上ではさほど違うが、環境は劣悪だ。本島に暮らしていないような人間や貧乏な人間はこういう所に暮らしている」
「格差ね…そういうのはどうかと思うけどな。全面的な支援をした方が賢明な気がするけど…レクターなんかはこっちに暮らしそうだな」
「間違いないね! ソラや海は豪華な方に通いそうだもんね!!」
「拗ねてるのか、気にしていないのかどっちかにしなさい。て言うか貴方は何を思ってキレているんですか? 貴方が貧乏なのは心でしょう?」
ケビンのレクターへの口撃力が高いこと高いこと、レクターが少しだけ項垂れながら少しずつ回復をしていくのを俺は黙っていることにした。
父さんは周囲を確認しているのだが、まるでそんな目が品定めをして居るように見える。
「だが、軍学校という点ではさほど以上だとは思えないな。結局で人と戦う事を学ぶ場所だしな…暮らす場所と学ぶ場所を一緒にして最低限の資金で運営するにはこの程度になるだろう。まあ、どうせ軍に入れば嫌でも金を軍学校に入れろと言われそうだが」
「言われましたね。この軍学校は一部生徒の不満でもありましたから」
ギルフォードはそんな事を言いながら適当な部屋のドアを開けると、そこはベットが適当に備え付けられているだけの簡易的な部屋だった。
ベットが右端に寄せられ人が一人分だけ通れるだけのスペースと勉強用の机と椅子が備え付けられているだけ。
正直酷いという一言だ。
電球も最低限の明かりが付いているだけだし、なんでこんな感じで勉強させようと思うのだろう。
て言うかこれでは独房だと思う。
そう思ったのはケビンも同じだったようだ。
「これ独房じゃ無いのですか? て言うかこれでは独房ですよ」
「独房じゃ無い。なんであいつが俺の部屋を知っているのかは知らないが…」
その部屋はかつてギルフォードが使っていた部屋を再現しており、机の上にはギルフォードの親と幼いレインちゃんが写っていた。
部屋の詳細を知っていると言うことはボウガンはギルフォードが不在の最中にこの部屋に入ってきたと言う事だろう。
「この段階から既にボウガンの作戦というか不死の軍団の作戦は始っていたと言うことだろうな。狙われていたと言う事だ。恐らくだが品定めの様な意味合いがあるのだろう」
「どんな意味での品定めなのでしょうね。不死の軍団の作戦の為なのか、自分の罪の贖罪としてのなのか」
「そうですね。私には後者だと思いますけど…」
罪から逃げたいという気持ちがここに足を運ばせ、同時に土地として使えるのか、使えるのなら作戦はどうするのかと考えた時期の場所なのだろう。
そんな時に見つけたダルサロッサと契約を結んだ不死殺しの能力を持っている人間と強力な異能を所有している希有な人間。
ギルフォードを巻き込むというのはもう既に決っていた。
「不死者を…吸血鬼を殺すためには竜が持つ不死殺しの能力と強力な異能が必要だからな。もしかしたらボウガンは世界中でソラ以外にそういう人間を探していたんだろうな。ソラはジェイドの相手をしなくてはいけないしな」
「どのみち俺はボウガンを殺さないけどな。俺は人に戻りたいと願う人間を殺す事なんで出来ないよ。悪の素振りを見せて人を困らせようとする人間でしか無いと思うし…」
人に戻ろうと願う者は誰が何をどう言っても俺は人だと思う。
「迷いだろ。これはボウガンの迷いだ。ボウガンは此所での日々をそれなりに楽しんでいたと言うことだ。ギルフォードはどうなんだろうな…」
「さてな…ボウガンが俺のことをどう思うと勝手だが、俺はそれでもどんな結末になったとしても俺はボウガンを許すことは絶対に無い」
それがギルフォードの覚悟なのだろう。




