天を目指して 10
司書女はレクターのオーバーキルな攻撃を前にただの肉片に変わり果て、そんな亡骸を前に俺達はドン引きし、レクターは満足げな顔をしながらボロボロになってしまった図書室に全く目を向けてくれない。
て言うかただ戦うだけならここまで暴れる必要が無いような気がするのだが、どれだけ不満だったんだあいつ、図書室から出してもらえなかったと言うだけで暴れ回るのはどうだと思う。
何というか先ほどのコック男のダメージよりマシな気がしたのだが、レクターの激怒のラインがイマイチ良く分からないのだが、父さんなら分かるのだろうかと思って見て見ると父さんは父さんで全く理解して居なかった。
顔を見れば分かる。
素っ頓狂な顔をして首を傾げる父さんから視線を司書女の亡骸へと向け、俺は改めて手を合わせてから廊下へと出て行く。
案の定騎士が徘徊しており、俺達は真っ正面からやってくる騎士を倒しては部屋中を散策していくと、古城フロア二階には大きな部屋が二つほど配置されており、俺達は東西に別れている部屋の内西側の部屋へと向って移動していった。
西側の部屋木製の両開きのドアを挟むように立ち、俺とギルフォードが代表してドアを開いていくとそこは書斎のような部屋になっており、一番奥には豪華な机で何か書き物をしているような同じように巨体な髭面親父と言っても良い男がそっと俺達を見る。
興味があるのか分からない間が俺達の間に広がり、男はそっと立ち上がると同時に俺とギルフォードが跳躍して接近していく。
お互いに男目掛けて水平に斬り掛かるのだが、男はそれを万年筆で空中で文字のようなものを書くと同時に防いで見せる。
文字を書いているのはぱっと見だけでも良く分かるのだが、問題は何を書いているのか俺にはイマイチ分からなかった。
盾とでも書いているのかもしれないが、どのみちまだ敵の攻撃手段が見えてこないので俺とギルフォードは左右にジャンプして距離を開ける。
ケビンとアンヌが出て行くか悩んでおり、父さんは更にその後ろで腕をくんで欠伸を出しているだけ、レクターが特に悩むこと無くダッシュしてきた。
すると男は自分の机に文字のようなモノを書き込んでいく。
そうしていると木製の豪華な机がライオンのような形へと変貌していき、レクターへと襲い掛っていくのだが、レクターはそれを回し蹴りで一蹴する。
男はそんなレクターの攻撃力を見て今度は地面に書き出し始め、俺とギルフォードはあの筆が武器だとハッキリと理解して妨害するためにお互いに斬撃を飛ばす。
俺の風の斬撃と炎の斬撃が衝突する瞬間男は筆を更にもう一つ取り出して、炎と風に何かを書き込んだ。
刹那の時間の中で書き込んだ文字、早すぎて俺達は誰も見えてこなかった。
すると風と炎は一瞬のうちに消えていき、レクター目掛けて床から尖った物体が襲いかかってくるのだが、レクターはそれをバク転しながら避けて、すれ違い様に殴ったり蹴ったり攻撃していく。
そして男目掛けて殴りつけようとする瞬間、男はレクターの拳に何かを書き込もうとしてレクターはダッシュで拳を引っ込める。
「そういう時の反応は早いんですね…」
ケビンから呆れ声が聞こえてきたが、ケビンとアンヌが入ろうとしないのは男の攻撃速度が速すぎて遠距離を仕掛けても意味が無いからだ。
て言うか父さん、少しくらい真面目に戦って下さい。
俺は異能殺しの剣へと武装を切り替えてから地面を跳躍して接近を試みると、男は二本のペンを使って周囲の空間に何かを書き込んでくる。
すると俺達の周りに光が突然現れそれが強い光を放つと同時に大きな爆発が起きていく。
俺はそんな爆発を俺は異能殺しの剣を振り回して解除していき、それを見たギルフォードも黒い炎を剣に纏わせてからダッシュで近付いていき、レクターは爆発をジグザグの動きで回避していく。
男は更に角速度を上昇させていくのだが、こいつまだ速度が上げられるのか?
俺達の床が外へと向って動き出し、俺は飛永舞脚で移動速度を上げて接近しようとし、ギルフォードは空中に跳躍して天井に張り付いてから走って行く。
レクターは動く地面を殴って妨害していくのだが、男はそんな俺達の動きを見て更に速度を上げていく。
「ちょっと! まだ書く速度が上がるの!? 嘘でしょ? こいつ何なの?」
「やっている事はシンプルであるだけに厄介だな。今度は天井や壁までが動き出したぞ」
「それだけなら良いぞ。部屋が立体的に変化していく、壁が出来たり、凹んだりとあいつに真っ正面から立ち向かえない」
「攻撃パターンを変えてくるかもしれないぞ!」
俺の指摘通り空気が爆発するというのはその通りだが、今度は地面から雷が昇っていき、横からはレーザーのような攻撃が連続で襲い掛ってくる。
上から下から左右から忙しい攻撃手段だ。
俺は爆発を異能殺しの剣で切ることで解除し、左右から襲い掛ってくるレーザー攻撃を空中で避けることで回避し、前転しつつ下から襲い掛ってくる雷を左に向って跳躍して避ける。
このままだと動き続ける床の所為で外に弾かれかねないのだが、かと言って回避と解除を放置すると致命傷になる可能性が高い。
すると大きな爆発音というか崩壊する男が聞こえてきて、俺は咄嗟にレクターを思い浮かべるのだが、レクターはそこから更に地面を殴りつけて部屋中にヒビを入れていく。
俺は崩壊する壁を越えて男目掛けて接近していき、剣を後ろに振り絞って力一杯接近する。
「無撃! 一ノ型! 無我!!」
男は自分の後ろの方に向かって高速で何かを書き始め、男の体が突然後ろへと向かって吹っ飛んでいき回避していくのを俺は見て笑った。
そして、そこから俺は無撃を四の型へと切り替えていく。
「無撃! 四ノ型! 剥離からの三ノ型!! 永延舞!!」
無限のように連続して繰り出される斬撃攻撃を前に敵はそれから更に逃げようとさらに後方に向かて飛んでくのだが、その瞬間男の鳩尾に二本の剣が突き刺さる。
剣から放たれる真っ黒な炎が男の体を発火させていく。
「獄炎……無情非情」
最後の一滴まで燃え尽きてから部屋が元通りになると同時に俺は息を吐きだしてから動きを止める。
改めてブライトの方を見て「大丈夫か?」と尋ねるとブライトは元気よく「うん!」と答えてくれた。
「でも強かったね。さっきの女性より普通に強かったような気がするよ。ていうか、そんな風に燃やしてしまったら何か持っていたら困るんじゃない?」
「安心しろ。ギルフォードが燃やしている間に私が取り出しておいた。こいつはペンダントを持っていたぞ」
ダルサロッサが俺の右手の平にそのペンダントを渡してくれた。
石だろうか?
少なくとも金属には見えなかったのだが、石にしては少々軽すぎる気がするのだがと思った。
形もかなりいびつで一見すると長方形になっているように見えるが、左側がジグザグな形になっているように見える。
「対になっているのかね? となるともう一つの部屋にこれと同じか似たようなペンダントがあるのかもな…多分だけど」
「だといいよな。行ってみればいいさ。まさか同じ奴が待っているとは思わないし」
「だったら困るよね。結構うざかったし。何というか…めんどかった」
「「完全同意」」
と言いながら俺達は部屋から出ていき、ケビン達と一緒に反対側の部屋へと向かって移動していき、ドアを開くと全く同じ人がいた。
その瞬間絶望感が俺とレクターとギルフォードの全員を襲い掛かった。
またあんなめんどくさい戦闘を繰り返せとという思いで俺たちは父さんを見て「何とかしてくれ」と訴えかけた。




