天を目指して 7
空中庭園の中にある広い空間で行われている戦いは俺達が敵を駆逐するという形で終わった。
正直に言えば語るような戦いすら存在しなかったと言うのが真実であり、俺達は駆逐された敵の亡骸の前で一旦立ち止まって俺は遺体を一つ一つ土の中へと埋めていく。
アンヌやケビンやレクターも手伝ってくれて、俺達は即席で作った墓にアンヌが取ってきてくれた花を幾つか添えて俺達は黙祷する。
草木が焦げているし、木は根元から折れているしで少々酷い状態ではあるが、それでも死んだ彼等も少しは眠れるだろう。
ジェイドに生き死にを奪われている彼等の中にも『早く死にたい』と願って戦っている者達は居るのだろう。
「次の場所を目指そう。早くアクトファイブからこの街を開放しないとな…」
「しかし、こうしてみるとアクトファイブにも色々と事情があるのですね。単純に支配をして居ることに幸福さを感じて居る人達もいれば、彼等のように信念を貫きたいと願っている人達も…これが救いになるのでしょうか?」
ブライトも目の前で手を合わせて願っている辺りちゃんと意味を理解しているのだろうとは分かる。
俺達は改めてドアを開けて次の場所へと向って移動していく。
光を超えて先に進むと、今度は古城という風体の場所であり、ボロボロの真っ赤なカーペットが敷かれており、埃被ったシャンデリアは崩壊してる本棚など様々。
やはりフロア事にテーマが決っているのかもしれない。
しかし、こういう古城を見て居ると何というかホントあらゆる異世界を回って生きてきたのだと思わされる。
「こういう場所に行ったことがあるのでしょうか? ここにある本も一通り見て居たと考えても良いと?」
「さあな。俺がそんな事を知っていると思うか? だが、あいつ以外と色々な言葉を知っているんだな。今思えば潜入というのはボウガンの得意分野なのだろうな。他者を知る。そして他者を滅ぼす」
「だとすれば精神面が歪みそうな人生だ。俺には出来そうに無い」
やはり不死者とはあまり羨ましとは思えない。
死ねないと言うことは無数の死を目の前にしなくては行けないし、何よりもそんな事を何度も何度も繰り返すというのは俺なら耐えられない。
ボウガンは無数の人と出会い、無数の人と死別を繰り返して何度も願って生きてきた人間なんて俺には無理だ。
俺はふととある本を手にした。
何か意味があるわけじゃ無いんだ。
ただ、気になっただけで、俺は手にして本を適当に開くと何かで書かれている文字は日本語というよりはひらがなで書かれている。
『にんげんにもどりたい』
ボウガンなのだろうか?
アンヌもそっと俺の隣からその本を見ると、口元に手を添えてショックを隠しきれないでいると、その姿を見てケビンも興味を持ってその本を覗き込む。
「どんな気持ちでこれを書いたのでしょうか? この本…日記のように見えますね」
「日記だな。よく見るとひらがなで書かれている。これはこの古城の元になった王国が滅びる過程が描かれているようだ。そして、この日記を書いたのはこの城の王の娘のようだな」
「書いてある事を見ると、この時代のボウガンは『ガイ』と名乗っていたようだな。そして、恋仲と言う事か…」
救えなかったのだろう。
予めそういう予定でも合ったのだろうが、それでもこの日記を書いた人物は最後の瞬間までボウガンを愛していたようだ。
ボウガンはどんな気持ちでこの日記を読んだのだろうか。
「人間に戻りたい…か。不死者であるという事は大切な人との別れを意味しているからな。ボウガンは中身が何処まで行っても人間だからこういう時に耐えられないんだろうな」
「………どうなんだろうな。俺には良く分からない。俺達と一緒に過していたボウガンが何処まで本心で過していたのかなんて…」
「行きましょう。ここに長居することに意味があるとは思えません」
父さんとレクターはスタスタと前に進んでいるところを見ると、この人達はボウガンの事なんてどうでも良いと思って居るようだ。
目の前からガシャガシャと鎧が動く音が聞こえてきてダッシュで物陰に隠れる。
曲がり角の向こう側では西洋風の鎧が勝手に歩いて徘徊しており、部屋の中へと入って行くのが見えた。
「また騎士か…もう勘弁して欲しいな」
「流石にあのレベルな騎士がいるとは思えないです。ていうか嫌です…あのレベルの強さの騎士がその辺を徘徊して居たら。て言うかこの建物いい加減壊れるでしょ?」
「ですね。この古城のデザイン上強い騎士が徘徊して居るとしたら上の階では無いでしょうか? この古城デザインのフロアも三階ほど繋がっているようです」
「このフロアの最上階になんかでかい奴が二体ほどいるからそこに行けば良いようだな。ていうか…各フロアにめんどくさい奴を配置しないで欲しいけど」
俺達が愚痴りながら物陰から見て居ると、レクターが部屋から出てきた騎士を後ろから襲い掛って崩壊させた。
胴体をど真ん中から殴りつけてそのまま粉砕してしまうのだが、再生されないところをしっかりと確認して俺達は歩いて近付いていく。
左は大きめに作られている食堂で反対側はキッチンなのだが三メートルを超えるコック服を着ている恰幅の良い男が料理をしており、音を聞いて俺達の方を見る。
まあ図体をみて普通の人間じゃ無いとは思っていたが、顔は血まみれな状態で片眼が出てきており、出刃包丁を握りしめている所を見るとホラー映画じみている。
コック男と名付けた人物は雄叫びを上げながら俺達に向って突っ込んできて出刃包丁を振り下ろす。
俺達はダッシュでその場から離脱し、俺とギルフォードとレクターは急停止してからダッシュで斬り掛かってく。
俺とギルフォードは横に切りかかり、レクターは右ストレートを叩き込もうとするが、その攻撃をコック男はジャンプで回避した。
この図体で避けることが出来ると?
ケビンは空中にいるコック男目掛けてレーザービームを照射するのだが、コック男はレーザービームを出刃包丁で叩き落とす。
「叩き落とす!? 普通じゃねぇ!」
レクターの感想に俺はずっこけそうになりながらダッシュで壁を登っていって、コック男を背中から斬り掛かるのだが、コック男は背中に出刃包丁を向けて攻撃を受け止める。
そして、その状態から俺を蹴っ飛ばす。
壁を崩壊させて俺はキッチンへとツッコんでいき、ギルフォードは黒い炎を作り出して斬撃を作り出すのだが、コック男は天井に吊されているシャンデリアを使って余裕で避けてから食堂にあるボロい木の長テーブルの上に着地して崩壊させた。
するとアンヌは食堂内の空気を冷やしていくと、コック男は自分の体が凍り付けて行くのだが、コック男は天井にあるシャンデリアを叩き落としてテーブルを燃やす。
炎の中で佇むコック男は体を炎で包み、アンヌ目掛けてダッシュでかけだしていく。
レクターは脳天からかかと落としを決めるが、コック男はその攻撃を右側に移動することで避けて、レクターを蹴っ飛ばす。
ケビン目掛けて出刃包丁を投げ飛ばし、ケビンはその攻撃を左に移動して除けてからコック男は戻ってきた出刃包丁を回収してギルフォードの攻撃にジャンプで避けてアンヌへと斬り掛かる。
アンヌは氷の盾を作って受け止めるのだが、コック男は氷の盾を出刃包丁で崩壊させようとしており、アンヌの表情は驚きを隠せないで居た。
何度も何度も出刃包丁を叩き付けてあと一歩という所でキッチンで爆発のような音と共に俺は最大最速で走る。
「竜撃! 雷の型! 到達点!! 雷瞬殺!!!」
無撃習得時に獲得した力の使い方と、重撃の飛永舞脚を活用した竜劇の最速攻撃はコック男の首元に届き俺はそこからコック男の体をアッサリ崩壊させた。




