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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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前夜祭 5

 夜空へと変わってもなお宴は続いていた。

 今もなお俺は宴に参加するのではなく、宴を上から見下ろすだけ。


「ソラ君は参加しないの?」


 声のした方向に体ごと向けると甲板デッキと内部への出入り口にジュリが優しい微笑みと共に立っていた。


「参加しない。もう少ししたら早めに就寝して明日の作戦に備えようと思っているところ」

「そっか。隣良い?」


 俺は「どうぞ」とジェスチャーで伝え、彼女が俺の隣に手すりに体重をかけるように立つ。

 長い茶髪が風に揺れ、真っ白な肌が髪の隙間から覗かせる。


「本当に明日の作戦に参加するつもりなのか?ヴァルーチャを連れていくといっても危険だぞ」

「大丈夫。新しい作戦もあるし、何とかして見せる」


 心配なのは心配なのだが、言ったら聞かないので諦める事にした。

 こういう時のジュリは絶対に引かないというのはこの三年間の付き合いで分かり切っていることだ。

 レクターやケビンさん辺りは大丈夫だろうという気持ちもあるし、奈美とイリーナに関しても少々心配なのだがヒーリングベルがいるとして無理矢理納得させていく。


「ソラ君は私の事になると心配性になるよね?」

「いやな。お前以外にも色んなことが心配なんだよ?でも口に出したらきりが無いから黙っているだけ」

「フフ。そう言う所だけは変わらないよね?三年前私達と出会った時は自分の事で精一杯だったけど、それでも色んな事を心配していたよね?」


 三十九人の事、帝都の人の事だってそうだった。

 自分の事で精一杯だったくせに色んな人達の事が心配で動き回ってしまう。


「そうだっけ?よく覚えていませんね」


 俺は精一杯の強がりを見せるがジュリは俺のそんな姿にツッコむわけでもなく、ただクスクスと笑うだけ。


「今回の一件だってそう。誰も見ないふりをするのにソラ君は結局全力で取り組もうとする」

「だって、知ってしまったら見て見ぬふりは出来ないだろう?知った以上は俺にできる事を探そうとは思うさ」


 知ったら知った以上の責任はとるし。

 その為にも精一杯戦う。


「ソラ君の良い所」


 俺の顔を覗き込むジュリの微笑み、そんな微笑みはまるで天使の微笑みにも見えてしまう。

 だから俺は無意識に顔を別の方向に向ける。


「さてな。俺の良い所なんて俺自身にすら分からないよ。自分が思っている以上に自分の事がよく分からないんだよ」

「う~ん。ソラ君の場合は後悔はしているけど、自分の事は把握しないよね?」

「冷静に分析しないでくれよ………」

「アベルさんも意外と同じだったりして?」


 どうなんだろう。

 帝都クーデター事件以降、いろんな人たちに似ているといわれ続けてきた俺と父さん。

 勿論、あの事件をきっかけに俺達が本当の親子だと証明されたわけだし、そういう気持ちで接したところもある。


「もしかしたら、中学時代にあの人と一緒に生活したからこそ影響を受けたのかもかもな………」

「思春期の真っただ中だもんね。一番周囲から影響をよく受ける年頃なのかな?でも成長期に一番影響を受ける者じゃないのかな?」

「俺の場合は父親を知らなかったからな。母さんからの言葉をそのまま聞くだけだったけど………肝心の母さんが話したがらないからな」


 母さんは当時本当のお父さんを失ってショックを受けていたし、今の父さんに出会ったからもちょくちょく辛そうな表情をすることはある。

 それは父さんだって同じなのだろう。


「小学校の頃に知らなかったし、当時は剣道何かに打ち込んでいたけど……それだって本心がどうだったかなんて俺自身は良くは分からない」

「切っ掛けはテレビで西洋の剣術を見たのがきっかけ何だっけ?」

「そうそう。でも、実際は本当の父さんが剣道を習っていたからも理由にあったと思う」


 本当の父さんが剣道をしてから習ってみたかったというのも本心にはあったと思う。


「実際。本当のお父さんもほとんど独学で習っていたらしいし、当時の師範代にも何度も怒られていたらしいから多分俺と同じやり方を取っていたんだろうな」

「フフ。そう言う所もアベルさんに似たんだね」


 嬉しくない。

 あの人はあの人で少々だらしない部分が多い。

 その点は奈美に引き継がれているのだから物事はうまく収まっていると思う。


「だからこそソラ君はこの世界に来れたわけだし」

「そういう話だったな。あのバス事故が起きなくても俺は自力でこの世界に来れていたと………でも、その場合どんな物語になっていたのか分からないけどな」

「たぶんだけど。ソラ君の異能『竜の旅団』はあらゆる魔導や呪術を打ち消すことが出来るから、ゲートの法則上アベルさんの所に移動したんだと思うよ」


 それはそれで未来があまり変わらないかもしれない。

 いや、その場合は堆虎とジュリが争った可能性だってあったし、もしかしたら三十九人が亡くなることだって無かったはずだ。


「いつだって思うよ。その方が良かったんじゃないかって?」

「私はそう思わないけど。こうしてちゃんと出会えたことも私自身嬉しい事だし、それにあの事件があるからソラ君のご両親が出会たんだと私思うよ」

「言い分は分かるさ」

「それにこれも言われ続けてきたでしょ?ありえなかった未来を語る事は無駄だって。後悔しないでしょ?過ぎたことを後悔していても始まらないよ」


 エアロードから言われたことだ。


『過ぎたことを後悔して無駄だ。ありえなかった未来を語る事は無駄だ。無意味に時間を過ごす行為に過ぎない。後悔するのは自らの行いだけで十分』


「そうだな。ありえなかった未来を語る事は無駄。過去は戻ってこない」

「そうだよ。どれだけ後悔しても死んだ人は帰ってこないし、後悔したからと言って過去が分かるわけじゃない。それに……過去を変えるという事は今や未来で幸せに生きるかもしれない人を不幸にすることだよ」


 確かに。

 俺達の未来だってどうなっていくのかは分からないわけだし、一回一回の出来事を後悔していたらきりがない。

 過去は振り返り反省するもの。

 未来は見えないもの。

 今は生きていく時間だ。


「無責任になって欲しいとは思わないけど、こういう時ぐらいは私達に頼って欲しいの。ソラ君が全て背負う必要もないわけだし。ね?」


 ジュリの笑顔が再び俺の心に突き刺さる。


「分かった。明日は皆に任せるよ。その代り、そこから先は俺が決着をつける。烈火の英雄とも、魔王とも俺が決着をつける」


 俺と三十九人で立ち向かう。


「それに救いたい人がいるんだ。多分だけどあの島にいると思う。今までと変わらないんだ。だから……助けてくれ」

「うん!」



 翌朝。

 太陽が水平線から真上を目指して昇っていく中、各島では反政府組織『本流』と竜達の旅団が作戦実行の時を待っていた。


 父さんも、レクターも、ケビンさんも、ジュリも、奈美とイリーナも各寺院の出入り口前で俺の作戦実行段階を待っていいる。

 第一島の周りを半透明の白い結界が塞いでおり、ガイノス軍を中心に日本とアメリカの軍勢も海域内に侵入しつつある。

 そんな中俺の乗るウルベクト家専用戦艦『ウルベール』が光学迷彩を解除し大空に飛翔した。


 静かに、素早く第一島の近くまで近づいてくと、事態を飲み込めない一部の軍隊は第一島を防衛する為に軍勢を率いていた。


「我々は『竜達の旅団』!二代目団長ソラ・ウルベクト。この国が国民を欺き、英雄譚の上に塗り固められた多くの嘘。この国を変えたいという願いと共に我々は立ち向かう!」


 甲板デッキからエアロードとシャドウバイヤとシャインフレアが体を大きく変えていき、翼を羽ばたかせている。


「国民を脅し、自分達の都合のいいようにしか解釈できない国を変えるため我々は立ち上がる!我々竜達の旅団は反政府組織『本流』と共に海洋同盟を変える為に立ち上がる!!」


 俺の宣戦布告を持って各地での作戦が開始された。


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