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雨の摩天楼 5

 ジュリ達が造った夕食がテーブルに並ぶまでの間俺はスマフォから入手した情報をずっと眺めていた。

 正直に言えばあそこまで大暴れしていたのだが、イマイチお腹が空いていないのだ。

 どうしてなのだろうかと不思議に思い考え事をしている所為か全く情報が頭に入ってこない。

 すると師匠が近付いてきて「どうした?」と声をかけてくれるのだが、俺は「いや…何でも無い」とだけしか声が出なかった。

 ブライトとアカシは持ってきていたトランプで父さんから教わっているババ抜きをして遊んでいるのだが、肝心の父さんは連敗を喫している。

 ブライトとアカシが強いからじゃ無い、単純に父さんがポーカーフェイスが苦手というだけの話で、それを見てふと微笑んでみるのだがそれでもイマイチ気が入らない。


「お前らしくない。どうした? さっきから…」

「お腹が空かないなって思って…どうしたんだろ? 朝もそこまで食べているわけじゃ無いし…」

「ハイに入っているんだろ。未だに高ぶっている気持ちを抑えきれないでいるんだな。ここ数日ずっと戦っていたし。今思えばイギリスでの休暇中もお前はどこか気持ちが高ぶっていたな」

「ジェイドの事を少し考えていたからもしれない。師匠はジェイドがロシアにいると思う?」

「推測だけで良いのなら…多分居ないと思うぞ。居るのなら不死の軍団のメメントモリとか言う奴があの工場に居たはずだ。恐らく此所はアクトファイブだけを配置してから中国方面にいるのだとおもう」

「どうして? 根拠は?」

「…無間城を召喚するにも何か準備が居るのだろう。だが召喚するだけならロシアを使えば良いだけで中国を巻き込む理由が無い。と言う事は召喚をするにも準備が居るんだろうな。だからこそ中国を巻き込んだのだと考えれば不死の軍団が此所に居ない理由も分かる」


 彼らは今頃中国で無間城を召喚するために準備に入っているのだろうが、どのみち俺達が向こう側に行くにはロシアを超えて行くしか無いんだ。

 俺達はどのみちアクトファイブと戦う必要があるが、こうなるとアクトファイブがロシアに居る理由も何となく分かる。

 あいつらは此所で俺達の相手をする役目を押しつけられているんだろう。


「金で動いている傭兵集団だろうな。アクトファイブを説得できると思わないことだ。傭兵集団と私は何度も戦った事があるが、金と硝煙と血にまみれて生きている奴らだ。根っからの傭兵に説得なんて通用しない。あれはそういう生き物だ」

「経験談?」

「経験談だな。アベルもよく知っているさ。だな?」

「? ああ…傭兵な…嫌な奴らだ。金で雇われて仕事分の金の分はしっかり働くのだが、それ以上の働きもしない。ガイノス帝国が戦争時に傭兵を中々雇わないのは信頼出来ないからだからな。今回の大戦も雇っていないはずだ」

「その辺の周辺国なら雇っているんじゃ無い?」

「並みの傭兵ではこの戦場を生き抜くことは出来ないからな、多分戦場に居る傭兵の数は少ないだろ。ジェイドが雇うとも思えないから居るとしたらアクトファイブぐらいだな…雇うのは」

「傭兵が傭兵を雇うのか? なんか…こう…矛盾が凄い」


 因みに今の会話の間にまた一敗している父さん、この人本当にトランプ弱いな…と思ってしまった。

 するとブライトとアカシが「ソラとガーランドさんもしようと!」と誘ってきた。


「ほら行くぞソラ。考えが及ばないのなら考えるだけ無駄だ」


 そう言われて俺は強制的にトランプに参加する羽目になってしまったのだが、父さんの目が輝いて行くのがイマイチ理解出来なかった。

 まあ俺が入れば勝てるかもしれないと思っている辺りに苛立ちを感じる。

 いざ開始してブライトがトランプを配って俺は手元にあるカードから同じ数字のトランプを排除していく。

 そして、改めて開始するのだが俺は父さんの手札を見た瞬間唖然とした。

 滅茶苦茶目が泳いでいるし、ジョーカーを持てば滅茶苦茶喜ぶし外れれば滅茶苦茶落ち込むしでせわしない。

 俺も別に得意というわけでは無いが、流石にここまで酷くない。


 結果…父さんの惨敗である。


「何故だ…」

「ポーカーフェイスをしないからだ。お前物凄い表情に出て居るぞ…ソラの方が全然表情に出さないぐらいだ」

「僕も危なかった! 僕も顔に出てた?」

「いや…ブライトは目で追うから分かりやすかった。アカシは思いっきりポーカーフェイスをしていたな。目も動かないし…完璧だと思う」

「うん。あれは凄かったな。全く表情が変わらないから見事」


 アカシは滅茶苦茶喜んではしゃぎ回っているのだが、その対面では父さんが物凄い落ち込んでいるのが少し面白かった。

 この調子なら連勝できそうだと思っていると父さんは最後の足掻きのように「レクターも誘う」と告げてきた。


「レクターが多分一番強いと思うぞ。あいつ同じ部屋で寝ると大体トランプとかで遊んでくるけど、あいつのポーカーフェイスはアカシ並みだから。その代わり駆け引きを絶対にしないから時折負けるけどさ…」

「だとさ…諦めた方が良いな。それとも海を巻き込むか?」

「海は強いのか?」


 この人強さの基準で呼ぼうとしている。

 何という浅ましい人物なのだろうかと俺達は皆呆れていると、師匠が考えているような素振りを見せるがこの人が知っているとは思えない。

 実際この人は物凄い唸って俺達に威嚇を見せているし。


「……幼い頃に一度だけやったことがあるけど…さほど強くは無いかな。まあ父さんよりは強いけど…弱いのは奈美だな。あれは父さん並みだし」

「判断基準に私を使うのは止めて貰おう! お前達が異常に強いだけだ!」

「私達が強いと言うな…お前が弱いだけだ!」

「キー!!」

「奇声を上げない。周囲に聞こえたら恥ずかしいから」


 父さんが言えばそれに対して反論を向けてくるのだから見事と言うしか無い切り返しの早さ。

 そうしていると暇を持て余した馬鹿野郎が部屋に突撃を噛ましてきやがった。


「呼ばれずに飛び出てくるのはレクター様だ!!」

「静かにしろって。それとも反省が足りないのか?」

「何してんの!? トランプ! 俺もする!」


 最強が介入した瞬間で、こいつとアカシを相手に真っ向から戦えるとは思えないのだが、父さんはまだやる気だった。

 正直この人が勝てる未来がまるで見えてこないまま再び戦いが始った。

 トランプを引いて捨ててを繰り返しているとき師匠がこそっと話しかけてきた。


「そう言えばジュリは強いのか? 頭を使うこういうゲームは得意そうな気がするのだが?」

「そうでも無いよ。ポーカーフェイスが苦手みたいだし、頭を使えばジュリはそれとなく顔には出るから知り合いと戦うと割と勝てる。まあ、そういうときは本気じゃ無い場合が強いけど。ジュリの場合サポートが得意であって自分で戦うのは苦手だし」

「そうか…まあ正確から考えてもそうだろうな…」

「本人は少しコンプレックスにしている部分みたいでさ。いつも俺達の戦いを後ろから眺めているだけなのが嫌みたいで」

「それは…向き不向きの話しだしな…私にはジュリが全面で戦える人間だとは思えない。彼女はバックアップが一番才能があると思うぞ」

「俺もそう思うよ…俺達にだけ戦わせていると思って仕方が無いんだろ。今度師匠から言って上げてくれない?」

「………分かった。言って見よう。ただ…あまり期待はしないでくれよ。言って聞くのなら誰も困らない」


 最後にブライトが「勝った!」と言いながら最後のトランプのカードをベットに叩き付けて喜んでおり、父さんは残ったジョーカーを睨み付けている。

 そして最後に俺達を睨み付ける。


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