雨の摩天楼 1
立体的な作りになっているこの場所、この天幕下は正直魔界と言うよりはゲームなどで例えるところでのダンジョンであり、竜結晶の影響で魔物が蔓延る場所なのだが、人生において目に見える経験値など手に入るわけが無い。
人工的に作り出された場所で、天然の竜結晶が配置された結果面倒なダンジョンが生まれたという偶然に俺達はめまいが起きそうな気分である。
とりあえずこの場所の電力をモノレールを動かすために回さないと行けないのだが、ここはどうやらネズミ型の巣になっているようで、立体的な作り故に上へと下へと移動しなくてはいけない作りになっているようだ。
「お前達。これは得意だろ。外から侵入したりとか」
「ジャック・アールグレイは私達をなんだと思って居るんですか? 猿じゃ無いんですよ?」
「嫌々…冗談抜きでお前達は得意だろ? 外から電力室へと向って真っ直ぐ移動して入れて戻ってくれば良いんじゃ無いか?」
「物凄く楽そうに言うけどさ…あの立体的な作りで鉄筋を組み合わせただけの場所をお猿さんみたいに移動して電力室まで行けって結構無理難題だぞ」
「でも出来るだろ? お前達に任せるから私はここに居よう。さあ…行ってらっしゃい」
ジャック・アールグレイは働く気が無いようで、ネズミ型の魔物が近付いてこないギリギリの距離で足を止めてしまうのだが、なんとか知識を総動員してこいつを働かせないかどうかと悩んでいると俺はレクターが居ない事に気がついた。
周りをキョロキョロと探していると隣に居たケビンが「どうしました?」と聞いてくるので俺は「レクター見て居ないか?」と聞いた。
すると同じように探し出し始めるケビンとジャック・アールグレイ、竜達も皆探し出すのだがすると電力室のある場所から喧騒な音が響き渡り始める。
「ま、まさか……あの馬鹿は…」
「まさかも何もあの中だろ。君の友人は本当に面白い奴だな。恐らくは私達の話が長いと判断して自分で突っ込んでいったんだろうが。まあ楽が出来て良いけどな」
「貴方はこんな時ですらも…ある意味ブレない人ですね。尊敬できますね」
「どうするの? 貴方達。彼一人だけで暴れ回っていますよ?」
シャインフレアの言葉に俺は額に手を添えながら悩むが、もう手を出さないようにここから見守っていることにした俺。
腕を組んでひたすら建物を外から見ていると、ネズミが一匹外へと吹っ飛んでいくのが見えた俺は空へと飛んで行ってそのままネズミを斬り殺す。
空中で立って飛んでくるネズミをひたすら切り落とそうとすると、俺には微かにだがレクターが笑顔で暴れ回っている姿が見えた。
頭でも打って気がおかしくなったのではと疑いたくなるほどの光景であり、同時にひたすらネズミを駆逐していく姿は恐怖である。
「レクターはストレスが溜まっていたの?」
「まあ…ここ数時間ほど責められていたからな。何も考える事無くひたすら暴れ回りたいんだろ。放置しておこう……入って行くと巻き込まれるだけだし」
「同意見だな。あの暴れようでは全部のネズミ型の魔物を駆逐するまで続けるつもりだな」
「しっかし…ゴーレムを自分の責任で吹っ飛ばしておいて良くもまあストレスをためられるもんだよな」
「というかあの人ストレス溜まるんだね」
ブライトが自然と毒を吐いた瞬間であり、俺は否定できないというか俺も少しだけ驚きだったりする。
普段からノンストレスみたいな生き方をしているような人間だし、学校でも好き勝手過しているような人間なので普通に驚きだ。
何を考えているのか良く分からない奴なので普段からは俺は理解から遠ざけているのだが、そう言えば俺以外の友人を知らないな。
小学校とか友達を遊んだりしていなかったのか?
「ねえ師匠。レクターの小学校時代を知らない?」
「知らんな。と言うかお前達のことは中学に上がるまで知らなかった。アベルなら知っているかもな。あれは以外とジュリを小学校時代から知っていたぐらいだし」
と言うかなんであの人はジュリの小学校時代から知っているんだ?
よく考えてみると俺とジュリが初めて出会った時も父さんがあそこまで連れて行ったんだったか?
なんであの人そこまで詳しく知っているんだ?
「あの人幼い好きじゃ無いよね?」
「違うと信じたいなあいつの友人の一人として…まあ、あいつが休日をどうやって過しているのか知らんが…意外と出かけている間に知り合っただけかもしれんしな…」
「凄い偶然だと思うのは俺だけ?」
「きっとジュリさんが可愛かったからだよ」
「ブライトの意見が正しかったら犯罪者の一歩手前な発想だな。俺は実の親でも通報するぞ。頼むから嘘であると証明する時間が欲しい」
「という下らない話をしている間にレクターが駆逐したみたいだぞ」
俺はそっと建物中へと入って行くとネズミ型の魔物の返り血で所々赤くなっている見た目がホラーじみているレクターを発見した。
周りはネズミ型の魔物で真っ赤になっているのだが、正直に言ってここまでする意味があるのかないのか分からなかったりする。
「やりきった! 見たか!?」
「見た見た。そして、すっかり本調子に戻ったな…お前は」
「戻った! 完全復活!!」
溜息が自然と俺の口の中から出てきて、俺は大きな溜息を吐き出してから電力室へと入ろうとドアノブへと手を伸ばす。
するとドアノブまでもが血で真っ赤になっており、正直触れたくないと思って緑星剣を呼びだしてドアの金具を破壊してドアを足で押し倒した。
部屋の中へと入っていき俺は電力室のスイッチを押してモノレールへと電力を回す。
「これであと一つか…最後の電力室は……お、以外とモノレールの近くだ」
「だったらどうしてそこを最初にしなかったわけ?」
「電力をモノレールに回すには順番に移動する必要があるんだよ。最後の場所はモノレールの直ぐ近くでモノレールから上に移動した先だな。ここから真っ直ぐ進んでいけばたどり着けるな」
俺は指を指した方向にあるコウモリ型の魔物が集まっている場所があるのであそこだと判断出来た。
まあ分かりやすい判断材料ではあるのだが、たどり着くためには細い道を進んでいくしか無い。
ケビン達と再合流し再び目的地へと向っていく。
「どうします? 空中戦を強いられる事になりますよ」
「邪魔をされたら敵わないから駆逐するしか無いな……まあ大した数じゃ無いし俺達で倒してしまおう」
「アッサリ言うね…」
俺とケビンが空中戦を引き受け、地上はジャック・アールグレイとレクターが分担してくれると言うことになった。
同時にシャドウバイヤとダークアルスターは地上を、シャインフレアが俺とケビンと共に空中戦を繰り広げると言うことで落ち着いた。
ジュリ達は天幕を見上げてみると上の階ではソラ達が激しい戦闘を繰り広げており、それをアクアとレインがキャッキャと楽しそうにして居るのだが、ジュリは常にハラハラした表情で見守っていた。
そうするとモノレールの近くにある装置が急に電力を取り戻すのだが、それが何故なのかジュリは分からない。
何せまだソラ達は戦っている真っ最中であり、とてもでは無いが電力室を動かせる余裕があるとは思えなかった。
「どうして?」
「ジュリ落ち着け。恐らくだがソラが「自分達が戦っている間に電力室を動かして欲しい」とブライトにでも頼んだんだろう」
ジュリは納得した様子で見上げると確かにブライトが羽ばたきながらなんとか下に降りてくる。
「ジュリー! 電力復旧した?」
「うん! 良く頑張ったね!」
「でしょ? 先に装置を動かして直ぐに出発出来るようにしておいて欲しいって。全部駆逐したら降りてくるって言っていたよ」
ジュリは急いで装置を動かし始めた。




