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機械は人の為に、人は機械の為に 9

 支柱の一番上まで辿り着き俺は少し息を吐き出すと、隣では父さんが奈美を無理矢理下ろそうとしているの見たアクアは「ここから歩く!」と言い出したので俺はそっと下ろし、それを見て居た奈美も渋々降り始める。

 と言うかそんな事で渋々で降りないで欲しいのだが、と言うかいい年をした女子中学生が父親におぶって貰って楽をしようと思わないで欲しい。

 恥ずかしいし…身内としてと思って居る間に背中にくっ付いている師匠が「お前の妹は恥ずかしいな」と呟いてきて、それを聞いていたブライトがハッキリと発言した。


「奈美は恥ずかしいの?」

「ブライト。声が大きい。少しボリュームを落としてくれ。奈美が顔を真っ赤にして俯いてしまったから」

「奈美おばちゃんは恥ずかしいの?」

「アクアも止めなさい。奈美が今にも死にそうな顔をしているから。後恥ずかしいと思うのなら少しぐらいは頑張れって。本当に疲れてから楽をしようとしろ」


 奈美にアドバイスを送り俺達は歩き出すと、ジュリはアクアの右手を掴んで竜結晶をジッと見つめる。

 大きなケースとそこから繋がる電力を送るケーブルの先を見つめ、考える素振りを見せるのだが、結論が出ない状況でジュリに聞いても何も教えてはくれない。

 だから俺は聞かないようにしてそのまま通路へと歩き出すのだが、そんな中奈美がそっと下を覗き込んで顔を青ざめていた。


「良くこんな場所を歩いて、しかも戦っていられるよね。怖くない?」

「慣れだよ慣れ。魔導機を使って戦っているとそのうち慣れる。帝都の空中で戦った事もあるしな」

「あった! あれってクーデター事件の時だっけ? 懐かしいな…高校に上がって直ぐだったんだよね」

「そうだな…初登校の時に誰かさんが俺に向って被害を押しつけてきたんだよな。お陰でその後、テラから何度か襲撃を受けたからさ…」


 俺からの指摘に対してレクターは口笛を吹いて誤魔化そうとし、全員から冷たい目で見られるのに耐えきれないからか走り出す。

 するとそんな風景をエアロードが爆笑していたのだが、あいつはあいつで俺はツッコみたい事がある。


「どこかの風竜は勝手に俺の家に住んで、その上つまみ食いを繰り返すし、それを黙って実行するしな…誰なんだろうな…」


 エアロードは冷や汗を掻きながらそのまま他の竜達からの視線に耐えきれずレクター同様に逃げ出していった。

 父さんが大爆笑をしているのだが、この人はこの人で俺はツッコみたい気持ちがある。


「父さんは幾ら言っても部屋の掃除をしないし、一週間は放置するとアッという間にゴミ屋敷に変えようとするしな…」


 父さんは黙って逃げていくのを全員が冷たい目で見つめ、俺の背中に居る師匠が「あの馬鹿は…」と呟く。

 流石に師匠は父さんの事をよく知っており、この人が基本掃除をしないことも分かりきっていた。


「そう言えばソラ君が初めてあの家に行った時、私も付き合ったけど四階建てのあの家の上から下まで全部がゴミだったもんね。帝城前の抜群の立地条件で、帝城前広場に徒歩一分の高級住宅と言っても良い場所なのに、一歩入ったらゴミ屋敷」

「ほんとにな。初めて入った時は失神しそうになったよ。掃除するのに三日はかかったからな。それもゴミの収集車さん達がゴミの量を見て引くし…」


 正直に言えば引かれる筋合いは俺には無いのだが、出すのは俺だからどうしようも無い。

 因みに俺とジュリがゴミを出す間、俺達が掃除をして居る間ずっと父さんはリビングで呆けていた。

 この人は昔っから掃除をするつもりがまるで存在しない。


「良くまともに育ちましたね。普通に不思議です。ソラはどういう風に過したのですか? この駄目親父さんと一緒に過して」


 ケビンの失礼な言葉に父さんは無駄に傷ついており、俺はそんな父さんに「傷つくのなら少しは直したら?」と告げておく。

 その後ケビンの発言をもう一度考えてみる。


「と言うかこの人の駄目な所を見て反面教師にしたからだな。それに、当時は俺にこの人以外に選択肢なんて無かったし。当時俺は師匠は怖かったし、サクトさんはこう…圧が」


 そう言うと何人かは何となく分かるようで小さく「ああ…なるほど」と呟く、サクトさんは初めて会ったときから優しそうな気配と同時に怖そうでかつ物凄い圧力を感じて居た。

 後に師匠に聞いてみたところ、サクトさんは幼い頃より「女だから」と舐められないようにしているらしく、特に士官学校で特務科に入ってからはその圧はより一層強くなったとのこと。

 軍に入ってからもやはり舐められる傾向が強く、戦う事が一種の仕事であり同時に肉体労働が激しい傾向が強い軍において最前線に立ちたいと願う女性はまあいない。

 その中でサクトさんは常に最前線に居続けた人であり、出世を続けて行くには圧を周囲にかけてでも頑張るしか無かったのだろう。


「あの人がまだマシに見えた…まあその後実の父親みたいな人だって分かったけど…何度か見捨てそうに…ウソウソ。だからその涙目でまるで訴えかけるような感じで黙らないで」

「何というかソラさんのお父様は個性的な方ですね。あまり軍の上層部って感じの雰囲気がしませんし…」

「照れるなって父さん。誰も褒めてないから。少しは威厳を持てって言われているんだよ。そうじゃない。睨み付けろって言われているんじゃ無い。ブライトが怯えただろ」

「ソラ…あの人怖い」

「少しはまともな思考を出来ないのですか? ソラのお父様は。貴方は軍の上層部じゃ?」

「上層部って言うか、あの人ガイノス帝国軍の元帥だからな。トップだよ現状」


 ジャック・アールグレイが「三日天下で終わりそうだな」とタバコを吸いながらボソッと呟き、ギルフォードはそんなジャック・アールグレイの言葉に黙って同意した。

 まあ失礼な言葉であるが、すごく残念な事に真実になりそうな気がするので俺は否定できない。

 路頭に迷わないことを願うだけだ。


「結構歩きましたけど、イマイチ先が見えませんね…」

「いや…モノレールみたいな乗り物が見えたぞ。と言うかモノレール?」


 どうしてあんな乗り物がここにあるんだと思って俺達は近付いていき、モノレールと思われる乗り物へと触れて見るのだが、ウンともスンとも言わない。

 そのモノレールが繋がる先に竜結晶が見えるところを見ると支柱がこの先にあるのだろう。

 ジュリが近くにある端末を操作し始め、湊はそっと支柱の先を見つめて考える素振りを見せる。

 支柱は山脈みたいに人が近付きにくい場所に造られており、この先も正直人が近付きにくい場所にばかり造られていた。


「人が近付きにくい場所には別に支柱から移動できるようにモノレールで移動出来るようにして居るのでは、魔物が多い場所ですし…」

「そうみたいですね。湊さんの言うとおりでこれはその為の乗り物の用です。最もセキュリティの関係上電力を三カ所から持ってくる必要があるけど」


 俺とレクターが同時に「三カ所?」と嫌そうな顔をし、ジャック・アールグレイは「面倒臭い」と呟き、ギルフォードはひたすら大きな溜息を吐き出してレインを近くに下ろす。

 するとケビンが代表してジュリに話しかけた。


「その電力は何処に? 遠いのですか?」

「いいえ。遠くはありませんが…どうやら魔物が密集している巣に造ってしまったようで…」

「というよりはそこが巣になってしまったんじゃ無いか? 電力が繋がっている場所なら恐らくは竜結晶の粒子が集まっている場所でもあるから。それにそれなりにスペースもあるだろうし」

「なるほど。巣を作るには丁度良い場所になったと?」

「ああ。だから使わなくなったんだろ。電力を切ったままになってしまったんだ」


 俺の推測には誰もツッコまなかった。


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