機械は人の為に、人は機械の為に 4
アンヌとジュリと合流しようと俺達は外周りから一旦一階まで降りてみようという話になり、ジュリはその間に五階を目指してみると言い出した。
実際の問題である戦力にならない機械の父を引き連れての作業はかなり時間が掛かりそうで、俺達はとにかく合流を急ごうと言うことに。
外周りから一階まで降りるのにこの戦力では特に困ることは無かったし、問題のジュリ達もアッサリ見つけることが出来たのは幸運だった。
やはり他の竜を引き連れていないと言う事は、今村の方に居ると言うことになる。
俺は機械となっている父さんを見ないようにし、とりあえず五階まで真っ直ぐ向おうというと提案した。
この状況を長続きさせるわけには行かない。
この街を開放して直ぐにでも俺達は次の手掛かりを得る必要があるし、何よりもここからモスクワは遠すぎる。
こんな所でモタモタして居るわけには行かないと思い、同時にこの物好きな父親をさっさと元に戻そうと俺達はジュリの導きでエレベーターへと目指す。
「ではやはりこの建物は皆機械なのですね。敵は普通に造った機械なのでしょうか?」
「エアロードの話では今のところ敵性のある機械は人間では無いらしい。元人間はやはり呼吸などに人間らしさが残るって話しだしな。で、肝心のエレベーターには乗れるのか?」
「大丈夫だよ。ここのセキュリティは確かに高いけど、エレベーターとかはハッキングでどうにかなるから。問題なのはエレベーターを動かした段階で敵にも分かるって事だけだけどね…」
「それなら問題に入らないだろう。どうせ俺達が此所にいる時点で敵にバレているだろうしな」
ギルフォードの言葉通りで先ほどから監視カメラと思われるカメラ、赤外線センサーなどが至る所に配備されているだけじゃ無い、熱センサーすら配備しているんだから。
少しずつ元に戻っていくレクターは周りをキョロキョロとしながら「でもさ…」と口を開き始める。
「にしては多すぎない? だって此所に人居ないんでしょ? 普段機械しか居ないならこんなにセキュリティを上げる必要ないでしょ」
「同意見。何故こんなにセキュリティを上げているんでしょうか? そこまで触れて欲しくない情報がどこかにあると言うことかしら?」
「かもしれないな。ソラ。どうなんだ?」
「分からないが、エコーロケーションで探れない場所が幾つかある。六階と七階だ。ここはエレベーターでは上り下りが出来ないようになっていて、五階から階段で上り下り出来るようになっているみたいだな。それも、五階のセキュリティの全てを管理している奴を捕まえてからだな」
「そうだね。五階で大人しくしている奴を捕まえて一階の装置まで連れて行けば全てのセキュリティを解除出来るようになるはずだから。分かっていると思うけど、壊さないようにね?」
俺達は皆でレクターの方を見ながら「だってさ」と告げておく。
これが一番の問題で、どんな機械なのかは言って見ないと分からない。
少なくともエコーロケーションで探した限りでは大型の機械こそ幾つかあったのだが、動き回っているような奴はいなかったように思う。
「ですが、どうして六階と七階はエコーロケーションで探すことが出来ないのでしょうか? 特殊な細工がしてるとか?」
「かもしれないな。それこそこの第三次世界大戦を左右する物かもしれないけれど…」
俺が思うその第三次世界大戦を左右するかもしれない兵器、それを六階や七階に格納しており、その行き来のためだけに五階をセキュリティルームにでもしたのだろうか?
ジュリがエレベーターをハッキングし中には居ることに成功した後、俺達は真っ直ぐ五階を目指す。
「しかし、この建物は本当に機械が支配をしているんですね」
「機械が人を支配した世界か…SF映画ではよく見る作品ではあるが、実際見るとわりかしヤバいよな…」
ゾッとする光景ではある。
実際機械となってしまった人は予めセキュリティから外さない限りは他の機械の管理下に置かれてしまう。
機械が「働け」と言われてしまえばそれに従うしかないし、機械が「戦え」と命令すれば戦うしか無いんだ。
命令通りに体が朽ちるまで動き続けるという寂しさ、それは人間が限界を体で感じ、『無理』だと叫ぶことが出来る一人の人間でしか無いからだろう。
「人は人。機械は機械だと思うんだけどな。機械は人の為に、人は機械の為にだ。それぞれの領分でそれぞれの役割を必死で全うするからこその世界だと思うんだけどな…俺は機械に権利が無いとは思えない。いつか機械にも人間と同じような知性を持ったとき、権利が与えられるかもしれないが…今はその時じゃ無い気がする」
ジュリが俺の名を呟きながらタブレットを持って居なかった左手でそっと俺の服の裾を掴む。
ブライトは何の話をしているのか全く理解が出来ておらず、俺は優しくブライトの頭を撫でてやる。
するとブライトはそれを気持ちよさそうにしていた。
「もし敵が居るのならメメントモリの手先と考えた方が良さそうだ。単純な機械かもと人間なのかは分からないが…見て見れば分かるだろ。そうだろ? エアロード」
「ああ。分かる。元人は呼吸などにその名残が残るから」
エレベーターのドアがそっと開き目の前には大きすぎるほどの大きなドアが存在し、そのドアを開けて貰おうと父さんに頼む。
すると父さんはそれを何の疑問も持たずに開けていくと、ドアの奥には一戸建ての建物ぐらいの大きさはありそうな巨大な機械がポンプやらケーブルなどが繋がった状態で動き続けている。
五階だけ大きめに作られているからなのだろうが、やけに大きく作られており上には鉄で出来た桟橋のような物が作られていた。
周囲にはサソリ型や鳥形の兵器が造られており、どれもが機械として兵器としての完成度は中々高そうだ。
「で? どれだ?」
ギルフォードは周囲を探し出しながら一旦足を止め、俺達もターゲットは誰なのか分からないままふと俺は上に動き回る小さい影を発見した。
小さすぎてイマイチエコーロケーションでも拾うことが出来ずに居たが、この階でこれだけ派手に動き回っているのはこいつだけだ。
それもかなり早い。
どこに向うつもりなのかと思ってエコーロケーションで精密に動きを見ていると、俺の背中にくっ付いていた師匠が小さく「目的はアベルだ」と呟いたので俺は緑星剣を呼びだして父さんにくっ付こうとしていた小さい影を吹っ飛ばす。
少し離れた場所に着地すると、俺達にもハッキリと分かるように小人は自らの名乗り始めた。
「私は此所を任されている『E109型』である。何故此所に来た。何よりも何故私の管理下に置かれていない機械がこの五階フロアの管理型を名乗っている? 私は君達に問う…何故だ?」
「ここに入ってくる為に造ったからな」
「そうか…ワザワザ機械になる人間がいるとは思わなかった。そこの機械がメメントモリサマが造ったあれを使って居るのなら型式番号があるはずだ」
「私ハ『S999型』デス」
「ふうん…特殊な型式番号。と言うか私が造っていない型式番号か…これならワイヤレスではハッキング出来ないな。誰かな? このような方法を造り出したのは…メメントモリ様からはそのような話を受けていない。しかし、ここまで来たと言うことは私の敵とみても良いのかな?」
「ああ。お前を捕まえてこの建物に居る人達を元に戻す」
「そうか。システムを反対にするためには私が居る。実験段階で実験体を元に戻す実験の為だったが…こんな形で狙われるとは思わなかった。だが…機械の何が悪い?」
E109型と名乗った小人は自らの持論展開し始めた。




