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ロシアを目指せ 10

 ジュリは差し出される暖かい紅茶を前に「ありがとうございます」と会釈をし、差し出した幼い双子の姉妹は笑顔で去って行くが、そんな双子の姉妹が来ているボロボロな服を前にジュリは少しだけ表情が険しくなる。

 その隣でアカシを抱きしめながら足をぶらつかせているのだが、ジュリの険しい顔を見て顔をしたから覗き込みながら「どうしたの?」と訪ねてきた。

 ジュリは笑顔を作り出して「何でも無いの」と微笑んでみたが、それでもこの村の惨状を前にしてどうしても笑顔になる事が出来ないが、アンヌはそんな村の子供達と家の前で遊んで上げており、それを窓越しに見ながらジャック・アールグレイは黙り込んでいる。

 双子の姉妹が「何飲む?」とロシア語で話すのだが、ジャック・アールグレイはもう慣れたのか「いや…いらない」と冷たく突き放す。

 双子はそんなジャック・アールグレイからスタスタと離れていき、リビングのテーブルに座っているジュリやアクアの方をジッと見つめる。

 すると母親はロシア語で「駄目よ。邪魔しちゃ」と双子の姉妹を叱りつけるのだが、それを見て居たジュリは「良いですよ」とこっちにいらっしゃいと言わんばかりに手招きする。

 すると、双子の姉妹の狙いはジュリの隣で座っているアクアとアカシだったようだ。

 実際二人は言葉は分からなくてもお互いに何を喋っているのか理解は出来たようで、そのままキャッキャとはしゃぎながら遊び始めた。


「ゴメンナサイね。この子達この村で生まれてから中々遊ぶという機会が無くて…」

「日本語上手ですね。学んでいたことが?」

「ええ。昔留学をしたことがあってね。惨めな村でしょ? そもそもこの辺りにはもう少し立派な街だって会ったのに、あのジェイドていう人が大統領になってから色々な事が変わり始めたの。主要都市に住んで良いのは軍に志願した家族と資産などを提供した者達だけが主要都市に住むことが出来て、それ以外は端っこの村や工場のある街なんかで監視付きで暮らすの」

「それでこの村はこんな感じなんですね?」

「ええ。こういう村は政府のやり方にそぐわない人達が集められているの」


 ジュリは家の外を時折確認をしているのだが、そんな中での会話からふと気がついてしまったことがある。

 この村にはどういうわけか男が居ないのだ。

 それに触れても良い物かどうかというのは正直悩みどころではあるが、聞きたいという気持ちをジュリもなかなか抑えられなかった。

 そんな中人の気持ちをイマイチ考えないジャック・アールグレイが唐突に訪ねた。


「この村には男は居ないのか? それとも出稼ぎに出かけているのか?」

「この村の外にある検問を突破出来るのはロシアの住民IDを持って居る男性だけです。この隣の区画には工場があって、そこで兵器開発をして居たはずです。そこで稼いでいる…はず」

「はず? 随分曖昧だな」

「もう…五、六年は会っていませんし…お金だけは定期的に入ってくるので生きているのは分かっていますが…人の形を留めているのかさえ…」


 ジュリとジャック・アールグレイは気になる単語を聞いた気がしてふと二人で問いかけ直す。


「どういう意味だ? 人の形を留めているのかさえっとは」

「まるで化け物になっているみたいな言い方ですけど…」

「今から二三年前になりますか…隣の区画から追い出されてきたという家族がいらっしゃったんですが、その家族の方が気になることを呟いたのです。向こうの街では人を見なかったと。居たのはひたすらロボットだけだったと」


 ジャック・アールグレイとジュリは脳裏に宿った嫌な予感に震え上がる。

 労働をさせるためにワザワザ人間とロボットに変えてたいうのか、しかし、そんな事をジェイドが許すとは思えない。

 どういう意味なのか考えているとアベルが家の中へと入ってきた。

 双子のお母さんが「何かお飲みになりますか?」と訪ねてきたのだが、アベルは「いや気を使わなくて結構だ。済まないな」とフォローまでしっかりとして席に座り込む。


「何処に行かれていたんですか?」

「いや…検問の近くまで見てきたのだが、やはり正面突破をすれば間違いなくこの村にまで被害が出るな。検問を突破するならやはり内側に潜り込む必要があるが…どうした?」

「実は…この隣の区画に向った男の人達と連絡が取れなくて、その上そこからやって来たという人が「向こうで人を見なかった」と…」

「ソラの話ではジェイドがそんな事をするとは思えないが、詳細な所まで指示が行き届いていないのかもしれないな。それに、例えお前達が想像している人外になっていると想定しても元に戻せる可能性は十分にあるだろ?」

「そうですね。それに今のソラ君なら多分ですが。だから安心してください。もしそうだ通しても私達が考えてみます」

「ありがとうございます! きっとラベール中の村は皆同じ気持ちだと思います…こんな村に押し込まれて大切な家族と離ればなれになって…無理矢理働かされている…」


 ジュリは奥さんの悲痛な気持ちが表しているのか、その表情は少々暗かった。

 そんな中でアクアがアカシや双子の姉妹と共に駆け寄ってきて、両手で作った折り紙の鶴を手渡してきた。

 ジュリはその鶴を受け取って笑顔で「ありがとう」とお礼を言う。


「どこで習ったの?」

「パパから習った! 鶴は千羽揃えると願いが叶うんだよね?」


 その話は海洋同盟に行く前にソラから聞いたことがある話で、ジュリはそれを聞き「そうだね」と言いながら「何を皆は願うの?」と聞いた。

 四人は「う~ん」と悩む素振りを見せながら笑顔で告げた。

 言葉も違う四人だが、何を言っているのかなんてジュリには分かってしまった。

 四人は同時にそれぞれの言葉で「平和」と叫んだ。

 それはきっと誰もが願っていることであった。


「もし…この国が自由になったらこの子達には好きな事をして欲しいんです」


 そんな言葉をちゃんと聞いていたのかどうかは分からないが、双子の姉妹とアクアとアカシはかけっこで元の場所に戻っていく。

 再び鶴を折り始めると、家の中に入ってきたアンヌと他の子供達も同じように折り始めていく。

 そんな姿を見ているなか、ジュリのスマフォが急に鳴り出すので驚いてしまうが、急いでスマフォを取り出して画面を見るとそこには『レクター』と書かれていた。


「もしもし? どうしたの?」

「見てみて! 滅茶苦茶高いよ!!」


 まるで見てくれないかと言わんばかりに画像に映し出されるのは高い場所から見える下の風景だったが、その画像の端っこにあるのはこの村の風景だった。

 画面で見るだけでも相当な高さだと分かるが、そんなところを平然と歩いている事が信じられない気持ちだった。

 それを外から見上げるのはジャック・アールグレイ。


「ならあそこ辺りだな。まだまだ遠そうだな…あの先にある支柱はどの辺にあるんだ?」

「え? 向こうの区画の支柱なら多分街の中心では無かったでしょうか? たしかそう聞きました…」

「え? 街の中心ですか? アベルさん」

「むう…そんな事は無いとは思うが…念には念を入れて我々も直ぐに動けるように準備だけはしておこう! 良いな? それと…ソラ。分かっているとは思うが騒ぎを起こすなよ」


 電話の向こう側では全員がレクターとエアロードの方を見るのが分かった。

 トラブルになりそうな人物が二名、大体トラブルになっているのはこの二人なので、向こうのメンツが心配するのは分からないでも無い。

 アベルは「まあガーランドが居るし」と思っていたが、それでもジュリは不安だった。

 あの二人がガーランドさんの言葉を真面目に聞くとは思えなかったからだ。


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