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深淵を覗く者 6

 彼らの気持ちをまるで理解出来ないのかと言えばそうでは無い、自分がどれだけ努力をしても越えられない壁や時にその壁にぶち当たった時に悔しさで足を止めそうになってしまう事もある。

 どんな人も壁にぶち当たった時にその衝撃から足を止めてしまうが大概の人間はそこで足が止まったままになってしまう。

 彼らのように、それ故に足を一度止めてそのままそれ故に憎しみを抱いてしまうケースも決して居ないわけじゃ無いんだ。

 実際彼らは足を止めてそのまま周囲に対して強い憎しみを抱いてしまった。

 強すぎる憎しみはとにかく誰かにぶつけたいという感情とそんな自分達に新しい答えを導いてくれる人を求めており、ベットは祖国に対して怒りと憎しみを抱きその感情に真っ直ぐに生きている。

 そんな気持ちは彼らからすればある意味指導者として理想的な姿であり、それを憧れとして見ている節があるのだろう。


 俺は真っ直ぐに走っていき緑星剣を握る両手を強くさせ、同時に斬るべき存在をしっかり見極めるため両目で敵全員を視界に捕らえると敵一人一人から伸びる青い光の糸が背中から伸びているのが見えた。

 あれが俺が斬るべき存在であり、俺はまず一人目の刀の振り下ろし攻撃をギリギリで回避して後ろに回り込みその糸を素早く切り裂く。

 その糸を切り裂くと切られた男は何か取り付いた物が消えた瞬間糸の切れた人形のように力なく地面に突っ伏す。

 確信が持てた。

 ベットは彼らの抱く憎しみや怒りを青龍のエネルギーを糸状にして操っているんだ。

 ゾンビを操っていたように、ベットは人の怒りや憎しみを意図的に増幅させて操っており、前ならあの建物を通じて操っていたのだろうが、恐らく吸収したエネルギーが増えた結果建物を使わなくても出来るようになったんだ。

 正確には直接操っているのでは無く、感情を増幅して自分の意図する形で戦わせる事が出来るようになったんだろう。


 俺がしたいことに気がついた海とレクターも走って近付いていく。

 レクターはアサルトライフルから放たれる銃弾を全て綺麗に打ち落とし、接近していくレクターの姿に戦慄を覚えたのか引き金を引いている男は顔面蒼白になっていった。

 すると背中から伸びている糸が揺らぎ始め、動揺と共に彼の感情を増幅させている能力が弱まったのかもしれない。

 俺はそんな彼の背中にある糸を振り向き様に切りつけ、同時にレクターは目の前の男性と反対側に向って鋭い蹴りをお見舞いし、武剛衆の一人の顔面が強めにけり掛かっていく。

 海も次々とやってくる武剛衆の攻撃をギリギリで回避しつつ動揺を誘えば良いと理解したのか、刀を使った風を纏った一撃を足下に向って飛ばして砂煙を上げて視界不良を作り出した。

 視界が悪くなったことでお互いに攻撃し合わないようにと警戒しているのが見えたとき、それが結果動揺になったと分かり俺は無撃の三ノ型である永延舞で連続で切りつけていく。

 ドンドン倒れていく隊員達に動揺が広がっていくのが分かったレクターとボウガン、二人で周囲の砂煙の無い部分の地面を強めに攻撃して砂煙を上げてく。

 視界がほぼ全域に向って広がった所で俺は永延舞をとにかく連続で続けていくのだが、やはり永延舞に限らず無撃は体への負担が大きい技しかない。

 体中に痛みが走っていき、微かにだが痛みを増していく中俺は痛みに耐え忍びながら全員の糸を切り裂いた。


「ハァ…ハァ……」

「大丈夫? ソラ?」

「大丈夫だ。やはり無撃は体の負担が強いな…環境を使う技と違って技そのものの威力はどうしても上げるには体そのものの負担が増えていくな」

「ふぅーん。そんなもの?」

「ああ。単純故に威力は身体能力を上げる必要があるんだよ。ある程度体付きをしっかりしている第二次成長期が完全に終わって二十歳になっているならともかくな…」

「無理も無いな。普通の人間の特に男性の第二次成長期は普通高校生程度と言われているからな。最も成長する時期だ。まだ体がしっかりして居ないのだろうな」


 ボウガンはそんな事を言いながら俺達に近付いていくが、俺はそんな事を一回一回気にしている余裕は一つも存在しない。

 下にある無間城の解放という目的があるボウガンはそっとベットのいるであろう更に下へと顔を向けた。

 一体ボウガンは何を思っているのか分からないが、俺達を置いて下への道へと進んで行く。


「お前達はここで休憩するか? それとも付いてくるか?」

「無論付いていくさ! お前達にあの無間城を使わせるわけには行かないんだ」

「ほう…そうか竜達か…流石に知っていたか」

「うん。受け継いだ記憶の中にあったから。この世界に現れたのは本当に僅かな時間、直ぐに始祖の竜がここに封じたと聞いたよ」

「ああ。その話を聞いていたウチのボスはここに四神を封印したという訳だ。ここの場所はまだ人間時代にしっかり聞いていたそうだからな」

「流石にお前は知らなかったと言う事か?」

「噂で聞いたことがある。なんでもあの婆…始祖の吸血鬼も来たことがある。恐らくその頃の資料はこのドイツにまだ残っていたのだろう」

「古い資料だよね? どうしてそんな資料がどうやって」


 ブライトがそんな疑問がやってくるとボウガンは鼻で笑って答えてくれた。


「資料と行っても別に紙な訳じゃ無い。異能を使えば色々な保存方法が存在するんだ。無論読み取ることが出来るのは同じような異能だけだがな」

「なるほどベットは青龍のエネルギーを回収する片手間でこの深淵へと向う方法を知ったと?」

「ああ。何せこの深淵の先は死者が向う場所でもある。始祖の吸血鬼はこの先の死者の世界で死竜を騙して死領の楔を奪ったとされているからだ」


 今明かされる衝撃の真実を前に俺達は驚きは隠せないでおり、ボウガンはそんな俺達を見てニヤリと笑いながら下の階へと降りていく。

 俺達も直ぐに追いかけようとしていくのだが、同時に俺達は下に鎖で縛られている無間城を見つめる。


「この深淵の向う先は死者の集まる生まれ変わる場所、死竜のテリトリーであり死竜はこの場所を通ってでないと現世にもあの世界にも行けないのさ」

「じゃあ死竜がこの世界に留まっている理由は…」

「そうだ。向こう側に変えるにはこの深淵を通るしか無い。だが、深淵を通るには深淵への道を空ける必要がある。その方法を正確に知るのは我々吸血鬼と竜達と皇族一家だけだ」

「皇族が知っている?」


 レクターが物凄く驚いて見せ、俺も海も動揺を隠せないでいた。


「ああ。皇族は元々始祖の竜と話をしたことのある一族の生き残りだ。他にもいるが後は……『ウルベクト家』と『袴着家』だけだ。そう……君だよ。最もどうやら北の近郊都市が滅んだときに無くなったようだな。まあ…皇族と帝城さえあれば深淵への道を開けるはずだ。最もこの深淵は不完全のようだが」


 そんな事を言いながらボウガンは下で鎖を縛られている無間城をジッと見つめて居た。

 一体何を思い、何を考えているのか俺達には分からなかったが、その顔はどこか憂鬱にも見えるし無気力さを感じているのかもしれない。


「本来の深淵とは?」

「下に降りるのにこんなに時間がかかるものじゃないし、何より死竜の道案内があればアッという間だ。これは始祖の吸血鬼が使った場所をそのまま活用したんだろう。君達が使うのなら帝城から降りた方が良い…」

「使うとは…」

「いいや使うさ。何せこの計画の最終段階はこの先にあるんだからな…だから覚えておけば良いさ…君の倒す敵は…そして不死皇帝との戦いの最終フィールドはこの先なのだから…」


 俺はジッと下を見つめ続けた。


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