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深淵を覗く者 5

 深淵の奥の近くでジッと下で大人しくしている無間城を見つめ続けているのはジェイドその人であり、この城をもう一度呼び戻すことに情熱を注いでいた人物。

 この城はかつてまだ帝国が存在しない頃始祖の竜と共にこの世界にやってきた存在であり、始祖の竜が長年この深淵の底に封印し続けてきた城。

 ジェイドですらもこの城をキチンと見たことが有るわけじゃない。

 この世界が生まれたときからまだ世界はたった一つだったそうだ。

 その時から様々な命がこの宇宙には満ちていたが、それでも命をキチンと与えられた存在は殆ど居なかった上、知性と呼ばれる存在は殆ど存在しなかった。

 そんな時始祖の竜がやって来て多くの生命に知性と世界を複数個作りだし、あらゆる生命に可能性を与えたのだ。


「始祖の竜…お前はこの状況すら読んでいたのか? それともこの状況はイレギュラーなのか? お前はこの深淵を俺に見せて何がしたかったんだ?」

「ボスに考える余地を与えたかったんじゃ無いのか?」

「フン。私が考え直すと? それこそ始祖の竜が考えない話だな。あれは世界に生きている命を試そうとしていた。我々は試されているのさ…このあらゆる世界に生きる生命には生きる『希望』があるのか、それとも『絶望』を選ぶのかをな」

「選ばせてどうするんだ? どうにも俺にはその始祖の竜の考えがまるで分からないな。ボスにそんな役割まで与えて」

「そういう奴だったんだ。俺に『不死殺しの剣』を与えたときもあくまでも『試す』と言い張っていたしな。それで? あの少年は入ってきたのか?」

「ああ。今はこの奥を目指して進んでいるよ。それで? アンタはどうするつもりだ?」


 ジェイドは腕を組んで悩み始めておりずっと「ウーン」と唸っているが、次第に何か思いついたのかボウガンの方をジッと見つめてくる。


「お前はあの男の元へと行け。私はカールに指示を出してから青龍を回収する手筈を整える事にするよ」

「どうするんだ? この建物でも吹っ飛ばさないと…おいおい…まさか…!? だからあれを準備したのか?」

「まさかだな…あれはアクトファイブが裏切った可能性や、もし不確定要素が発生した場合のもしもの手段があれだっただけだ。だが…この建物を吹っ飛ばす事ぐらいはしてくれそうだろ?」

「だが…下手なことをすれば事情の知らない彼らの仲間は邪魔をするんじゃないのか?」

「勿論彼らがある程度離れた時を狙ってやるさ…問題はやはりジェイドだな。あれを確実に始末する必要があるだろう。それが出来るのはあの少年だけだ。お前はあの少年が勝てるように万全の状態で戦わせろ」

「勝ってから奪うためにか?」

「ああ……俺達が彼らと戦う舞台は別に用意してあるんだ。ここで勝つ事に意味なんて存在しないよ。分かっているだろ? それよりお前こそ大丈夫なのか? 中国はお前にとって苦々しい思い出の地だろう?」

「あそこを思い出の地とした記憶は全く存在しない。あの女と出会った場所なんてな…俺はもう行くぞ。ベットとの戦いそこで眺めていれば良いさ」


 そう言って立ち去るボウガンの背をジッと見つめるジェイド、その背中で何を語るのかジェイドには何となく理解が出来ていた。


「それは思い出の地が嫌なんじゃなく、あの女が嫌なんだろ? 相も変わらず変わらん奴だな…どうしても振り切れないのか…ボウガン…いや名を失った者よ」



 俺達は下へとビルを飛び移りながらドンドン降りていくのだが、次第に近付いてくる無間城と呼ばれるあの城のでかさに驚いていた。

 恐らく帝城と同じぐらいであり、西暦世界には存在しないような大きさ。


「すげぇ…デッカ…ほんとまんま帝城みたいなデザインだな」


 レクターの感想も良く分かるもので、帝城は本来上下左右満遍なく均一になるように大きく造られており、まるでちょっとした山のような感じに見えるのだが、どうやら無間城はその逆のデザインをして居るようだ。

 それこそ渦巻きのようなデザインをしている無間城、デザインは赤と黒で塗り分けられておりそれこそ帝城の逆のようなデザインだ。


「帝城とは何もかもが逆ですね。色もデザインも…」

「だな。恐らくだが帝城そのものがそもそもあれをモチーフにしたのかもな。無間城がマイナスをモチーフにしたのなら、帝城はプラスをイメージして造られた可能性があるのかもしれない」

「そっか…そういう話だったもんな。だからデザインが逆と言うことか…」

「それより目の前にあれが見えてきたよ…」


 俺達の目の前に広がるのはベルリンの街並みをそのまま再現されいるような場所、大きな広場の中心には情報機関関係者や特殊部隊や武剛衆が待ち受けていた。

 俺達からすればまさかこのタイミングで戦いになるとは思わなかったが、この場においてもベットは居ない。

 ベットはまだ下に居ると言うことか?


「あんた達のリーダーであるベットはどうした?」

「あの人は更に下だ…今は青龍を完全に取り込むことに集中して居るような状態だ。これ以上君達の邪魔をされるわけには行かない」

「ほう…なら余計に邪魔したくなるな」


 そう言って俺達と敵の間にボウガンが瞬間移動で現場に現れた。

 和服の下に洋服を組み合わせたようなデザインの服を着て、敵を睨み付けるように現れた彼は何を考えているのか分からなかった。


「貴様は…」

「ウチのボスから君達の邪魔をするようにとの事だ。幾ら君達が百を超える数を揃えたとしても、この戦力を前に勝てるかな?」

「勝つ必要は無いのだ。あの人はこれからの世界を引っ張ってくれる人なのだから!! 我々のように無力な者達の代弁者になってくれる」

「代弁者!? そんな詭弁が通用すると思っているのか!? どんな言葉を取り繕っても関係の無い人を沢山殺しておいて、沢山の人を巻き込んでおいて…今更それが通用するとでも思うのか!? 幾ら不幸や絶望がその道を絶たせたのだとしても……それの不幸や絶望を他人に押しつけて良いわけじゃ無い!!」


 俺の言葉に彼らは動揺を隠しきれず、中には瞳を泳がせている人物もいる始末。


「それを知っているからこそ俺達はそんな思いをしないで済むようにと願いながら人を救うんだろ!? どうせ詭弁や綺麗事を語るなら『正しい』と思うこと、命を救うことにしておけよ! 復讐はお前達の心をらくにしてくれるかもしれない…でもな……同時に大切な思い出を殺すんだぞ!!!」


 俺の叫びに更に動揺する彼らだが、今更引く事も出来ないのだろう。

 ここまで来ておいて、彼らは自らの心と体を動かす『怒り』や『憎しみ』という感情をそのものを抑制することが全く出来ない。

 この深淵という場所に置いて負の感情は人一倍強く反応するのだ。

 俺は改めて決めた事、彼らの負の感情を強く結びつけるこの『深淵』から彼らを追い出すためにと『異能殺しの剣』を呼び出す。

 異能殺しの剣は物凄い音と雷を周りに放ちながら俺の右手に収まった。

 握りしめるその剣からはまるで俺の気持ちを、『誰かを救いたい』という思いと『彼らを止めたい』という願いを受け取ってくれているような気がする。


 そうだ…止めないと行けないんだ。

 怒りで戦う悲しさをこれ以上阻止する。


 この剣は『存在しない物』を斬る力があり、本来異能とはこの世において存在してはならない力である。

 見えない物や存在しない物を斬るのなら、彼らの憎しみや怒り、それに繋がっている深淵の力の繋がりを斬ることも出来るはずだ。


「来いよ!! お前達の怒りも憎しみも否定した上で救ってやるよ……!」


 俺は異能殺しの剣を両手で握りしめながら賭けだしていった。


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