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バンベルグの戦い 9

 機関銃男達をなんとか無傷で鎮圧してから俺は改めて余計な事を言ったレクターに対して睨み付けるのだが、レクターはまるで俺の話を聞いていないかのように口笛を吹きながら上の階を目指すために階段へと足を進めていく。

 口から禍が襲い掛かってくるこの男を果たして上の階へと連れて行くべきなのかと悩んでしまうが、その状況下ですら師匠は何か気になる事があるようで、俺と海は「どうしたの?」と訪ねる。

 すると師匠は諦めたように口をゆっくりと開き始めた。


「嫌な…まるで時間稼ぎのような気がして…ソラ…此所に向っているトラックはここに来るのか? もしかして…真っ直ぐ今向っていると言う事は無いのか? 私達に此所の情報を敢えて公開し、戦うようにと仕向けつつ本命は直接目的地へと向ったと言う事では無いのか?」

「………」


 その可能性を確かめる事が今の俺は出来なかったが、少しだけ考えて俺はアイデアを思い浮かんだ所で上の階から物凄い衝撃と共に部屋に誰かが侵入してきた。

 俺達全員はキッと睨み付けつつ粉塵越しに見えているシルエットは二メートルほどの大男、アサルトライフルなどを装備しており、それ以外にも武装をしている集団が複数人降りてきてその全員がガスマスクを付けているというフル武装である。

 全員で警戒態勢を整えていると目の前に現れたリーダー格の男がガスマスクを上にずらす。


「その顔…どうやら我々の目的に気がついてしまったようだな」

「まあな…あんた達は囮って訳だ。戦う前に聞きたい。何故命すら賭けてすらあんな奴に従う?」

「………我々は命令があれば誰でも戦うと言うだけだ。臆病風に吹かれている政治家なんて興味が無いのさ。積まなければならない経験がそこにあるのなら戦うまでさ」

「……これは訓練じゃ無いんだぞ。死ねばそれだけの実戦だ」

「だからこそだ…君こそどうして関係の無い人達のために命を賭けることが出来る」

「俺の憧れている人はそういう人だったからだ。どんな綺麗事だとしてもそれを受け入れて生きている。俺は俺のやり方で憧れに近付いていくだけさ…」


 俺は海とレクターの方をチラリと見てから俺は一旦目を瞑ってゆっくりと開ける。


「レクター…海…ここは任せる」


 そう言って俺は階段に向って駆けだしていき、リーダーと思われる男は急いで俺に向ってアサルトライフルの銃弾を叩き込もうとしてくるのだが、それを海とレクターが全て叩き落とした。

 俺は階段を急いで降りていく過程で裏口近くの道路に一台のトラックが近付いてくるのに気がついた。


「それか…! エアロード! 付いてくるか?」

「無論! ソラ! 飛んだ方が早いぞ!!」


 俺は「分かってる!」と叫んで急いで階段から離れていき、急いで窓ガラスから飛び降りてトラックが丁度裏口近くを通ったタイミングで壁を強めに蹴って道路近くの外壁へと着地。

 その状態で俺は超大型のトラックの荷台に捕まることに成功した。

 旧市街地を外れて移動していた三大のトラックが街から外れるように集結し、結果俺の前にもう二つのトラックが姿を現す。

 俺は超大型トラックの二台の上に飛び乗って俺は魔導の力で吸着し上手く立ち上がり、エコーロケーションで前方に向って走り出した。

 すると、二台目のトラックから一人の女性が姿を現して襲い掛かってきた。


「やはり飛び乗ったわね。ソラ・ウルベクト」

「有名だから知っているのか? それとも俺と戦ったことがあるからなのか? どっちだ?」

「両方よ…と言っても貴方は覚えていないでしょうけれど。まだ貴方が中学時代の話だからね」


 中学時代と言う事は俺がまだ三十九人を探しているときにどこかで出会ったと言うことだが、こんな女性と戦ったという記憶はまるで存在していない。

 どこだ?

 俺は記憶を探っていると、背中にくっ付いていた師匠と俺の隣で飛んでいるエアロードが何かに気がついた素振りを見せた。


「まだソラが中二の頃だな。この女は『武剛衆』とか言ったか? 南側にある都市でお前が三十九人を探していた時に戦っているぞ」


 俺はエアロードの言葉で思い出した。


「思い出したよ。確か共和国との戦争が佳境を迎えていたとき、帝都へのテロ容疑で街中で行動していた雇われ傭兵部隊である旧刀をしようした一族」

「ええ。貴方にバレて結果私達は解散状態、共和国の戦争が完全に敗北という形で終わった事もあり私達の立場は危ぶまれた。そんな時世界が繋がった…それは私達からすれば助かる事態でもあったのよ」

「そうか…ドイツの特殊部隊の半分ほどは『武剛衆』の残党か…それで向こう側の戦い方が混じっているわけだ」

「無論それだけじゃ無いわ。中には向こう側で立場を失った者達なんかも誘ったのよ。ベットがね。彼もまた立場を奪われた立場だったからね」

「俺は同意出来かねるな…それも戦争時に選んだ結果だったはずだ。それで俺達ガイノス帝国を恨むなら分かるが、だからと言って恨みの結果関係の無い人を巻き込む理由にはならない」

「フン…相も変わらずなお子ちゃまね。何も変わらない…」


 大人な態度から分かるように彼女は三十代後半の年齢で、かなりの実力者だったが俺は直接対峙したことはあまりなかった。

 たしか、あの時は師匠が途中で乱入し彼女と戦っていたはずだし、俺は彼女の名前を聞く前にそれ以外の残党と戦っていたはずだ。

 最もそこまで激しい戦闘でも無かったので俺としてはあまり印象のある事件では無かった。

 と言うよりはあの時はまだ師匠が苦手な時期だったから、現場に現れた時点で悲鳴を上げてどこかへと去って行ったと記憶している。


「戦場では死ぬか生きるかの二択。その状況で誰かを救いたい? 誰かを護りたい? 例えそれが出来たとしても人を殺して綺麗事を吐き出す人間を信用できると?」

「………フン」

「何がおかしいわけ?」

「汚れたい。戦って価値を見出されたい。私利私欲のために戦いを挑むという人間の考え方は理解出来ないんだよ」

「やっぱり頭がおかしいのね」

「かもな。俺は…俺達は例え綺麗事だと言われても真っ直ぐに生きたいんだよ。俺達は戦場で苦しむ、奪われた人を守る事が俺達の生きる理由なんだから」


 その時彼女の瞳にはもしかしたら俺と師匠が重なって見えたのかもしれない。

 実際彼女は俺を見てボソリと『アックス・ガーランド』と呟いた。


「やっぱりアンタを殺す事があの男の意志を潰すことに繋がるのかもしれないわね。私は『アン』よ。死ぬ前に覚えておきなさい」

「アンタを倒して拘束する! 竜撃! 風の型! 風見鶏!!」


 俺は風の斬撃を纏った状態で彼女に斬りかかり、彼女は風の刃に触れないようにと俺の攻撃を見極めながら細かく回避しつつ力一杯斬りかかっていく。

 刀を抜き出して俺に向って風の刃を纏った一撃を振り下ろすと、攻撃を風の刃で受け止めつつ見えない剣で切りつける。

 アンは俺の見えない剣の攻撃を直感で回避する。


「ここから先一人で全部回避しようというの?」

「それぞれがそれぞれの場所で戦って、己の立場を全うしているんだ。俺は俺の責務を全うするまでだ。お前達を倒して青龍を守り切る!」

「歯が痒くなるような言葉をアッサリと口から吐き出す男ね」

「アンタみたいに罪深い人物になるつもりも無いんだよ。自分の名声の為に戦争をしていても誰も認めてくれないぞ」

「気持ち悪いのよ! アンタもアックス・ガーランドも! 誰かを護ってそれが勝利だと思っている馬鹿野郎なんてね!」

「勝ち誇っているつもりで負ける女には理解出来ないかもな。俺と師匠の本当の気持ちと苦悩なんてな…」


 バンベルグの戦いは静かに別の所へと移り変わろうとしていた。


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