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太陽な微笑みと共に 9

 バイクで走ること約一時間が経過し俺達三人とブライトとエアロードと師匠はベルリンから離れた小さな街で一旦休憩を取っていた。

 ここから距離の離れた場所に向うのだから休憩を適度に取らないと、海やレクターは長距離を走ったことが無い。

 カラスに関してはお店の外のバイクを止まり木代わりにしながら周りをキョロキョロしているのだが、あれは人を食わないのだろうかと少々心配になるが、どうやら杞憂であるらしくまるで襲う気配を見せない。

 正直寝ていないのでここでちゃんと食事を取らないと眠気に負けそうな気がしてならない。

 ブライトもエアロードですらも眠そうに目を擦りながら食事の席に座り、俺達は適当な料理を並べてから一息つく。

 ジュリから「今からイギリスに向う」とメッセージが来たので「アクアに宜しく」とだけ伝えておいた。

 するとレクターが覗き込んでくるので俺は鬱陶しいという顔で返した。


「何々!? 彼女!?」

「お前はこの状況で…て言うか海でも眠そうにしているのにお前はどうして元気なんだ?」

「俺は三日ぐらいなら徹夜できますよ! それより彼女はなんと!?」

「お前もしかして今日一日その面倒臭そうなテンションを続けるのならアイアンクローだぞ。ジュリはイギリスに行くってさ」

「あっちも佳境?」

「多分皆今日の夜には決着だな。こっちは分からんがな…」


 ブライトが大きく欠伸をして眠そうに頭を左右に振っているのだが、あのままだと食事をして居る最中にそのままお皿にダイブしかねない。

 俺はブライトに「寝ても良いぞ」と言っておいたが、あれで頑固なところがあるので「大丈夫」と言えば意見を変えないのだ。

 エアロードも大きく欠伸をしてはため息を吐き出し、何かを取り出すと小さなプラスチックの箱を取り出した。

 中から錠のような薬に見える『何か』を取り出して口の中に放り込む、すると目が大きく開いて一気に目が覚め始めた。


「何々? それってヤバい薬?」

「ガイノス帝国製の激眠気覚まし…貴方を新境地へと…と書いてあるぞ」


 何やらヤバげな気配を感じないでも無い売り文句だし、何よりも眠気覚ましで『新境地』へと連れて行って欲しくない。

 一体何処で買ったんだと疑問に思わなくも無いのだが、師匠がじっとそれを見てぼそりと呟いた。


「ああ。あの眠気覚ましか…どこぞの大学院の生徒が徹夜で勉強するためだけに開発したと言われている強力な眠気覚まし。反動が無いように作った手前物凄くまずいと噂の。アベルが「一口食べたら一生食べたくない」と誓えるほどのまずさだとか…」


 食べたくねぇ!

 何だろう副作用が無いのは普通に安堵したけれど、その代わり物凄くまずいと聞かされると余計に怖く感じる。

 レクターが興味津々に「一口頂戴」と言って右手を伸ばし、そのまま一錠だけ口の中に放り込むとそのまま口を押さえて蹲る。

 あのレクターを一撃で倒すほどの強烈な眠気覚まし、なんでそんな眠気覚ましを食べてあいつは普通でいられるんだ?

 どうやらブライトも興味が出てきたらしくレクターと同じく手を伸ばしてそのまま口に入れると別にまずいという反応を見せない。


「大丈夫だよ! 美味しくは無いけど不味くも無い!」

「嘘だ! 滅茶苦茶不味かった! 食べたことを一瞬で後悔したわ! なんだよまだゲロの方がマシと思わせるほどの味…タイヤとアスファルトと鉄を混ぜたような味は」


 何だろう…先ほどのたとえの中にまともな食材が混じっていなかったと言いたいが、どうやらある程度本気で言っているようなので下手に突っ込めない。

 とにかく『不味かった』と言う想いだけはきっちりと理解が出来たので俺と海も躊躇いを覚えてしまう。

 正直な話食べたいとは全く思わないが、かと言って興味が無いのかと言われたらそれも無い。

 あれだけ言われると少しばかり興味が生まれてしまうし、何よりもそれで眠気が吹っ飛ぶのならと思って手を伸ばす。

 右手の平にぽつんと置かれた眠気覚まし、正直食べることに未だに躊躇いを覚えるのだが俺は意を決して口の中へと放り込む。


 食べた瞬間後悔した。


 何というか………辛いとか甘いとか苦いとかあらゆる味の全てを集約し濃縮したあと味覚の感覚を暴走させたような感じ。まず辛いが来てそのまま表現する間も与えず甘いと苦いが同時にやってくるんだ。

 これを開発した奴絶対に馬鹿だろ。

 確かに眠気が吹っ飛ぶわ!

 そしてなんでブライトとエアロードはこれを普通に食べられる!?


「恐らくだが竜と人間の味覚の違いだろ。我々人間には『激マズ』でも竜には『普通』と感じ方なのだろう」

「だからって……なんでこんな感じのあらゆる味覚を全て攻めてくるんだ? これを開発した奴…絶対に馬鹿だろ!」


 海も最後まで躊躇っていたが、最後は意を決したように口の放り込みうつ伏せで倒れる。

 滅茶苦茶良く分かる光景であり、これをカラスに与えたら即死するのではと思った今日この頃である。


 一旦水を何杯も飲んでお口直しを図り、ようやく回復してから息を整え直す。


「はぁ…ヤバかった…もう一生食べないわ。これを食べるぐらいなら俺はちゃんと寝ることを此所で宣言する」

「それは良かった。睡眠は休息で一番大事な事だからな。寝ること人は成長するんだ。背を伸ばしたいのならよく食べてよく寝るのが大事だ」

「じゃあ俺が筋骨隆々になるには食べてよく寝れば良いわけ!? 何か言って!! 黙らないで!!」


 レクターの希望がそんな事で叶うわけが無いので、エアロードを含めて全員が『こいつ可哀想に』みたいな顔で見てやると涙目で訴えてきた。

 だってそれは別問題な気がするし、お前の細マッチョ問題は誰にも解決できないと思うもん。

 きっと家系的な問題だよと思うが、そんな事を言えば泣くと思うので黙っていると流石師匠だった。


「家系的な問題だろ。体格なんて家系で色濃く分かれるものだからな。諦めろ」

「うわぁーん!! ガーランドさんが虐めた!!」

「と言われてもな。私の死んだ同級生にも同じ意見の奴がいたな…もっと筋肉を付けたいのにどれだけ食べて筋トレをしても全く付かないのだと…女だったが」


 最後の一言が余計だった気がしたけれど、それはこう…諦めた方が良いのではと思わなくも無いが、よく考えると女性でも筋骨隆々な人間なんているだろうから関係は無い。

 しかし、女性が筋骨隆々な人間って軍の中で何処に向うのだろうか。


「でもさ世の中的には細マッチョぐらいがモテるんじゃ無いか? 偏見かもしれないが…一般的に「格好いい」って言われるレベルはそれぐらいだろ?」

「何言っているんだ! ガーランドさんだってモテるじゃん!! 滅茶苦茶モテるじゃん!」

「知らんが? モテるのか? 私はまるで把握していないのだが」

「レクターが勝手に言っているだけだから父さんが気にする必要は無いと思うよ」

「人気とモテるは別問題だぞ。と言うかモテたい訳でもないだろうけど…なんでそこまで筋肉が欲しい?」

「…………格好いいじゃん!!」


 一周回って清々しいと思うほどの単純な理由をありがとうと返しておく。

 しかし、どれだけ頑張っても家系上の問題である以上俺達が何を言っても無駄な気がする。


「なんでお前達はそんなに元気なんだ? 私は早く食事を堪能したいだけの為に眠気覚ましを食べただけなのだが…?」

「エアロードはそんな理由で食べたのか? お前はどれだけ食欲に貪欲なんだ…」

「何を言う食欲は人間の三大欲求の一つだろ!?」

「お前は人間じゃ無いけどな…竜だし。まあそれを言われたら反論の余地はないけれどさ…でもお前三大欲求のうち食欲だけだよな?」


 エアロードは偉そうに胸を張りながら一言だけ告げる。


「無論」


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