太陽な微笑みと共に 4
俺は少しぐらい師匠には耐えて欲しかったが、残念な事に師匠のレクターへの怒りの方が圧倒的なほど勝ってしまったらしく、あとで自分で話すと言っては居たが何というか残念な結果になった。
レクターとエアロードは正座した状態で師匠からきっちり説教を受けており、海との感動的な再会が台無しだったりするのだが、俺と海とブライトは諦めており、師匠が説教をして居る間に中にいる人達を避難させていく。
彼らの発言上どうやらこの建物には設計段階で色々と手が加わっており、十一階から上は誰も知らないとのこと。
特に重要なのは十五階らしく、底に侵入するには一回二十階まで上がってから直通のエレベーターに乗る必要がある。
セキュリティに関してはジュリがエルメスさんと一緒に解除したらしいが、ジュリ曰く屋上からの侵入者もいるようで、こちらは恐らくボウガンだろうと言うことは想像出来た。
「じゃあボウガンも殺すために?」
「だろうな。この状況は不死の軍団も想定外。最後の四神を勝手に利用しているし、何よりも不用意な犠牲者を出しかねないこの状況は静観できないのだろう」
「だね。僕たちも急ごう。あそこのエレベーターは十階までしか行けないからまずはそこまで行こうよ」
「そうだね。でも…」
海の目は自然と説教をしている師匠とそれを受けているレクターとエアロードの方へと向き、俺とブライトも同じ気持ちでそれを見守っていた。
正直そろそろ動き出したいのだが、ここ数日レクターやエアロードの傍若無人な振る舞いが目に余ったようで、全ての苛立ちをぶつけている。
海が今何を考えているのか詳細までを俺は知らないが、でも感動の再会とまでは行かなかったのだが、あいつにはいつも驚きを隠せないで居る。
何というか、師匠に気がついたときからずっと考えていたことだが、なんであいつは色々と凄いのだろう。
「悪いな。師匠から「話さなくて良い」と言われてな」
「良いです。なんとなくそうだろうなって思って居ます。正直父らしいと思って、何というかあまりにも他人を思いやりが強いからこそそれを理解されにくい部分があるというか」
「そういう人?」
「ああ。俺も最初は怖い人だって思っていたぐらいだし。不器用なんだよな。父さんみたいにストレートならまだマシ…いいやあれも問題だな」
「アベルさんの場合は欲望に忠実なんだよね。ソラに似ていないって言うか…」
「いやブライト。ソラも大概欲望に忠実なところがあるからさ。剣道を始めたときもそうだけど」
「そうなんだ。と言う事はアベルさんのレベルが高いだけ?」
「まあ……レベルがハイレベル過ぎて誰にも同意されないだけだな。少しぐらい落ち着いて欲しいとは思うけどな…」
そろそろ上がりたいと思っていた所で師匠が二人を引き連れて現れ、俺達は改めて上へと向って歩いて行く事に。
エレベーターに乗って一回十階まで昇ってから次に上に登る方法を探すためにまず左右を見守るのだが、何というか情報機関という割にはそういう雰囲気をまるで感じさせない建物だな。
「明らかに情報機関という建前だけは護るけど、基本関係の無い建物だという事を証明する為に建物だな…」
「師匠の意見に完全同意。昇る手段を探さないとな…外壁には特に移動する手段が無いから他にあると言うことだろうし…エコーロケーションで探してみてもエレベーターが一つしか無いんだけど…」
「じゃあそこに行くしか無いんじゃ無い?」
不貞腐れているレクターだが、残念な事に自業自得なのでフォローはしないで居ることにした。
エレベーターが目的地である十五階までまっすぐ行ければ良いのだが、辿り着いたエレベーターも二十階まで直通だったりする。
「エコーロケーションで見てみたけど…十一階から十九階までは吹き抜けになっているな。屋上から二、三階下までも吹き抜けだけど…」
「凄い建物ですね。普通じゃ無いというのは分かりましたけど…でもそんな場所を何に使うんですかね?」
「世界樹の根だからな。エネルギーを貯蓄などが目的なんだろ」
「でも、十五階相当には何か…大きなコンピューターかな? がある」
「それってスーパーコンピューター?」
レクターがそんな事を聞いてくるので俺は敢えて聞き返す。
「そもそもお前はスーパーコンピューターって知っているのか?」
「知らない。でも…こう…大きいんだろ?」
「ハァ…あれは大型のコンピューターのサーバーを大量に繋げて並列動作で処理能力や演算能力を上昇させているんだ。俺が言っている大きいというのは単純な大きさだ。支柱を中心に小型の飛行機ぐらいの大きさのコンピューターがあるんだ」
「それってコンピューターなの? 違うんじゃ無い?」
「エコーロケーションで中を見通したんだ。あんな精密機器の集まりなんて俺にはコンピューターぐらいしか知らないぞ。それに画面まで備え付けられているんだ」
「それならコンピューターで違いないな。しかし、コンピューターとはサーバーを超大型にした程度で処理能力が上がる物なのか? 私もあまり良くは知らんが?」
師匠からそんな事を聞かれても俺も詳しくないから答えられないで居ると、通信機越しにジュリが「なりますよ」と答えてくれた。
『でも並列で同時に動作を繰り返した方が性能が上ですけど。これは分かりやすく言ってしまえば一人で一時間作業するのと十人で作業をするのでは効率は違いますよね? スーパーコンピューターの原理はそういうことです。ですが、ソラ君が言うタイプは単純にスペックを上げているのだと思います』
「じゃあ、この場合も処理能力は高いけどスーパーコンピューターの方が優れているって事か?」
『理論上はね。勿論それを超える可能性が無い訳じゃ無いからなんとも言えないけど…て言うかさっきセキュリティを解除したときに見たけど、十五階にはネットワークは繋がっていないはずだよ。スーパーコンピューターは九階に配置されているから』
「? じゃああれは何? 俺のエコーロケーションに反応している大きすぎるコンピューター擬きは?」
俺は首を傾げながらエレベーターに乗る。
精密機器の集まりだぞあれ、ネットワークで繋がっていないなら何の為に…と思って居ると考え込んでいたブライトが発現した。
「エネルギーを使ったネットワークじゃないかな? 人で例えたら脳波のネットワークみたいなものかな? 四神から奪ったエネルギーを使って魔導のネットワークを造ったんだよ」
「それって凄いわけ?」
「凄いよ。繋げた人の脳を勝手に利用して演算を繰り返しているんだよ。繋げた人の数が多ければ多いほどスーパーコンピューターなんてあっという間に超えるはずだよ」
「なあ…ブライト。それは繋げた人間は分かる物なのか?」
「ううん。それをしたら事件になるから多分気がつかないと思う。あくまでも使って居ない人間の脳領域を勝手に使っているんだよ。使って居る人間にある程度制限のような物があるとは思うけど…」
「その為に四神でも在るんだろうけれど…その上で何をしたいのか? と言う事だな…四神という強大なエネルギー、高度な演算、人を超える存在になって行う復讐か…嫌な予感しかしないけど」
「だね。止めないと…多分あくまでも実験なんだともうよ。一人で乗り込んで襲うより纏めて吹っ飛ばした方が楽そうだもんね」
ブライトの言い分も分かる話で、それこそが敵の目的なのだろう。
なら尚更それを阻止する必要があるし、ここで敵の思惑通りになれば傷つくのはエルメスさんだ。




